○ライル・ディランディ編

 恋人と瓜二つの顔に、グラハムは正直に驚きながら男の名前を呼んだ。

「ライル・ディランディ」
「よお、久しぶりだな。……っても、一ヶ月か」

 あの節はチョコレートありがとうよ、帰ったら女子チームがえらいこと喜んでくれたぜ、とにっこり微笑みながら言われて、グラハムは釣られたように微笑んだ。
 元々、グラハムはこの造りの顔には酷く甘い自覚がある。

「いや、こちらこそ、押しつけてしまってすまなかった」
「で、まあ礼って程じゃねえが、旨いウィスキーとチーズを手に入れたんでね、お裾分けだ」

 ほら、と手渡された素っ気ない紙包みから覗くボトルのキャップを見て、グラハムは呟いた。

「珍しい酒だ。……わざわざ、アイルランドまで行ってきたのか」

 このご時世には珍しく、国外には一切出していないという小さな醸造所の酒であった。
 何故グラハムが知っているかと言うと、ニールが雑誌か何かで見付けて、いいなあ、もう何年も飲んでない、とため息混じりに呟いていたからだが。
 つまり、ニールが好む銘柄のウイスキーだった。まさかグラハムが知っていると思わなかったらしいライルが、慌てたように言い訳をする。

「いや、たまたま、墓参りに行ったついで、っつーか、なんで知って、って、兄さんそんな事まで!?」

 二人の父親が好きだった銘柄の酒だった。ライルの表情が曇ったのを察したグラハムが気遣わしげな顔をする。

「……なにか、想い出の銘柄だったのだろうか」

 部外者の自分が踏み込んではいけないような。グラハムの顔を見て、ライルは苦笑した。

「いやいや、兄さんが家族ごっこが出来る相手がいてくれて、有り難い限りだよ。……こちとら、不義理が過ぎて何をしていいか分かんねえくらいだし」

 グラハムは口を噤んだ。ニールも、この双子の弟との、形成途中の新しい距離感を掴みかねているのを感じ取っていた所為だ。

「君たち二人とも、スナイパーの癖に距離を取るのが下手だな」

 不器用すぎる兄弟の絆に、思ったままを口にすると、鳶色の癖毛の男は青い瞳をくるりと回して肩を竦める。

「言うねえ。……でもまあ、そうかもな」

 それじゃ、確かに渡したぜ、と、グラハム宛の姿を借りた、これはきっとニール宛のプレゼントを渡した弟はくるりと背中を向け、革手袋をした手をひらりと振ってみせた。

「……」

 グラハムはしばし考えた後、ひとつ深呼吸をすると、鳶色の癖毛の背中に声を掛けた。

「……その、ライル君、よければこのまま一緒に家に来ないか? こんなに二人では消費し切れんよ、手伝って欲しい」

 驚いた顔でライルが振り向く。

「えっ? だけど、……あんた」
「ニールもきっと君の顔を見て喜ぶ、……さあ」

 早く、と今にも腕を掴みかねないグラハムに、ライルは呆れた顔をしながら、あんたって本当にお人好しだな、とだけ呟いていた。

 二人きりの夜にはならないだろうが、ニールはきっとグラハムからのこのホワイトデーの贈り物を喜んでくれる。

 そう思ったグラハムは、前以上にしっかりとした足取りで、客人と共に自宅へ向かったのだった。





―――MISSION FAILED, BUT HAPPY END !!




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