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「よーし、もう一球ー!」
張り上げた声と共に返ってきたボールはパシッと乾いた音を立ててグラブに収まる。
ふう、と軽く息をついて、三橋は面をつけてしゃがむ阿部に視線を戻した。
次のサインはなんだろう。もう、結構投球数は多いのだが、ベンチに引っ込む気は更々ないまま、三橋はじっと阿部を見つめる。
―――阿部君がサインをくれる。それがオレにとって至福の時間のはじまり。
見送りの三振はキモチーだろ、と阿部に言われて、言葉に詰まった。余りにその通りだったから。
今までは、怯えながら自分の『場所』を守ることに精一杯で、そんなことにさえちゃんと気がついていなかったから。
阿部と居れば、投げることだけに専念できる。無心に投げればいい。
投げたボールが、キャッチャーに届く。こんなに嬉しいことはない。
「三橋!!」
―――ほら、阿部君がオレを呼ぶ。
―――オレに向けて、サインをくれる。
すぅ、と三橋は息を吸い込んだ。くっと止める。阿部を信頼して投げるだけ、ただそれだけ。
阿部君が捕ってくれれば、オレはダメピーじゃなくてホントのエースになれる。
それは今のところ、三橋にとっての最強絶対無敵の呪文でもあった。
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+++END.
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