帯電体のカラダについて

-tug of war-



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 アンジェリーナの教科書の中に、一通の手紙が入っていた。

 幸運なことに、それを一番始めに発見したのは当のアンジェリーナ本人であった。
「何かしら?」
 心当たりもなにも無かった彼女は、何の気なしに取り出して宛名を確認し、
 自分宛のものであることを確認してから封を開ける。

 ざっと目を通して一読すると、それは想像通り、彼女に向けられた熱い恋文であった。
 この手のものに縁がない訳ではない褐色の肌の美少女が、ふう、と溜息をつく。
 差出人に、勿論心当たりはあった。
 彼女の親友のアリシアやケイティが聞けば涙を流して喜ぶかもしれない、ここのところ彼女たちの学年で人気上昇中の、ハッフルパフの少年。
 ここしばらく、一体どこで見初められたのかは分からないが妙に話しかけられる回数が増えたと思ったら。
…やっぱり、来た。

 正直言うと、アンジェリーナはこの手のことはめんどくさくて嫌いだ。
 断れば気まずくなるし、だからといって受け容れるわけにも行かない。
 溜息をついて、アンジェリーナは持て余す手紙を再度教科書の中に戻した。

 それをそのまま、親しい赤毛の友人に貸してしまったのは、
 まったく彼女らしくないミスだと言ってしまっても良さそうなものだった。





”我ながら 乙女だよな…。”
フレッドは 自分の中のいじらしい自分に 照れるというか微笑ましい感情を抱いてた。

小脇に抱えているのは 今しがたアンジェリーナに さも機嫌良くとはいかないが 諦め顔で
「もう、仕方がないわね。」
と言われ 受けとった薬草学の教科書。

「おいおい、フレッド。こんなことで喜んじゃいけませんことよ!だ。」
思わず 苦笑いを零した。

目線を感じ、ふと目をやると 廊下の先で待つジョージが ニヤついた顔でこちらを見ている。

”コホン”と咳払いをし、早足でフレッドは追いつき、追い抜いた。

横を素通りするフレッドを横目で追いかけ、そのままバックで追いつきジョージはそっと囁いてきた。

「やけに、可愛らしいことをするじゃないか!今日は 一つも話が出来なかったもんだから
『アンジェリーナ、悪い!薬草学の教科書貸してくれないかいくら捜してもみつかんないんだ!』
だなんて。教えてやろうか?お前の開けたことのない鞄のなかだよ!」

”トン!”ジョージが フレッドの鞄を後ろから小突く。

「あっ、おい!」

鞄はするっと脇を滑り落ち バサッと中身が散らばった。

フレッドは 焦って屈み込み、アンジェリーナの教科書を脇に置きかき集め詰め込み 立ち上がろうと 教科書に手を伸ばした。が、ない!

「おお!愛しの彼女が書いた字があるぞ!フレッド! お前 今晩これをなぞって喜ぶ…。」

置いてあった教科書をひらい上げ パラパラと捲っていたジョージの手が止まった。

「返せよ!」
奪い取ろうとするフレッドを ジョージが体ごと交わす。

「なんなんだよ!いったい!」

赤い顔で怒るフレッドに 冷めた顔でジョージが言った。

「おい。 こいつは お前より精神年齢は上だな。」

ジョージは アンジェリーナの教科書から一通の手紙をつまみ上げた。





「?」
 謎めいた片割れの言葉に、首を傾げながらその手紙を受け取る。
 宛先は、アンジェリーナ。差出人は、確かハッフルパフにいる少年。
 純白の封筒の中身におおよそ察しが付いて、フレッドの顔色が変わる。

 手紙は、開封済みであった。
 と、いうことはアンジェリーナはこの中に書かれているであろう誰かの恋文を既に目にしているということだ。
 厳しい顔つきで封筒を見つめるフレッドに、ジョージが肩をすくめる。

「そんな顔、するくらいならさっさと言えばよかったのに。」
「うるさい!」
 同じ顔を怒鳴りつけてから、フレッドは、また黙ってその手紙を教科書の間に押し込んだ。
 プライバシー云々よりも、純粋に腹が立って、中身を見てみる気にはなれなかった。
 ジョージが呆れた顔で、小さな溜息をついた。


「…あら?」
 部屋に帰って今日の授業の復習をしようとしたアンジェリーナは、薬草学の教科書を広げて不審の声を上げた。
 見慣れた自分の字の書き込みがどこにも見あたらない。
 代わりに所々に書き込まれて居るのは、少しクセのある、本人の性格の割に整った文字だ。

「…やだこれ、フレッドの教科書じゃない!」
 口にして言ってしまってから、文字のクセだけで分かってしまう自分に少し呆れる。
 部屋の中で誰も聞いていないのを思わず確認してから、どうしよう、と唇に指を当てた。
 そういえば昨日教科書を貸したが、自分のと間違って返して来たようだ。
「まぁ、教科書は同じだし…。」
 明日返して貰って、今夜はこれで過ごしてもまぁ、支障はない。
 軽くぱらぱらと捲ると、以外に真面目に勉強しているらしく、きちんと要点が書き込んであるが、
 それ以上に多い落書きやおそらく隣に座るジョージやリー相手と思われる私信に、
 アンジェリーナは思わず微笑みを浮かべた。
 今夜は勉強まで行きそうにない、と思いながらほんの少し弾む指でひとつひとつ他愛ない落書きをなぞる。

”これがナニに効くって?…絶対眉唾だぜ!”
”おい、今日の帰りに中庭のいつもの場所で待ち合わせしないか?”
 等という文字が楽しげに踊っている。いいなぁ、男の子は楽しそうで、と少しアンジェリーナは羨ましく思った。

 そこで、ハッとあることに気付く。
「…そういえば、手紙…!」
 昨日ハッフルパフの少年に渡された手紙を、自分は確か薬草学の教科書の中に挟みはしていなかったか。
 
 慌てて荷物をひっくり返し、白い封筒を探す。しかし、すっかり忘れきっていたあの封筒は、どこにも見あたらなかった。
「嘘、教科書に挟んだまんまだわ…!」
 と、いうことは。

「…まさかフレッドが、持ってるんじゃ…!!!」
 困ったことになったと呟き、アンジェリーナは慌ててフレッドの教科書を手にとって、寮の部屋を飛び出した。





廊下を走り 談話室を目指す。
「まだ、きっとあの二人はいる筈だわ。」
今まで うまくしてきた。
上手に隠してきた。

何時からだろう 彼との会話に緊張が走るようになったのは。
あの笑顔が眩しくて 思わず頬を赤らませてしまわないように
「この顔は みんなに見せるのよ。」
と言い聞かせて 平静を装った。

でも、あの手紙を読まれてしまったら…。
誤解を招いてしまったら…。
ふと 足が止まる。
もし ”よかったじゃないか!やったな!”
なんて 祝福されたら、もう一生思いなんて伝えられない。
「伝える?」
そんな勇気なんて もともとないくせに。でも 間違った方向に行くのは阻止しようとアンジェリーナは 再び駆け出した。

階段を下り、談話室に飛び込み、辺りを見回すと 暖炉の側の椅子から赤い髪が覗いていた。
「いた!」
息を整え、近づいていく。
「あの…。」
声をかけると 振り向いた。
「よお!アンジェリー…。」
「ジョージ!」
ジョージの声はアンジェリーナの大きな声にかき消された。
「……。」
ジョージと横にいたのはリーで、お互い少し驚いた顔でアンジェリーナを見つめている。
アンジェリーナは二人のポカンとした表情が気にいらず、低い声で言った。
「何?」
「いや、よく一瞬でジョージってわかったなと思って…。」
リーが 遠慮がちに言うと
「ほんと、リーでも一人でいるとどっちかわからないって言ってるし。家族以外初めてだぜ。速攻で呼ばれたの…。」
ジョージは くくくっと笑った。
アンジェリーナの体に熱が走る。
「えっ、あの、それは、違うし…。」
手振りそぶりで話す彼女には いつもの冷静さは吹き飛んでいた。
「で、フレッドに用事?」
おかしなアクションを繰り返すアンジェリーナにジョージがストップをかける。
アンジェリーナは コクンと頷いただけだった。
「リー、悪い!フレッド呼んできて。」
「OK。」
リーは階段を上がっていった。

「それで、どうしたのさ。」
二人きりになった部屋で ジョージはアンジェリーナに椅子を勧めながら尋ね
もう、なんだかまともに顔を上げられないアンジェリーナがストンと腰掛けて
「教科書。間違って返ってきたの。薬草学のヤツ。」
とぎれとぎれにはなす。すると
「へぇ〜。薬草学の教科書をねぇ。ばかだねぇ〜あいつは…。」
とジョージは 可笑しそうに笑った。
「そうなの。馬鹿でしょ!自分のと他人のと区別がつかないなんんて…。」
ふふっと ちょっと 自分を取り戻したアンジェリーナが つられて笑う。
「いや、それはわかってたと思うぜ。それで中は見た?」
「えっ?」
立て続けておかしなことをいうジョージを不思議そうに見てアンジェリーナは
「中? 何? ああ、最初のほうだけ…。どうして?」
きょとんとした顔をみせた。
「じゃあ、今日習ったページを見てみろよ。いいから。」
肘掛けに頬杖をついてジョージは 教科書を指さす。

「?」
パラパラとページを捲るアンジェリーナの手がとまり 一点を見つめ体が固まった。
「フレッド!」
ジョージが叫び、アンジェリーナがゆっくり振り返る。

彼女の教科書を手にフレッドが現れた。





「…よぉ。」
 言いながらフレッドはゆっくりとアンジェリーナの隣りに腰を下ろした。
「…ええ。」
 なんとなくにじってフレッドから僅かに距離を取りながら、アンジェリーナが小さく呟く。
 別に悪いことをしているわけでも何でもないのに、悪戯を見つかった子供のようにひどく決まりが悪い。
 よりによって、彼が教科書に書いてあった文句を読んでしまった後では。

”手紙は預かった。返して欲しければ…”

 返してなど欲しくはなかったが、フレッドの手元に残しておくのだけはイヤだった。
 なので、心を決めてその青い目を振り仰ぐ。

「教科書。これ、間違えたでしょ?…返してくれる?」
「ああ。」
 しかし、フレッドはそう返事をしたものの、一向に動く気配がない。
 張りつめた雰囲気を漂わせる二人に、耐えきれない、といった感じでジョージが肩をすくめた。

「後は二人でやれよな。」

 言いながら立ち上がり、アンジェリーナの救いを求めるような視線は無視してさっさと男子寮の方へ向かう。
 途中、出歯亀宜しく階段から覗き込んでいたリー・ジョーダンの首根っこを掴んで排除すると、
 ジョージは自らの片割れに向かって軽くウィンクを送り、本当に消えていってしまった。

 保たない間を噛みしめながら、アンジェリーナがまた、隣りに座る少年に視線を投げる。
 フレッドは両肘を両膝の上に付いて、組んだ手の上に顎を乗せ、じっと暖炉の火に見入っていた。

 アンジェリーナも、先に言葉を発することに躊躇っていた。

『恋愛感情は、私には難しすぎるわ…。』

 いい加減沈黙に倦んで、そんなことまで考え出した彼女の耳に、決心を付けたらしい赤毛の少年の声が聞こえた。

「…アンジェリーナ、教科書、返して欲しいのか?」

 暗にそれが『手紙を返して欲しい?』という問いであることにはいまいち気付かないまま、アンジェリーナは気負い込んで頷いていた。
「勿論じゃない!!」

 フレッドが、小さな溜息を付いて体を起こした。
「…ってことは、奴さんは望みあり、ってことか……。」
「…?」

 彼の発言の意図が分からないまま首を傾げるアンジェリーナの前で、フレッドがおもむろに純白の封筒を取り出した。






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...to be continued.

 

 

泰葉さんとの初リレーですvお題はフレジェリ!!大好きな二人組ですv
素直になれないアンジェリーナと以外に乙女で臆病なフレッド(爆笑)
二人の恋の行方やいかに?!
ちなみにまだ続行中です(こればっかりだな)

 

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