○ティエリア・アーデ編
「久しぶりだな、グラハム・エーカー」
道の真ん中に立ちはだかる、紫紺の髪に眼鏡をかけた青年の姿を見て、グラハムは思い切り瞬きをした。
「確かに久しぶりだが……ニールは家の方だ」
ティエリアが用事があるとすれば、自分ではなく確実にニールだろうと思い込んでいるグラハムはそういう風に返事をしたのだが。
「生憎だが、僕が用事があるのは貴様の方だ、グラハム・エーカー」
「私に?」
「そうだ。ヴェーダで試算、予測された未来のことで、貴様に話がある」
厳しい顔で言われて、グラハムはそれはいいが、と呟く。
「立ち話もなんだし、一緒に家に来て、ニールの顔でも見て」
「そのロックオン・ストラトスにも関する話だ!」
激昂したように言われ、グラハムは口を噤んだ。自分もよく突拍子もない言動が多いと言われるが、この眼鏡の青年ほどではない気がする。
そうか、それでニールは私の扱いに長けているのだな、等と妙な納得をしているグラハムに向かい、ティエリアは話し始めた。
「まず、先月貴様から貰ったチョコレートの話だ」
「ああ、たまたま貰ってくれて有り難かっ……」
「その事だ。あの日は、バレンタインデーと言って、男性から女性に愛の贈り物をする日だと知った」
「……」
なんとなく先の雲行きが読めた天性のファイター・パイロットは、小さくため息を吐いた。
「あれは、義理のようなもので……」
「義理だと!? 貴様は義理で本来ニール・ディランディに全て向かうべき愛情を他者に分け与えるのか!?」
憤慨するティエリアに、グラハムはそうだな、と少し考えながら呟いた。
その後で、にこりと青年に向かって微笑みかける。
「では、私がいかにニール・ディランディに愛情の全てを注いでいるかを確かめに来るといい」
「確かめ……?」
「実地調査というやつだ。フィールドワークなしで、きちんとした実証データは取れまい」
「わかった……ではこの僕が貴様を直々に否定してやる!」
さあ、とやや強引にティエリアを連れて帰ったグラハムだったが。
ティエリアに君への愛情を証明しなければならないと迫ってくるグラハムと、この男は浮気の可能性がある、幾ら僕が美青年設定が強いとはいえ、チョコレートを贈るとは、と主張を続けるティエリアの板挟みになって、結局一番困ったことになったのは当のニールだけなのであった。
―――MISSION FAILED.
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