「SKYGAZER/"天体観測"」





「明日で、終わりかな。」
「うん。」
「この空を、こうやって、見上げるのも。」
「そうだね。」
「…本当は。明後日以降も見たいけどね。」
「どうかなぁ?」
「うわ、悲観的。」
「そっちこそ。」

 グリフィンドールの屋上で、二人の少年が一枚の毛布に体を包んで、夜空を見上げていた。

「…綺麗だね。」
「そうだな。」
「寒くない?もうちょっと詰めようか?」
「あ、いやいいよ。僕体でかいからさ。」
「…それって嫌味?」
「いやいや。」
 癖のある黒髪に眼鏡をかけた少年がむくれたように言うのに、赤毛の少年がそんなつもりは、と苦笑する。

「でもさ。びっくりしたよ。君が急に星が見たいなんて言うからさ。」
「…うん。もう、見納めかも知れないから。」
「おや。弱気。」
「それに、こんな風にロンとゆっくり話ができるのも、ね。」
「……。」

 生涯最後になるかもしれない話し相手に自然と自分を指名してくれた魔法界の英雄に、ロンはくすぐったいような誇らしいような済まないような複雑な気分になる。
 今日の昼間、まさか彼らが明日決戦に向かうとは知らないであろう友人や知り合い達と、最後の会話とフクロウ便を交わしてきた所ではあるのだが。

「欲を言うなら、最後の食事はチリビーンズじゃなくてローストビーフが良かったなぁ。」
「…贅沢言うなよ。それなら僕だって最後の授業くらいスネイプじゃない方がよかった。」

 軽口を叩いてはいるが、毛布の中の体が震えているのには、お互い気付かない振りをしている。これは寒さの所為だから、と。

「流れ星でも流れないかなぁ?」
「何を願うんだよ、今更。」
「それもそうか。」
「あ、あの星は?」
「アレは火星。瞬いてないだろ?」
 言い合いながら、また少し、体を寄せる。

「…ロン。」
 ハリーがゆっくり口を開いた。
「なに?」
 ロンが微かに顔をそちらに向ける。
「…あのさ。こんな事、君にしか絶対、言わないんだけど。」
「うん。」
「…ちょっと、ヤバイかな?」
「怖いって事か?」
「…うーん。」
 そうでもないけど、と返事をしながら、ハリーが足を抱える。
「こんなとこまで来ちゃったな、っていう感じ。」
「…あはは、そりゃそうだ。」
 よく分かるよ、といわれ、ハリーが些かすまなさそうな表情になる。
「君も。僕にさえ巻き込まれなかったら、」
 言葉を続けようとするハリーを、ロンがちょっと怖い顔で遮った。
「それ以上言ったら、怒るから。」
「…あ、うん。」
 ハリーが口を噤む。

 静かな天体観測が暫く続けられて。やがて真剣に冷え込む気配に、ハリーが腰を上げた。

「そろそろ、行こうか、ロン。」
「ああ、ハリー。」
「…一緒に、来てくれる?」

 まだ少々不安げな親友に、赤毛の少年は精々朗らかにその懸念を笑い飛ばした。
「くどいよ。一緒に行くさ。」
「…二人、だけでも?」
「二人だけでも。…あのなぁ、こんな議論、決戦前夜にまだするか?その暇があるならお前のお姫さんの所へでも行って、精々別れを惜しんできたら?」
「…っ、まだ、別れるって決まった訳じゃ。」
 ロンの呆れたようなツッコミに、ハリーが心なし頬を赤らめる。
「だったら、そうやって言って来いよ?絶対、心配してるぜ?彼女。…性格的に、さ。」
「う…。」
「ほら。アリバイは作っといてやるから。」
「…ありがとう、ロン。ご」
「…早く、行け!」
 ロンは、煩い、とでも言うように屋上の出入り口を指し示した。ハリーはそれ以上何も言わず。一度も振り返らずに、走り去った。


「…さて。僕は、どうするかな。」

 独り残された少年は、満天の星空を振り仰いだ。
「…シリウス、ドラコ、…か。星の名前だよな。すっげーの。みんな色んな運命背負っててさ。」
 ホント、色んな事があったよな。何等星だか分からない青い星に向かって一人、呟いてみる。
「それもみんな。明日で決着がつく、か。」

 少なくとも。明日は必ず、ハリーと彼は『名前を言ってはいけないあの人』の待つ場所へ…行かねばならない。
 口の中で星座の名前を呟きながら、星々を頭の中で線で結ぶ。
「…うあー、結構覚えて無いなぁ。」
 毛布に独り、くるまって。見上げる北天の星座は、世界中の旅人の指標の筈だが。
「僕も、ちゃんと。導いてくれよ。」

―――星達の、答えはない。

 それでも、少年達はひたすら、己が道を、滑走し続ける。何も持たず、何も知らずに飛び出してきた割に、よくもここまで来たもんだ、と苦笑いしながら。
 離陸の、時を待っている。

「さって、僕もそろそろ、行くかな。…ハリーのアリバイを作ってやらなきゃな。」

 いつの間にやらすっかり黒髪の少年の女房役が板に付いてきている赤毛の少年は、苦笑気味に呟いた後。

―――僕が抜け出すのは、それからだ。

 と、小声で付け加えた。ハリーにハリーだけの星があるように、彼には彼の星がある。

 少年が、歩き出した。その後を、夜空の星々が瞬いて付いてくる。


 ある、満天の星空の下での、ささやかな天体観測。







END





+-+-*-+-+


 問題は中身がロンハーかハリハーかという…。(笑)正解はハリハーを書こうとして腕が止まったのでどっちにでも取れるように…ゲフン。ハリロンの話を書こうとしたのでハーマイオニーあえて無視です、すいません。タイトルは…バンプオブチキンの例の有名な曲から。


 

+++back+++