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―――A sara avec toute ma tendre amitie .
「もし、僕が君の荷物になるなら捨てていいよ。」
ある日あっさり言われた言葉に私はぎょっとした。
「は、ハリー?!いきなり何を言い出すの?」
「ん、だってさぁ。」
彼は癖っ毛気味の収まりの悪い漆黒の頭をかき回すと、ふい、と微かに微笑んだ。
「……君にとって、僕は邪魔でしょ?」
「それ、本気で言っているのなら私あなたをぶん殴るし、冗談としても笑えないわ。」
むしろ侮辱よ、と私は眉を吊り上げたが、ハリーの方も引く気はなさそうだった。
名声だの栄誉だのに抑圧された彼のフラストレーションは、時折こんな自嘲の形で吐き出される。
…それを受け止めるのは、嫌いじゃなかった。
ハリーは主にそれを洩らす相手をロンに定めているため、
実際は私にお鉢が回ってくることがあまりなかった所為もあるけれど。
「僕は、望むと望まざるとに関わらず、『ハリー・ポッター』だ。」
「…知ってるわ。それが?」
首を傾げると、ハリーは力無く笑った。
「すっごく、重いよね。」
「…軽くはないわね?」
お為ごかしを言ってもしょうがないのでさらりと肯定する。
「君は、その僕の恋人だ。」
「…解雇されない限りはね。」
自分でも嫌らしい言い方だとは思うが、肩をすくめてそう返した。
怒っちゃった?とハリーが苦笑する。そのまま、こつん、と私の肩に額を当てた。
―――ほんの時たまにしか見せない甘えた仕草に、急に心臓が倍以上のリズムで鼓動を打つ。
「ね、ハーマイオニー。」
内心の動揺を押し殺しながら、裏返りそうな声で返事をした。
「なぁに?」
「一回しか言わないから、聞いてくれる?」
「……ええ、いいわ。」
ハリーはすう、と大きく息を吸い込んで、一気に囁いた。…小さな声で。
「…時々、君と二人だけでマグル界に逃げてしまえたら、と思うんだ。」
だったら付いてきてくれる?と訊かれ、私は躊躇いもせず首を振った。
「…行かないわ。」
「やっぱり。」
ハリーが苦笑するので、私はその自分の目線より少し上にあるネクタイの根本をひっ掴み、
深く輝く緑柱石の瞳をじっと覗き込んで、言った。
「首根っこ掴んででも引きずり戻すわよ、こっちへ。」
彼はしばらくその綺麗な目をぱちくりさせていたが。
やがて。
「…参ったなぁ、これだから僕は君に惚れちゃったんだよ。」
と言いながら、くすくす笑って首筋に抱きついてきた。
…だって知っているもの。
あなたをしゃんとさせるのは私。…惑わせないようにするのも私。
あなたの恋人でもあり、無二の親友でも戦友でもある
『ハーマイオニー・グレンジャー』…それこそが私。
だけど。
もし、私がこのことを忘れてあなたに縋るただの女になったら。
―――その時は、私で私を捨ててやるわ、とこっそり心の中で呟いている決意を。
あなたは知らない。
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...end.
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