*************** LOVE ME TENDER ***************
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SIDE-H 「ええっ?来られないの、要!?」 『だからごめんって!!どーっしてもイタリア料理店のバイト休めなくってさぁ。結婚式が入ってっから人手足んなくて店長に泣きつかれたんだよ。俺、義理があって断れなくってさぁ。』 「だって君、昨日は来られるって言ったじゃないか!!どーするんだよ、」 この料理、と言いかけて弘樹は口をつぐんだ。そんなことを言ったら、要は言葉に詰まったあげくにバイトをすっぽかしかねない。 「……もう、いいよ。わかった。バイト、がんばりなよ。」 『え?マジ?ごめんなぁ、弘樹。』 「いいから、代わりに今度遊びに来るときに貢ぎ物としてトップスのチョコレートケーキ!おっきいやつ!900円のじゃダメだからね!!」 げぇ、とか何とか悲鳴を漏らす要を残し、弘樹は受話器を置いた。 「全く、忙しいやつなんだから。相変わらず。」 ブルージェネシス崩壊後も、彼の地を離れた弘樹のところへ要は結構頻繁に通ってきていた。 *************** ある日、学校から帰った弘樹はドアの前に佇む人影を発見する。 『よ!弘樹!』 『要!どーしたんだよ、こんなところに。』 『うわぁ、冷たいわぁ弘樹ちゃん。俺が愛しい弘樹ちゃんのためにわざわざ山を飛び谷を越え〜♪』 『ハットリくんじゃないんだから…相変わらずだなぁ。』 にこにこと微笑む少年の顔には相変わらず邪気が無くて、弘樹は思わずため息を付いた。 『こんなとこで立ち話もなんだから、家上がらせて?』 『だーかーら、それは僕の台詞だって!ったく。そこどいてよ、今鍵を開けるから。』 『うん!』 はたはたと犬が尻尾を振るような勢いで、要が頷いた。 あれはもう、半年も前のこと。 *************** 「ホントにマイペースだよな。勤労少年は。」 昔は巨額の借金を返すため、という大義名分があった彼のバイトも、今や『だって〜、なんか体動かしてないと気持ち悪いんだもん。』というただの趣味に成り下がっている。それ自体は喜ばしいことなのだが、要は時として、いやしょっちゅうバイトに入れ込むため、周囲の人間への被害は相変わらずだ。最近前々からの夢だった飛行船の設計も始めたと言うし、この分ではあちらの学校で一緒の研究室でいる大塚守はさぞかし苦労して居ることだろう。 ………相も変わらず。 「ホントに、要だけは変わらないよ。」 どんな大きな事件があっても、辛い試練を乗り越えても。飄々と、司る風の力のように、捕らわれることなく。 竜門要は、いつも自然体だ。だからこそ、目の前で困っている人がいればたとえどんなことがあってもその場を見過ごすことはできない。たとえ、一月前からの約束であろうと。 「ほんっとーに、よく友達やってるよな。僕も。」 けれど。風を留めることは、誰にもできないと知っているから。無理して留めようとしても、それはもう風ではないのだ。 「要は要らしいのが一番、ってことかな。さーて、待ってても仕方がないから先にご飯食べよっと。」 弘樹は立ち上がると台所へと歩き出した。要の好物オンパレードの夕食についてはまた後日話してやって悔しがらせればいい。そう考えて笑いながら、冷蔵庫を開けた。
青い長髪をなびかせた赤目の少年が、息を切らせてドアを叩く、これは一時間前のお話。
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え?かなひろがたりない?もう、Yさんたら好きなんだから!(爆)
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SIDE-K 『ええっ?来られないの、要!?』 半分悲鳴のような声に、要の申し訳なさ度がまた上昇する。 「だからごめんって!!どーっしてもイタリア料理店のバイト休めなくってさぁ。結婚式が入ってっから人手足んなくて店長に泣きつかれたんだよ。俺、義理があって断れなくってさぁ。」 正確に言うと、これは嘘だ。義理があるのは本当だが、実際は休んだら首にすると脅されたのだ。けれど、そんなことを言うと弘樹は引いてしまうから。 『だって君、昨日は来られるって言ったじゃないか!!どーするんだよ、』 そこまでで、弘樹は言葉を切った。本当に怒ったのかと、要が不安になる。確かに、今日はかなり前から一緒に夜を徹して騒ごうと約束していたし、要も指折り数えて楽しみにしていた。 『……もう、いいよ。わかった。バイト、がんばりなよ。』 ところが、あっさりお許しが出たので要は一瞬耳を疑う。 「え?マジ?ごめんなぁ、弘樹。」 『いいから、代わりに今度遊びに来るときに貢ぎ物としてトップスのチョコレートケーキ!おっきいやつ!900円のじゃダメだからね!!』 「げぇぇぇっっ!!弘樹、それはちょっと酷いんじゃねーのか?!」 わめく要を残し、電話は一方的に切れてしまった。 「おいっ!弘樹!ひーろーきっ!!ああもう、短気なやつだなぁ!」 やっぱり怒ってるんじゃないか、と要は無情なツーツー音を鳴らす受話器にため息を付いた。 「おーい!竜門!いつまでさぼってるんだ!」 「あ、今行きますー!!」 慌てて黒いベストを着込んで蝶ネクタイを締める。 慌ただしくホールへ出ていく要の脳裏を、弘樹の言葉が一瞬掠めていった。 『どーするんだよ、……』 「あいつ、確か。」 三日前に弟たちにかかってきた、要の好物を聞いた電話。密告されたときはなんじゃそりゃ、と思ったが、もしや。 『ちゃんと食べてる?要。まぁた痩せてないか?』 一つのことに没頭すると寝食を忘れる要に、最近会うたびに言われる小言。 『どーするんだよ、この料理。』 要の中で、一つの言葉が組み上がった。 「ああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」 突然大声を上げた要に、周囲の不審の目が集まる。しかしそんなことに構っては居られなかった。 「店長!店長!!店長っ!!!」 「なんだ、竜門……」 「俺、やっぱり今日休みます!!あ、クビでいーですからっ!!じゃあこれで!!」 「お、おいっ!竜門!!」 呆気にとられる店長を後に残し、要はダッシュでロッカールームに戻るとマッハで着替え、光速で外に飛び出した。 「今からいきゃぁ、まだ間に合うよな!!」 一月前、声を掛けたのは自分だ。だから、そんなに弘樹が楽しみにしているなどと思いもしなかった。だからこそ、ドタキャンの電話など入れることができたのだ。 「折角の弘樹の手料理、逃して堪るかっってんだ。」 弘樹はよく、自分のことを風のようだと言うが、その風の吹く方角を決めているのが誰だか、わかっては居ないだろう。 「待ってろよ、弘樹!!!」 少年は一陣の風のように、夕暮れの町を疾走していった。 >>END |