「SILENT TALKIE」
□”SILENT MINORITY”
―――穢れた血!!
なんて酷い呼び名なんだろう、と思い返すたび吐き気にも似た気分の悪さを感じる。
昔、一遍だけスリザリンの生徒にそう、陰口を叩かれたことがあった。
あれは確か、彼女が昨年、いきなり学年トップに躍り出た時だ。
『何よ、穢れた血の癖に…!!』
嫌味は棘として認識されず、さりとてハリーやロンに聞いてみる気にもならずに一人で調べた。
調べて、ショックを受けた。
それはそうだろう。…自分が、被差別民側の立場だと知って愉快な気分になれるはずがない。
魔法界でも、マグル生まれは信用されない。
まるで、マグル界のアンタッチャブルの様に。
腹立たしいなんてものではなかった。
絶対に。
声なき少数派になどなったりしない。
誰の陰謀だかは知らないが、間違っている。
必ず、事件を解決してみせる。…こんな悪意に満ちたことをする輩が、ハリーの筈がないではないか。
そう、ハリーが、半身はマグルである彼がこんな事をする筈がない。
半分魔法使いで、半分マグル。…その分、どちらにも溶け込みきれずに孤立するあの少年が、
誰より生まれの別の痛みを理解しているであろうハリーが、こんな事をする筈がないのだ。
では、誰が秘密の部屋を開けたのだろう。
…呪いにかかりやすい、手先でも居るのではないだろうか。
怪物の名前は想像が付いた。…確信を取ろうと、図書室へ向かった。
見慣れた赤毛の少女に気付いた彼女は、迷わず声をかけた。
「あら、ジニー。…どうしたの?こんなところで…。」
声をかけようとして、顔色が酷く悪いのに気付いた。
「どうしたの…?」
「…ハーマイオニー。」
呟きながら近寄ってくる彼女に謂われのない恐怖を抱き、彼女の足が竦む。
なんで、と思っても本能が察知する危険に理由はない。
ただ、ジニーの側にいるのは危ない、逃げろ、と脳髄が警告する。
脳裏に、一瞬赤毛の少年が閃いた。
―――マグル出身が嫌われる理由はね。
躊躇いがちに彼女の親友が教えてくれた言葉。
―――呪いが、かかり難いんだ。…魔法も。鈍感だって、純血気取りの奴らはそう言うよ。
裏を返せば。純血は、魔力と引き合うのならば。
…彼女は、依童として最適だ。
気付いて、愕然となった。
ロンの妹に呪文は使えない。…彼女はポケットに入った手鏡を確かめながら、逃げようとした。
言わなきゃ、教えなくちゃ…!ハリーとロンに。
ロンに。
でも、自分の妹が真犯人だったと知って、彼はどんなにショックを受けるだろう。
一瞬、足が止まった。
それが、彼女の運命の明暗を分けた。
□”SILENT SURVIVOR”
彼女は石になった。
彼は生き残っている。
―――理不尽だ。
酷い理不尽だ、とベッドの上のぴくりとも動かないハーマイオニーを眺めて、ロンはぼんやり思った。
ハリーは見るなり彼女に駆け寄ってその手を握り、はっとしたような、そして愕然とした表情を浮かべたが、彼は近付く気にすらならなかった。
目の前の光景はなんだかスローモーションで、劇画の中の出来事のように思えた。
目が覚めたら全てが嘘なら、彼は喜んで現実を売り渡したろう。
僕は純血だから助かって。
彼女はマグルだから…被害にあった。
それは、とても納得がいかない出来事のように感じられた。
同時に、自分だけは無事だ、と心の奥底で思っていたような、酷く嫌な一面を見せつけられたようで、痛い衝撃を感じた。
ハーマイオニーも無事だと思っていた。
その甘い予測は、最悪の形で裏切られることになったわけだ。
もっと真剣に彼女の言葉に耳を傾けて、守って。
そう。
守ってあげなきゃいけなかったんだ……僕も。
ハリーが自分のことで手が一杯なときに。
彼に近く、しかもマグル出身であるハーマイオニーが狙われない訳がなかったのに。
目測の甘さに臍をかんでも、全ては後の祭りだった。
ジニーが攫われた。
「だって、ジニーは純血だ!!」
叫びながら、心の奥底で何処かホッとしていた。
血なんか関係ない。
やはりこれはなにか、途方もない陰謀なんだ。
僕達のハーマイオニーは、血が穢れてなんかいない。僕達と変わらない。
待っていて、必ず助けるから。
少年は、腹を括った。
先へ進んでいくハリーに、全てを任せた。
彼ならきっと、妹を救って、このとんでもない事態にケリを着けてくれる。
埃だらけ、泥だらけのローブをはたき、うん、と伸びをした。
腕を回して、落盤に向かう。
「…さて、僕には僕のできることをするか。」
「できること?」
横合いから声が聞こえた。
気絶のショックから目覚めたらしい、きょとんとしている英雄と信じていた教官を溜息混じりに眺める。
「…そう、できること。お前も手伝えよ。」
「手伝う?」
「そう、このでっかい石をどけるんだ。二次遭難はゴメンだからな。ハリーが帰ってこられるようにしとかなきゃ。」
ハリーが帰ってこられるように。
ハーマイオニーも間もなく帰ってくる筈なのに。
僕がしっかりして、待っていなきゃ、二人を。
「手を貸せよ。猫よりマシだろ?」
言いながら男を立たせ、注意深く、再び崩れないように、落石を撤去する作業にかかった。
しかし、石はあまりにも多く、岩は余りにも大きく。
挫けそうになりながら、それでもハリーが帰ってくるまでに、と爪の間を泥だらけにしながらがりがりと岩を掻く。
指先の感覚はとうにない。…爪も、剥がれそうなほど痛んでいる。
しかし例え五指の生爪が剥がれ落ちても、彼はこの作業をやめる気はなかった。
上半分にどうにか隙間が空いたとき、その空洞を上から降ってきた何か光の矢のような赤いものが通り抜けていった。
「…!!」
「うわああ?!」
ロックハートは頭を伏せ、ロンは息を呑む。光の矢は一瞬旋回してこちらへ戻ってくると、岩盤の一番分厚い部分に突撃して、穴を開けた。
岩の砕ける音に、ロンは目を瞑った。
一瞬、落盤を覚悟したが、恐れていた事態は起こらず、目を開けると目の前のどうしようもない、と諦めていた大きな岩が取り除かれていた。
救いの主は、と辺りを見回すと、光の矢は更に奥へ突き進んでいく所だった。
目を凝らすと、鳥のようにも見えた。
「…っ、これで何とかなりそうだ!」
彼はすぐに気持ちを切り替え、更に穴を広げる作業にかかった。
―――不完全な声なき声達は、まだ自己を形成するまでに至っていない。
....End.
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やっちゃいました映画話。つまり二巻話。 |