|
**********
「ただいま!」
新学期、ホグワーツに帰ってきたハリーが必ず行う儀式のようなもの。
まず、自分の部屋で荷物を解いて、自らの巣であるグリフィンドール寮の部屋に帰宅の挨拶をする。
次に家族同然である友人たちへの挨拶回り。
そして校舎の中を歩き回り、最後に森番の小屋へハグリッドの顔を見に行く。
入学してから、欠かしたことはない。
どこも変わっておらず、誰の顔も欠けていないのを確認して、やっと落ち着くことができるのだ。
なぜって、ホグワーツは彼の心の神殿だ。
もし、万が一、ヴォルデモードに狙われたら、それこそ何と引き替えても守りたいと思っている。
…誰にも言ったりしないが。
この地は、彼に多くのものを与えてくれた。愛情、友情、絆、生きていく誇り、…そして家族代わりの仲間たち。
今回もハリーは彼の儀式を始めるべく、まずは先に荷物をほどいて談話室へ降りていった親友の姿を探しに行った。
彼の姿を初めに見つけたのは、暖炉の前で座ってペットのヒキガエルに餌をやっていた少年だった。
「あ、ハリー。どうしたの?」
「やあ、ネビル。…ロン知らない?」
「ロン?」
同室の少年は散々頭を捻った挙げ句、
「…ごめん、見てないや。」
とすまなそうに言った。ハリーは苦笑して構わない、と告げると、次に同じく親友の少女の姿を探しに行った。
「ラベンダー。」
声をかけられた少女が振り向く。
「あら、ハリー、元気そうで何よりだわ。」
「こちらこそ。ね、ハーマイオニー見なかった?」
「ハーマイオニー?…さぁ、そういえば見ないわね。先に談話室に行った筈なんだけど。」
御恒例の図書室詣でじゃないかしら?と笑われて、ハリーは曖昧に頷いた。
…何となく。寂しい気分だった。
折角の新しい一年のスタートに影が差したような。
彼ら二人がハリーのもっとも心のよるべとする人間であることは、誰にあらずハリー自身が一番痛感していた。
二人以外の全員の姿を確認して、寮を出る。
各教室を回る途中でロンやハーマイオニーが行きそうなところを当たってみたが、二人の姿は影も形もなかった。
「…どこ行っちゃったんだろ、二人とも。」
段々、不安がハリーの心に兆し始めた。
居るのは知っている。
ここへ来るまでの列車の中でも一緒だったし、恒例のコンパートメントへのマルフォイ詣でも一緒に遭遇した。
組分けだって一緒に見たし、その後の祝宴も一緒だった。……居ないはずがない。
だから何も心配する事なんてないと、分かっているのに。
それでも、いつもは必ず出会える談話室で彼らの顔が見えないのは、不安だった。
ふぅ、とため息をつきながら、ハグリッドの小屋の前に近づいた。
「ハグリッド?居る?僕だよ、ハリー……」
その瞬間。無骨な木造のドアがバタン、と盛大な音を立てて内側から開いた。
同時に中から、背の高い赤毛の少年と栗色の髪の少女が飛び出してくる。
『Welcome Home, Harry !!』
一声叫ぶと背中を叩きながら。
ロンとハーマイオニーは彼らの親友にして誇りと自慢の種である黒髪の少年を、左右から思い切り抱きしめたのだった。
ハリーの顔から眼鏡がずり落ち、目を白黒させながら少年は慌てた。
「わ、わ、な、ナニ?!」
「”なに”はご挨拶だぜハリー、折角僕たちでお帰りサプライズを企画したってのに。」
なぁ、とロンが傍らの少女を振り返る。
「そうよ、ハリー。さぁ、入って?」
ハーマイオニーは微笑むとハリーの腕を取って小屋の中へと促した。
小屋の中ではハグリッドがお菓子やお茶を用意しており、ハリーは嬉しそうにその側に駆け寄って手伝うよ、と宣言した。
「おいおい、だめだよハリー、君は座ってて。」
ロンが苦笑しながらハリーの背中を押して強引に椅子を勧める。
「そうよ、私たちそのために先回りしてここに来たんだから。」
ハーマイオニーが腕まくりをしながらハリーが来たため中断されたとおぼしい生クリームの泡立てに戻っていった。
「先回り?」
首を傾げるハリーに、ロンが君さぁ、と些か呆れたような調子で続けた。
「僕たちが気づいてないとでも思ったわけ?…必ず学年の最初にずっと校内回ってるだろ?…一人で。」
「…あ、それは。」
気づかれていたのか、とハリーは微かに照れくさくて頬を染めた。
「…で、回ってみた感想は?変わりはなかったかい?」
ロンがカップにポットからなみなみと紅茶を注いでハリーの前に差し出した。
同時に、にやにや笑いながらハリーにハグリッドの手製ロックケーキの満載された皿を回す。
相変わらず石のようなそれを一つ取りながら、ハリーがばつの悪そうな顔になった。
「…気づいてたの。」
「当然。…こっちもどうぞ。家から持ってきたから、味は確かだよ。」
堅いケーキをごろんと皿の上に転がしたハリーに、ロンがチョコブラウニーの乗ったもう一つの皿を勧める。
「…もしかして、モリーおばさんのお手製?」
「そう。みんなで食べなさいって持たされた。…重かったんだぜ〜?」
「うわ嬉しい、ありがとう!」
ハリーが遠慮なく大きな一切れを取ってかぶりついたタイミングを見計らって、ロンがさらりと訪ねた。
「やっぱり我が家に勝るもんはないだろ?」
急に突っ込まれたハリーが噎せ返る寸前の表情になる。
「我が家?」
泡だったクリームをボウルごと持ってきて勧めながら聞いていたハーマイオニーが首を傾げた。
「”我が家”だよ。ハリーのね。」
当然だろ?とでも言いたいような表情でロンが答え、その顔を見たハーマイオニーも何かを納得したらしく微笑んで頷いた。
ロンがえへん、と一つ咳払いをしておもむろに口を開く。
「だって言っただろう?…今でも覚えてるよ。」
「「「僕の家はここにある。」」」
その台詞を三人で思い切りハモってしまって、ハリーたちは笑い出した。
「そして僕たちはハリーのご帰還を迎える家族って訳だ。…ちょっとしたお祝いくらい開かないと、と思ってね。」
そこへ焼き上がったばかりのクッキーを皿に盛ったハグリッドが台所からやってきて加わった。
「ロンたちが慌ててやってきたから何かと思ったぞ。…果報者だなぁ、お前さんは。」
ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられて、不覚にもハリーは少し涙ぐみそうになってしまった。
「…いつ企画したの?」
「ん?去年から。さっき汽車の中でハーマイオニーと打ち合わせした。」
ロンの台詞に、ハーマイオニーが首を振った。
「あんな事言ってるけどね、ハリー。聞いてくれる?ロンったら、やりたいって言うだけで全然計画してなかったんだもの、呆れちゃうわ。」
「うっわ、ハーマイオニー、そればらすかなぁ?!」
「…おばさまのお菓子を確保して来ていたのだけは誉めてあげるわ?」
「そりゃドーモ。」
一騒ぎしながら席に着き、ケーキの皿が一周する頃には、ハリーは今学年は今までで一番最高の一年間になるような気分になっていた。
―――これからもずっと、僕の家はここにある。僕の心も、ここに。
**********
...end.
|