『如月の涙珠 (後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 このとっても性格と口の悪い女性が、メフィスト二世の初恋の人だって?ふざけんじゃないよっ!あいつは一体どーゆー好みをしているんだ?そう思ってチラリと彼を見る。

「ゲルダ・・・懐かしいなぁ。何年ぶりだろう。お前に会うのは。」

「もう・・・三・四年になりますわね。」

 メフィスト二世に笑いかける。あ。キレーなんだなぁ。・・・・・・メフィスト二世もとろーんとしてる。ふーん。『恋は盲目ってあながち嘘でもないんだな。』と心で呟く。邪魔になるといけないから出ていこうか、とノブに手を伸ばした瞬間―――――

「悪魔くんっ!!」

 慌ただしく幽子が入ってくる。ゲルダとメフィスト二世を見てちょっと眉を吊り上げたが・・・・・・すぐにこっちを向いて話し始めた。

「大変なのよ・・・変な雲が空一面に!!」

「何?!」

 幽子と外に出ると、人間界で見た、あの七色の雲だった。しかしずっと禍々しく、奇妙にぬらぬらと光っていた。その様子は阿鼻地獄のようだった。僕は気持ち悪くなって、口を手で押さえて下を向いてしまった。メフィスト二世も青ざめている。

「止めてくれよ、オイ・・・誰だよ、こんな趣味の悪い雲・・・」

「同感だね。」

 でも、やがて僕は気付いた。それが「闇」だということに。闇は形を取り始め、この世のモノとは思えぬシルエットが出来る。

「―――――マンガラング・グーリング・ベルー・・・・・・・」

 そこにはインドネシアで恐れられている悪魔の姿があった。メフィスト二世がまだ青い顔で叫ぶ。

「アイツ、かなり強いんだ!!オレとユルグ、それに・・・妖虎と象人が残るから、皆は中へ入れ!!」

 僕たちは見えない学校の最上階へ行くことにした。ゲルダがそう言いだしたのである。ヨナルテパズトーリは反対したが、僕はあの部屋は密閉できるから、という理由で彼女の案を押し通した。何となく・・・そうしたいという気持ちが残ったのである。

 

「大丈夫かしら。メフィスト二世達は。」

 鳥乙女が先ほどからしきりに外を気にしている。それもそのはず、学校がかなりのショックを受けている。グラッと床が動く。12回目だ。あの悪魔はそんなに強いんだろうか?

「だ・・・大丈夫でやんすよ、アイツラは。」

 こうもり猫が心配顔の幽子に強がっている。

 その時。僕は急に「いやーな感じ」がした。胸がむかむかして、立っているのがやっとになる。

―――――そして、それは「虫の知らせ」だった。

 突然、ぐらりと鳥乙女の身体が傾いた。それを合図に僕を残して十二使徒が次々床に倒れていく。

「ナスカ!みんな!!」

 慌てて駆け寄る。どうやら、眠っているだけのようだ・・・が。

「フン。・・・何をやっているんだか。馬鹿みたいだ。さっさとオレ・・・いや、アタシに殺されな!!」

 ゲルダが男の声でそう言う。ふと、閃いた僕は彼女に聞いた。

「マンガラングも・・・きみなんだね?」

 ゲルダは頷いた。

「甘い奴らだ。特に、あのメフィスト坊やは。」

 彼女も、邪悪の配下になっていたのだ。しかし・・・言葉とは違い、僕は彼女に敵意は感じなかった。

「人を信じるなんて、馬鹿だな。」

「それでも、僕、あなたを信じたかったんだ。」

 胸が締め付けられる。さっきまでの感覚が消え去っている。 

 すっ、とゲルダの手が肩に掛かる。彼女の瞳は行動と裏腹に、とても悲しそうだ。その切なげな瞳を見ると、胸がきゅん、とする。

「こっちへ来い。偽りのメシアよ。」

 僕の身体が言うことを聞かない。頭ン中では「いやだ!!」とか「逃げろ!!」とか言っているんだけど、小指さえ動かない。

 そして・・・彼女の手の中の剣が僕を傷つけるのと、メフィスト二世の火炎が彼女を包み込むのはほぼ同時だった。

「こんなことだろうと思った・・・何故だ?」

「・・・どうして、ですか?」

「メ・・・シ・・・ア・・・」

 そう呟いたゲルダの声は、もう邪悪な闇のかけらすらも感じられなかった。

 僕の身体から力が抜ける。フッと目の前が白くなる。しかし、何とか持ちこたえる。

「私・・・は、メフィスト家を離れ、とある国に落ち着きました・・・しかし、新しい主人は、東獄大帝の部下だったので・・・す」

 ゲルダの息が荒い。このままでは・・・

「メフィスト家と繋がりのあった私は・・・水奔(注・字が存在しません。本来はこの字に草冠が付き、「すいもう」と読みます)という毒草を飲まされ・・・水奔鬼という幽鬼になりました・・・そ・・・して・・・日本で、あなたたちを・・・」

 僕の目を、メフィスト二世が塞いだ。

「見るんじゃない。」

 僕は彼の手をどけて彼女を見る。ヨナルテパズトーリが首を振る。手遅れだ。

「あ・・・りが・・・とう・・・メフィスト二世様・・・悪魔くん・・・これ・・・を・・・」

 ゲルダの手が一瞬空を掴んで・・・そのまま落ちていった。同時に、僕もフッと目の前が白くなり・・・そして、真っ黒になった。

「悪魔くんっ!!」

 みんなが何か言っているけど、僕の耳にあるのは、『ありがとう』というゲルダの声だけであった。

 

□■□■□■□■□■

 

 ふっと目が覚める。石造りの天井の冷たさに、目が痛くなる。

「気、付いたのか?」

 メフィスト二世がこちらを向く。こちらへ向かって、歩いてくる。差し出された手の中に、銀紙に包まれたチョコレートが光っていた。

「ゲルダが・・・持ってたんだよ。・・・半分、持ってけよ。君にも・・・迷惑かけまくったしさ。・・・ゲルダは、初めてオレにチョコレートをくれた女性なんだ。」

 丸い形のチョコレートが青く透明なケースに入っている。一つ、口に放り込んだ。

「半分って、言ってるだろ。」

 メフィスト二世が僕の手に、十個ほど握らせる。包み紙が手に当たって、かすかな痛みが掌に走る。同時に、胸にも。彼女はこのチョコレートを誰に渡す気だったんだろう・・・?

「下・・・いこうよ、ね?」

「悪い。一人にしといてくれ。」

 メフィスト二世はそっぽを向いてしまった。空いていた窓からの風が、バレンタインデーの香りを運び去る。また、胸が苦しくなってくる。

「う・・・ん・・・」

 呟くと、ノブを回す。もう外も暗い。腕時計の針が八時を指している。

「ごめん・・・な。」

 その言葉につられ、出がけに振り返る。すると――――もしかしたら思い過ごしかも知れないが、僕の目には確かに彼の輝く涙が映った。考えても見なかった言葉が口をつく。

「君・・・もしかしたら、僕の恋敵だったのかもね。もしかしたら・・・」

 そのまま外に出て、見えない学校を後にする。如月の風はまだまだ冷たい。かすかな・・・チョコレートの味が僕の心を締め付けた。胸の中で言う。

「さようなら・・・ありがとう。ゲルダ・・・・・・」

 

―――――僕に初めてチョコレートをくれたひと。

 

 

<終わり>

 

 


 

 

●後書き。

 うわあああああああああああああっ!!!!なんじゃぁぁぁこりゃぁぁぁ!!(爆笑)

 まぁまぁサイト開設記念てことでね(笑)赤恥青恥ってことで。(動揺)笑ってくれれば本望ですわ。・・・そのうちさくっと消してやる・・・(苦笑)

 ほぼ原文ママ。あまりに酷かった2,3箇所は直しましたが・・・くぅぅ。悪魔くんは私を同人誌に引きずり込んだ記念作ですからね(苦笑)これとトルーパー。トルーパーは創作書いてなかったよ残念(そうか?)

 

 

 

 

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