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台所でタマネギを剥いていたら、後ろから声をかけられた。
「卒業したらすぐ結婚しよう。」
気を抜くとすぐ染みて涙が出るから、まな板から顔も上げずに返事をする。
「やぁよ、色々したいことがあるんだもの。」
「そんなの、別に結婚してからでもいいだろ?」
聞こえてくる声は拗ね気味。けれど退くわけに行かない。
「あのね、貴方みたいに手の掛かる男と結婚して、やりたいことが出来る訳無いわ。」
「手が掛からないよう努力する。」
「当然よ。」
「…じゃあさ。」
ため息を一つ付いて、刻んでいた包丁を置く。
振り向きざま、機先を制する。
「五年。」
青い目が大きく見開かれる。
納得できない、と首を振った。
「一年。」
「…四年と九ヶ月。」
「もっと歩み寄る努力しろよ。…一年と半年。」
「大負けに負けて、四年。」
「どこが。…じゃ、二年。」
「これ以上は負かりません。。」
「っ、三年、三年でどうだ?」
「もう一声。」
「……準備期間も入れて、三年半。」
「オッケー。」
ため息一つ、大げさな音と共に置かれる小箱。
「とりあえず、ホコリ被ってサイズが変わる前に渡しとく。」
「ん、ありがとう。…買い換えろとは言わないから安心して。」
「突き返されそうで不安だよ。」
「努力次第ね。」
コレには精々どっちの?という皮肉で迎え撃つのが精一杯だったらしい。
不意打ちなら受けて貰えると思ったのになぁ、と当ての外れた育ちすぎた悪戯坊主に少し笑う。
彼がこの恋にべた惚れなのはどちらかを知らないということだけが、私の有効ポイントだ。
「読みが甘いのよ、片割れと違って。」
「合同結婚式なんかいいかなぁと思ったんだけど。」
花婿同じ顔で同じ服で並んで参列者煙に巻いたら楽しいだろうって小さい頃からの夢だったのに、
とよよと泣く男に呆れ果てた視線を送る。
どうやらあちらは卒業と同時にゴールインを決めた口らしい。
今日の昼届いたフクロウで何となくこの事態は予測していたからこんなに余裕綽々で居られるのだけれど。
片割れの部屋を追い出されたから居候を、一夜の宿を!と、案の定この宿六はきっかり半時間後に泣きついてきた。
最後のクリスマス休暇なんかで実家に帰っていたりすると、実に様々なことが在るものだ。
「…アリシアがやりたいなら式だけならやってもいいわ?」
「俺のためには?」
「死んでもイヤ。」
「あ、そ。」
精一杯の妥協案にあかんべぇをして見せて、フレッドがやっとネクタイを解く。
ついでのように、呟いた。
「まぁいいか。アンジェリーナが俺のもんでいんのなら。」
つけ上がらせないように布石だけは打っておく。
「それこそ努力次第ね。」
「うっそぉ。」
「シチューに入ってる人参、私は好物なの。」
途端、火の入った人参をこの世で最も嫌悪している彼が眉を顰めた。
「人間の食い物じゃない。」
「そう?でも結婚すると週に一回はどこかに潜むわよ?」
「喰わない権利を主張する。」
精一杯の強がりを言い、ワイシャツをTシャツに着替えながらぼやく。
「…俺達が"Ever After"と行くまでにはまだ随分長い時間がかかりそうだな姫君。」
「だからさっきからそう言っているじゃない。」
苦笑しながら言うと、でも三年半は長いと思ってるからな、納得してないぞ!と釘を刺された。
躾の準備期間にその位はかかるのよ、分かってないのね?とは。
口に出しては、言わなかった。
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end.
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