SaYoNaRa

-魂の快楽-



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 ホテルのベランダから、硝子越しに夜空を見上げた。
 ふぅ、と軽く息を吐いて何本目だか分からなくなってきている缶ビールの蓋を開ける。
 冷たい泡混じりのアルコールを喉に流し込むと、もう一度夜空に目を向けた。

 こんなものじゃ、酔えない。
 瞬く間に空になる缶を窓の外に投げ捨てようとして、止めた。
 代わりに、新しい缶に手を伸ばす。
 苦い琥珀色の液体は、何も忘れさせてくれない。寧ろ、一層頭が冴えていくくらいだ。
 こんなものじゃ、酔えない。

 僕は一生、酔うことはない。
 何にも。
 不感症で不完全燃焼の未消化な感情を抱えて、一人夜空を見上げる。
 腹の中では、酒精の代わりに青い炎が燃えている。
…きっと、『嫉妬』と言う名前の。
 『後悔』という名の燃料の海の中で。

 次のビールは止めておくことにした。
 彼女が万が一にも帰ってきたときに、あんまりアルコール臭いのも頂けないので。
 彼女はアルコールに極端に弱い。
 酒臭い息をぷんぷんさせていたら、嫌がって側にも寄せてくれない。
 自嘲気味に笑いながら言葉を漏らす。

「でも、本当に帰ってくると思っているのか?ロン・ウィーズリー。」
 当然、誰からも返事はなかった。

 そしてふと、こんな事をアイツは知っているのだろうかと思った。



 今日、この海辺の町に二人で遊びに来て、夜中にこっそり出ていく君の姿を偶然見かけて。
 腕の中からするりと、いつの間にか黙って消えてしまう。
 だけれど、僕は眠ったふりのまま、何も言わない。
 気付かない、見ていない。

 彼女が、「彼」に会いに行っていることなど百も承知で。
 そもそも、僕が全部を承知の上で彼女と一緒にいること、彼は知っていないだろう。
 報せたいとも思わないが。

 薄氷の上で、僕と彼女は幸せな二人を演じている。
 一枚割れれば、その下はきっと絶寒の海の底だ。
 たちまちに、どんな暖かさも幸福も、ガチガチに凍って砕けてしまうだろう。

 でも。
 そんな仄かな幸せの灯りでさえ、手放す勇気が持てない僕は、
 毎日怯えながらも、楽しく過ごしている。

 けれど。

 今日、帰ってきて彼女がまだいるとは限らない。
 明日送り出した彼女が必ず帰ってくる保証はない。
 本当は、それが現実。

 だから僕は、日々の暮らしの中でも、いつも別れる前にこれが最後かもしれないと言い聞かせながら。
「さよなら。」
 と微笑んで告げることにしている。

 もし、彼女が自分の元から居なくなるなら、行き先は一つだから。
 そうしたら、もう二度と逢わないようにしようと心に決めていた。
 それが、ずっと卑怯な手段で二人の間だの棘になっている自分が為すべきことだと。

 だけれど、自分では言えない。
 できない。
 幾ら夢の世界に生きているだけだ、と分かっていても、
 その笑顔も暖かさも、泣きたくなるくらい嬉しくて。
 哀しくて。

 「彼」と逢っていても、何をしていても構わない。
 必ず、僕の所に戻ってきてくれるものなら。

 もし今夜、彼女が帰ってきたら、きっと僕は彼女にいつもより少しだけ長くて熱いキスをして。
 そうして、それだけで全ての感情を抑えてしまうのだろう。
 彼女は僕に甘えていると思っているらしいが、本当は逆だ。
 包容力がある振りをして、君を囲い込んだ鳥籠から、逃がしたくないだけ。

 これが僕の魂を、昔から一番深く捕らえて離さない、痛いまでの熱い快楽。
 彼を想う彼女を手に入れて、そのことだけで僕は今も二人の側を離れない。
 道化?結構、馬鹿で利用されているのは計算の内だ。
 彼女と僕とは共犯者だ。
 彼に、一生彼女を想い続けさせる為の。
 生身の彼女は彼に愛される自信がなくて。
 こうして僕と一緒にいることによって「理想」で手が届かない、夢の女で在り続けている。
 毎日彼女と一緒に生活して、食事して笑い合ってキスも交わしてベッドも同じで。
 こんな月下氷人なんて前代未聞だとは思うが。

 彼女が時々一人で、君を想って涙しているのを知らないだろう。
 実は缶詰のアスパラガスが苦手で、人の皿に放り込んでくることも、
 真面目な本に混じってこっそり恋愛小説をかなり集めていることも、
 うなじの下、ギリギリ服の襟に隠れるか隠れないところに、小さな黒子があるのも。
 当たり前だ、リアルの彼女は僕の物なんだから。

 そんなことも知らないのに、彼は彼女の愛だけは全て独占している。
…焼け付きそうな気持ちがふと浮かびそうになるのを、窓を開けた深夜の冷気で冷まそうとした。
 夜の匂いの風は、僕の中の計算高い一面を再び呼び起こす。

 どうせギリギリなら、決壊して溢れて収拾がつかなくなるまで、このままで。
 誰かが動くまで、このままで。
 許されるなら、このままずっと…。

 今はただ、少しでも長く。
 そう、僕は狡くて卑怯だから。…こんな幸せでも満足してしまえる愚かな男だから。
 全てを望むなんて、そんな欲張りなことは言わない。
 僕は「彼」とは違うから、彼女の心も身体も魂も人生も全てなんて、
 欲しいと思わな―――――‐‐‐


「でも、あと何回の「さよなら」を僕は君に言えるんだろう。」


 独り言は、月の明かりで星も見えなくなった夜空に、吸い込まれて消えた。






**********

...end.

 

 

ロン編。ごめんなさい!(土下座)
暗いの書き始めたらどこまでも坂を転がるように暗いのがとりさんのシリアスだとあわわ。
課題曲、妙に醒めている感じの歌詞がロンだなぁと(笑)
全てを「暇だったのかもしれない」で片づける歌詞初めて見たわ(笑)
本音から大人の振りをして、目をずっと逸らし続けているのが今回のロンの役回り(殴)
倦んだような淡々とした雰囲気の中に
ちらっ、ちらっと垣間見える熱や炎を出したかったんだけど、……
出したかったんだってば!(逆切れ)
くっそー、サブタイトル「青いイナズマ」とかにすればよか…(激しく違)

**********
忘れていた笑顔取り戻して 力いっぱい冷たい海走ってる
凍りつきそうだよ

かなわない 夢ばかり 届かない 影探し
追われてる 追っているうちに
なぜか居場所がなくなって

さよなら いつか全て分かち合える
迷路のような毎日の中
いつかはきっと仲良く生きていける 生活とか環境とか

自由 体中で感じている
目覚めて 初めて安らぎ感じてる
Pesce of mind
忘れそうになった時に 身近に感じるのは私だった

背伸びして 見ていたよ そっと壁の向こう側
どうなてるの 知りたくて いつもだけど 隠れて
ぐっとこらえ 偶然悔いが 残りそんな世界
曇り空も 暗い海も 怖い過去もさよなら

あなたが いなくても 笑ってる ふっとひとり部屋にいると
落ち着く 様な気もするけど もうすぐ寒くなるのわかってるの?

ベットに倒れて眺めていた 遠い日のあこがれの誰かのポスター
涙吸いこまれて流したね 暇だったのかもしれない

Today and tomorrow すべて受け止めてわかった
Somebody 喧嘩もしたけれども
Lonely day 二度と会えないかもしれない
だけど自由だけ残った

抜け殻の様にね

静か過ぎた そんな過去は 今は騒ぎ 救い求め
かみつきたいほど 駆け足かすかに心の中
愛を貸したり 借りたり
両目細め 遠い景色 ピント合わせ そして閉じて
片目開けて 定め眺め 涙こぼれ 願い叶え
軽いケンカ 孤独なって 置き忘れた 心消えて
光る指輪 長い間はずして

さよなら いつか全て分かち合える 迷路のような毎日の中
いつかはきっと仲良く生きてゆける 生活とか環境とか

ベットに倒れて眺めていた 遠い日のあこがれの誰かのポスター
涙吸いこまれて流したね 暇だったのかもしれない

Today and tomorrow すべて受け止めてわかった
Somebody 喧嘩もしたりしたけれども
Lonely day 二度と会えないかもしれない
だけど自由だけ残った

抜け殻のようにね

―――――"SaYoNaRa" Tetsuya KOMURO

むしろ来生たかおの「夢の途中」くらいで(笑)
愛した 男たちを 想い出に替えて
いつの日にか 僕のことを 想い出すがいい
ただ心の 片隅にでも 小さくメモして
ってな感じで。暗〜〜〜。


 

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