○ビリー・カタギリ編
榛色の長髪を後ろで結わえた男は、大きな箱を手ににこやかに微笑んだ。
「やあ、グラハム」
「カタギリ! そういえば今日は休みだったな、体調でも崩したのか?」
ぱたぱたと駆け寄ってくるグラハムに、眼鏡の技術顧問は苦笑を浮かべた。
「いいやまさか。これ作ってて遅くなったんだ」
「これは……?」
首を傾げるグラハムに、ビリーはにっこりと微笑んだ。
「ニール君と食べてよ」
「いや、カタギリ、この中身は……」
「ええと、ドーナツ?」
なんだ、その疑問符は。
ぴきぃん、とニュータイプの感応の光のような白い稲妻がグラハムの背後に走る。
この技術顧問には、時折思い出したようにマッドサイエンティストごっこをする悪い癖があるのだ。
しかも困ったことに本当に天賦の才があるので、本当にヤバイものを作ったりするので油断が出来ない。
「……カタギリ、君に問おう。なぜ疑問符が付くのだね」
「細かいことは気にしちゃダメだよ」
「いいや気にする、私は繊細な乙女座の男だ」
「神経質の間違いじゃないかな?」
「見解の相違だ」
「僕は常に君と同じ未来を見ているつもりだよグラハム」
じりじりと箱を手に押し問答をしていたグラハムとビリーだったが、やがてビリーが諦めたようにため息を吐く。
「仕方ないね、実はさ、君がバレンタインデーに研究室に置き去りにしてってくれたチョコレートの大箱。あれのお陰で糖分補給が随分役立ったんだ。それのお礼をしようと思って。ほら今日ホワイトデーだしさ」
「そうか、君の気持ちは有り難く受け取ろう、盟友よ。そのドーナツの姿を借りた謎の物体は研究室で処分……」
「これさ、媚薬なんだよね」
ぴたり、とグラハムの動きが止まった。
「媚薬……?」
「そうそう。名付けて、『オンナノコだけじゃないオトコノコだって恋をしたときから知らず知らず使ってしまうマジック☆スーパーラブローションDX!!』略して媚薬DX!!」
「カタギリ、その正式名称と略称と私は先にどっちに突っ込めばいいのだ」
「そうだね、ニール君に……」
「君が下ネタを言うとは珍しいな!」
流石のグラハムが徹夜テンションなのかなんなのか分からないビリーの発言を遮ると、ビリーはこの日一番の笑顔を浮かべて言い放った。
「今夜はときめき☆トゥナイトだねグラハム!」
「……」
良い笑顔をして、それが言いたかっただけか、その割になんだこの壮大な仕掛け、とかなりの脱力を覚えつつ、最早拒否する気力も使い果たしたグラハムはビリーの差し出す「媚薬」とやらを受け取って家路についたのだった。
その後、ビリーの生み出した妖しげな「媚薬」が本当に効いたかどうかは、翌朝ベッドの中で搾りカス状態でぐったりしていたグラハムだけが知っていることであった。
―――MISSION COMPLETE.
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