『如月の涙珠 (前編)』
「いやー、困っちゃうなぁ。男は辛いぜ。なぁ、悪魔くん!」
「・・・・・・で?」
ニコニコしているメフィスト二世。うるさいな、ほっといてくれよ、どーせ、僕は一個もチョコレートなんて貰えなかったよーっだ。顔を上げて、外を見る。エツ子までメフィスト二世にあげるんだもんな、たまんないよ。
「・・・・・・悪魔くん、チョコレート、欲しいか?」
「―――――いらない。」
素っ気なく返してから、これは自分でも悪いな、と思ってメフィスト二世の方を向くと、彼は呆けたように下を見ている。
「メ・・・フィスト二世?」
顔を覗き込んでみる。すると、口が動いた。
「悪魔くん。君の・・・さ、初恋っていつだったんだい?」
彼の意外な言葉に、僕はしばし唖然としていた。
「ボ・・・クの初恋?」
コク、とメフィスト二世が頷く。ちょっと待てよ・・・初恋・・・幼稚園・・・のチャコはウサギだったよなぁ。小二のルイはネコだったし。・・・あれ?小四の水妖は悪魔(妖怪)だったし・・・僕って人間に恋したことあったっけ?
僕の言葉を聞くとメフィスト二世は気抜けしたような顔をして『あっ、そう』と言った。
「そういう君はどうなんだよっ!!」
多少むっとした僕がそう言うと、メフィスト二世はこう、言った。
「オレ・・・さ、あんまし城の外へ出なかったし、出ても周りにゃ女なんていねーの。でも・・・ゲルダは特別だったな・・・」
「ふ・・・うん。で?」
「え?何だよ、悪魔くん。」
「ついでだからみんな話せよ、その君の初恋の思い出をさぁ。」
メフィスト二世はしばらく黙っていたけれど、やがてしぶしぶ口を開いた。
「ゲルダは・・・オレのうちへはお袋の弟子として来てたんだけど、何か・・・オレにとっても優しかったのな。オレとは十歳以上離れていたけども、弟みたいに接してくれてさ・・・金色の髪の毛に勿忘草色の目で・・・すっげー美人だったんだ。彼女が辞めたときはとっても悲しかったよ。『ゲルダ、でていっちゃ駄目だ!』なんて駄々こねてさ。」
「へぇ。君にもちゃんとそういう人がいたんだ。」
「・・・・・・悪魔くんがずれてんだと思うぜ。」
「・・・・・・(怒)」
こいつ、ソロモンの笛でも吹いてやろうかっ、と思ったけれど、やめた。人が惚気るのに付き合うほど僕は暇じゃない。一刻も早く究極の六芒星を作らないといけないんだ。そして・・・全ての人が平和に暮らせる楽園を作らなきゃ。
「メフィスト二世。話が終わったならそこにある魔法書でも読んでくれよ。」
「―――――うげげ。」
そう言って、メフィスト二世は500ページはあろうかという本を手に取った。
その時。
雲一つない空に、雷が鳴り響いた。ビクッ、として振り返ると空の一角が七色に光っている。やがて、それが少しずつ消えていくと同時にヨナルテパズトーリから呼び出しがかかった。
『さっき、魔界に七色の雷が鳴って、奇妙な音と共に『美人』が振ってきたのでアルが・・・どのようにすればよいのか・・・』
「わかった。すぐ行くよ。」
そう言って、僕はあることに気が付いた。
「あれ?百目は?」
「そういやぁ・・・」
(当時の私注・下書きの段階ではメフィスト二世を冷やかす役で出ていたのだが、つい入れそびれてしまったのだ!!ぬかったぁ〜〜←当時からダメダメ)
「間抜けな作者はいつかぶん殴ってやるとして、どーする?悪魔くん。」
「・・・行く。」
と、言うわけで僕とメフィスト二世は魔界へ向かった。
□■□■□■□■□■
「よく来てくれたのでアル。早速彼女と話をして欲しいのでアール。どうやら一時的なショック状態に陥っていて妙なことばかり口走っているのでアルが・・・」
ヨナルテパズトーリがげっそりとした顔でそう言った。僕は不審に思いながら、案内された部屋へ入った。すると、そこには淋しげな顔をした美女がひっそり座っていた。ぽーっとしながら、「あの・・・」と声を掛ける。
「ああ・・・新しい方ですね?・・・!・・・あなた・・・弟に似ていらっしゃるわ・・・」
話し方も上品だし。どーしたっていうんだ?ヨナルデパズトーリのやつは。
「弟が、いらっしゃるんですか?」
「ええ・・・悪戯ばっかりして。育ち盛りっていうのかしら。そんな・・・そんな・・・とぉぉぉってもうっとーしくて!!あの子ったら!!今度人のこと「おばちゃん」なんて呼びやがったらはり倒してやるわっ!!!」
――――――――――えーーーーーーーーと。完全に人格に破綻をきたしている訳ね。こりゃぁ時間かかりそうだぞ・・・
カチャ。
その時、ドアが開いてメフィスト二世が入ってきた。
「お茶。学者のオッサンが持ってきたがらねーの。」
そう言って、ちらっと彼女を見たメフィスト二世はカップを落とした。
ガチャン!!
その音で、彼女もこっちを向く。
「どーしたんだよっっ!もう、この始末は誰がやると思ってるんだ!!」
次の瞬間、メフィスト二世の口から信じられない(少なくとも僕には)言葉が漏れた。
「―――――――――――ゲルダ。」
何だってぇぇぇぇ?!
―――To be Contenued
next
back
home