○アリー・アル・サーシェス編

「よぉ、ユニオンのエース様は元気そうだなぁ?」

 背後からかかった声に、グラハムは愕然として振り返った。

「アリー・アル・サーシェス……!!」

 赤褐色の長い髪を後ろで纏め、スーツ姿をしていたが、それは紛れもなく、ニールの仇敵、元PMCトラストの傭兵、アリー・アル・サーシェスだった。
 グラハムは油断なく身構える。手持ちの武装はないが、いざとなれば体術でどうにかする自信はあった。

「何の用があって私に声を掛けた?」
「決まってんだろ? 今日はホワイトデーじゃねえか!」

 堂々と叫ばれて、グラハムは数回瞬きをして、ホワイトデー? と不審そうに呟いた。

「まさか、ニー……ロックオン・ストラトスを狙って来たのか」

 どう考えても口実としか思えない来訪理由に、グラハムが警戒しながら言うと、アリーはその問いをせせら笑った。

「へっ。野郎がどうしてるかなんて興味もねえ、俺はただ、受けた義理は返す口でね!」
「待て、私はいつ貴様に義理を」
「覚えてねえってのか!? てめえ一ヶ月前の演習の時、向かってきたモビルスーツを蹴り飛ばしただろう! そいつが蹌踉めいた弾みで引いちまったトリガーの所為で跳ねた跳弾が先の岩に当たって跳ね返って、丁度俺様を狙っていたスナイパーの銃をはね飛ばしてくれたじゃねえか!」

 グラハムの脳裏を「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺が駆け抜けた。むしろ義理というより言いがかりに近い。
 唖然としているグラハムに、だからよぉ、とアリーは男臭い笑みを浮かべながら近づいてきた。

「さぁ、さくっと受け取れよ、俺様の気持ちってやつをよぉ?」
「断固辞退する!」
「そうつれねえこと言うなって、なんだったらあの野郎も入れて三人でも俺は一向に構わねえぜ?」
「私が! 構う!!」
「前に後ろに上に下に、酒池肉林のパラダイスってやつだ!」
「そんなもの私は望んでいない!」
「いいじゃねえか、新しい世界の扉を開けちまえばよ。……なんだったら、ちょっと行ってあのクルジスの餓鬼も引っさらって来ようか?」
「……っ、そんな誘惑に私は屈しない!」
「今ちょっと心動きかかっただろ、言ってみろよ」

 ほらほら、とサーシェスに詰め寄られ、防戦一方になったグラハムが、果たして傭兵の誘惑を振り切って帰宅できたかどうかは、杳として知れないのであった。





―――MISSION FAILED...?



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