「STRAIGHT, NO CHASER」
―――Celebrate "ME WORKS"'s 3rd birthday!!
待ち合わせ場所にやってきた人物を見て、ドラコは微かに眉をつり上げた。
「…なんでお前がここに来るんだ?ロン。」
赤毛の青年はやぁ、と苦笑気味に笑いながら薄茶色のロングコートを脱ぐと、彼の隣に腰を下ろした。
仕立ての良さそうなスーツの青年の横に腰掛けるセーターとチノパンのラフな服装の連れに、
バーテンが寄ってきて、何にします?と尋ねる。
ロンは迷わずウィスキーを注文すると、ドラコの方を向き直った。
「…保護者代理。」
「…あの馬鹿に何があった?」
微かに心配そうな表情を浮かべる白皙の青年に、
ああ大丈夫大丈夫、変わったことはなんもないよ、とロンが手を振って笑う。
「延長で、どうしても来られないって。休憩時間を使って、試合途中の選手閣下から泣きの電話が。」
「……それは、ご苦労だったな。あのへっぽこシーカーの所為でとんだとばっちりだ。」
「『君自由業だから暇でしょロン!!迎えに行ってすぐ行ってドラコを!
いつもの店にいるから!!!ついでに弁解もしといて!
ナンパされてたら君のタッパで追い払うんだよ!!
後、家まで送り届けるんだよ、分かってるね!送り狼にはなっちゃ駄目だかんね!!!
ああ、始まっちゃう、じゃあ!!!』」
声真似をしてみせつつ身振り手振りも入れてユーモアたっぷりに語る赤毛の青年に、
白金の髪の青年が微笑みを漏らした。
「…暇なのか?自由業。」
「…ん、まぁ、今夜は。」
歯切れの悪い返事に、ドラコがにやっと笑う。
「そうか、まぁ…明後日だもんな。「魔法使いのチェス」ワールドカップの決勝戦は。
…イングランド代表が勝つと、実に10年ぶりに優勝杯がアジアから戻ってくるんだったか?」
暇だろうな、そりゃ、大変だ、と同情混じりに肩を叩かれ、
ロンがハリーのことは諦めてるからね、と苦笑した。
「で?本当にこんな所をうろうろしていていいのか?連日大きく報道されてるじゃないか、
イングランド代表のウィーズリー選手。」
「……あんまし良くないんで、君がさっさと帰ってくれたら実は嬉しい、ドラコ。」
情けない答えに、ドラコが首を振った。
「ご苦労だな。彼女にも会えないくせに、親友のツレを迎えに行かされるんだからな。」
「本当だよ…あーあ、ハーマイオニー元気かなぁ。」
大仰にため息をついてみせる赤毛の青年に、ドラコがからん、
とグラスの氷を鳴らしながら無情な答えを返した。
「元気に決まってるだろう。…ハーマイオニーだぞ?」
「…だよね。」
ロンががくん、と項垂れる。
「希望的観測は捨てるんだな。君一人居なくたってぴんぴんして勉学に勤しんでいるさ、彼女は。」
「…わああ、キッツイよなぁ、ドラコ…相変わらず…。」
「人間が正直にできているんでな。」
「腹の底はハリーに感化されて大分黒そうだけどね。」
「…どういう意味だ。」
どん、とドラコが肘でロンを小突く。ロンがグラスのウィスキーを舐めながら言葉通りだよ、と応戦した。
「お前の方は彼女に感化されて少しは真っ当で勤勉になるかと思えば、あいかわらずだな。」
「…相変わらずなんなのさ……。」
「言って欲しいか?」
「辞退する。」
「遠慮するな。相変わらず間抜けだな。チェス以外のことは。」
「…聞きたくないって言っただろう?!やっぱり腹黒だ。」
「おや、お前の社会更生への道を手助けしてやろうと思ったんだが。」
「余計なお世話って知ってる?ドラコ。」
「君の恋人の得意分野だろう?知っているとも。」
しれっと返され、ロンがああ、そりゃ確かにね、と頷いた。途端にドラコが彼を振り向いて笑う。
「…今の失言。罰点で報告しておくからな。」
「え、あ、汚ねっ!お前、自分が先にネタふっといて…。」
「魔法省の役人なんぞやっていると、腹芸ばかり上手くなって困るよ、全く。」
「ドラコ!」
グラスに入った琥珀色の液体をどんどん消費しながら言い合う白金の髪と赤毛の青年に、
周囲が好奇の目を向けた。
気付いたロンが、立ち上がる。
「…行こうか。ハリーの払いでつけてくれって言われてる。」
「…あいつは飲まないのに、ツケばっかり嵩むな。」
ドラコが殆ど空になったキープのボトルを見ながら楽しそうに言った。
「どうせ、それ減らしてるの殆ど僕か君だぜ?行きがけの駄賃って奴。」
肩をすくめるロンを、ドラコが呼んだ。
「…おい、どうせ後二杯分ぐらいしか残っちゃ居ないんだ。飲んでいかないか?」
「うっわ、悪党。」
「君だって水みたいに飲むくせに僕だけ責めるな。」
「…そりゃ、WHISKEY(ウィスケヘル=命の水)ですから。」
「…お前、酒を少々、とか言いながら二升飲む口だな…。」
「『升升』?古い冗談だね。」
ドラコがウィスキーを勝手にグラスに注ぎ分ける。
「僕は本当はブランデーやコニャックが好きなんだが…あ、そうだ。」
何かを思いついたように、端麗な顔がすっと意地悪げになる。
「お前に、いいこと教えてやろう。…ハーマイオニーなら一発撃沈だぞ。」
「…何?」
「ブランデーをショットグラスに注いでな、こう…上にレモンの薄切りを乗せる。」
「うん。」
「その上に砂糖をたっぷり乗せて…
まぁ、本式はインスタントコーヒーを乗せるんだがそこは省略だ。
で、まず口にレモンと砂糖を一気に放り込んで噛む。」
「…うん。」
「続いて、ショットグラスの中身を流し込むんだ。…殆ど抵抗無く酒が腹に入るぞ。」
「…や、美味しそうだけど、ハーマイオニーは弱いから……。」
「確実に二杯も飲めば足腰立たなくなるな。試して見ろ。」
「…犯罪だろ?!」
「合意の上だ。」
「……鬼畜。ハリーを潰して逃げたことがあるんだろ。」
「自衛手段は学ばないとな。」
しらじらと言ってのける青年に、ロンは苦笑する。
ハリーがアルコールに自分ほど免疫が無いのを知って以来、ドラコはやりたい放題だ。
いつか復讐されるぞ、とは思いながらも、
ロンはあえてどっちにも組みせずに傍観者を決め込んでいる。
苦笑しながら答えた。
「酔わせても、つまんないから。」
「…おや。大虎か?」
「んん、眠り姫。」
「…そりゃ気の毒に。」
こんな会話聞いたらハリーもハーマイオニーも激怒するだろうな、などと思いながら、
ロンは手元のグラスをあっさりと干した。
「御馳走様。」
「…本当に水だな。」
「腹の底まで染み込むけどね。」
流石に酔ってきたのか、ほんのり赤く色づくドラコの目元にあでやかな艶が加わり、
周囲の男性客からの危険シグナルを察知してロンが彼を急かす。
「ほら、行こうよ。」
「……そうだな。」
ドラコも、立ち上がった。ラムスキンと思しき濃紺のロングコートを肩に引っかけ、
ロンの肩を叩く。
「楽しかったぞ。…たまには、酒に飲まれない呑み相手もいいもんだ。」
ロンが自分もコートを羽織りながら答えた。
「『この杯を受けてくれ、どうぞなみなみ注がしておくれ』…だっけ。」
「ハーマイオニーに教えてもらったか?物知りだな。…
『花に嵐の例えもあるぞ、さよならだけが人生だ』、だったか。」
「さすが、正解。」
「なんだ、漢詩もいける口か、ハーマイオニー。」
「…最近、オリエンタルな文化に興味を持っちゃって。」
「僕も一つ二つしか知らないがな。
『渭城の朝雨は軽塵をうるおし
客舎青青柳色新たなり
君に勧む更に尽くせ一杯の酒
西のかた陽関を出づれば故人なからん』…どうも、酒がらみばっかりだな。」
そうそう、と自慢の恋人のことを語るロンがちょっと相好を崩した。
「中国の酒の詩文は一品だってね。随分聞かされたよ。自分は飲めないくせにさ。」
「自分じゃできないから、人は批評家になるのさ。」
「…シニカルだね。」
「僕だって二つ三つは言えるぞ。酒を美味くすると言いながらクソ不味くするような韻文なら…」
今にも暗唱を始めそうなドラコを、君本当は酔っぱらってるだろ!とロンがたしなめた。
「もう、テニスンも漢詩もいいから!」
全く人間生き字引ばっかりでイヤになる!酔いが醒めるよ、とロンがぼやき。
ドラコはまた、笑った。
「ストレート、ノーチェイサーか…。できれば氷は欲しいな。」
「はい?」
なにが、と首を傾げるロンの背中を、ほろ酔いのドラコが叩いた。
「苦い会話もまたよろし、だ。僕の周りにお前ほど率直にぽんぽんものをいう奴は居ない。」
「…そら、どーも。」
学生時代の癖が抜けなくてね、と苦笑するロンに、ドラコはそのままでいい、と手を振った。
「恋愛感情も損得も友情も何もなしっていうのが気に入ってる…。また、飲まないか?」
「ああ、ハリーに殺されなきゃね。」
「なに。一緒に飲ませて潰しちまえばいい。」
「…あのね。」
「さよならだけが人生なら、精々楽しんでおく方が得だぞ、ロン。」
「……。」
ロンは今夜はケタクソに貶されている親友のことを思い。
その親友に散々振り回されているつもりで振り回している目の前の白金の髪の青年を見。
最後に、自分を惑わせてやまない栗色の髪の毛の恋人のことを考えて。
いずこも同じか、と溜息をついた。
終劇