+++「プリンセスダイアリー」+++

 

 




「……?」

 ドラコ・マルフォイは首を捻った。
 今年のハロウィン、彼は『ハムレット』の仮装をする筈で、
 その為の衣装を実家からフクロウ便で送ってもらうよう頼んであったのだ。
 だが、今朝になって届いた箱を開けると、明らかにそこには頼んだのと違う衣装が納められている。

「屋敷しもべ妖精が間違えたのか…?」
 それもこれもドビーがハリー・ポッターに唆されて居なくなったからだ、
 と少し苛立たしく呟きながら、ドラコは箱の中から衣装を取りだした。

「これじゃ…ハムレットではなくてオフィーリアだな。」
 ばさっと広げて呟く。入っていたのは、中世の身分の高い女性が身につけるような純白の華やかなドレス一式であった。
 アクセサリーや扇子などの小物までご丁寧に添えられている。
 どちらかというとティアラでも似合いそうなそれにどこで間違えたのかと苦笑しつつ、もう一度箱に収めようとした。

「仕方がない、もう一度母上に頼んで送ってもら…。」

「ちょ〜〜っと待ったぁ!」

 突然の横やりに、ドラコは思わず目を見開いて口をパクパクさせる。
「は、ハリー・ポッター?!ここはスリザリン寮だぞ、なんでここにいる!!」
 しかし、ハリーはその問いかけをさっくりと無視する。
「ん、そんなことはどうでもいいのさ!それより、君にはその衣装を着て貰わなきゃ困るんだよ!」
「どうでもよくは無いだろう!誰が通したんだ!!」
 あくまで食い下がるドラコに、ハリーがニヤリと人の悪い微笑みを浮かべた。

「愛し合う二人の間に障害も垣根も存在しないのさハニー。」
 人を食った物言いに、ドラコの形のいい眉毛がきりきりとつり上がる。
「誰がっ!愛する二人だ気持ちの悪い!!クラップ!ゴイル!こいつをつまみ出せ!!」
 しかし、ドラコの声に返答はない。ハリーがにたりと笑う。
「あー、ダメダメ、二人はスリザリン寮&グリフィンドール寮女子有志の方々が引き留めてくれてるから。」
「ゆ…。」
 あまりのことに口をぱくぱくさせて言葉を失うドラコを後目に、
 ハリーはいそいそとその手元のドレスを覗き込んで満足げな溜息をついた。

「綺麗だろうなぁ、これ着たドラコ…。」
「ウットリと気持ちの悪い事を言うなぁ!」

 鉄拳パンチを食らわせたい勢いでドラコが猛抗議をするが、当のハリーはどこ吹く風だ。
 その後、急に真剣な表情になって言う。

「ね、ドラコ、今夜のハロウィンパーティ、仮装カップル決定戦やるって知ってるよね?
 優勝カップルの寮にはそれぞれ50点ずつ入るっていうやつ。」
 突然尋ねられ、根が正直なドラコはつられて頷く。

「あ、ああ…僕はハムレットとオフィーリアでパンジー・パーキンソンと出…。」
「勝てる訳無いだろ、そんなの!!」
 ハリーが鼻先で一蹴する。そして徐に言い放った。

「君は僕と二人でアーサー王とギネヴィアで出るんだよ!」
 高らかな宣言に、何を馬鹿なことを!とドラコがカッとして口を開く。
「はぁ?!寝言も休み休み言え!!」
 しかしドラコの反論に、ハリーはちっちっ、と指を振って答える。
「本気も本気、超本気。僕。パートナーは君以外頭に浮かばなかったし?」
「嘘をつけ嘘を!パートナーじゃなくて犠牲者の間違いだろう?!」
 わめくドラコに疑い深いなぁ、と苦笑してからハリーはきっぱり言い放った。

「勝利のためには手段は辞さないのが英雄でね。」
「誰がだ、誰がっ!!」
「綺麗だろうナァ、ドラコのお姫様。」
「じょ、女装はゴメンだぞ?!」
「女装だなんてそんな風に言って欲しくないなぁ。君のは寧ろ何?芸術って奴?」
「アホかぁ!」
 真っ赤になってぎゃんぎゃんと怒鳴るドラコに痺れを切らしたのか、ハリーが腕を伸ばした。

「ちょっと失礼。」
 言いながら、ドラコの華奢な身体を軽々と肩に担ぎ上げる。
「強制連行…みたいな?」
「なっ、なにをする、は…離せっっっ!!」
 暴れるドラコを無理矢理押さえ付けながら、ハリーは上機嫌に喋り続ける。

「君がオスカルで僕がアンドレも考えたんだけどさー、時代はヅカより正統派かなぁと。」
「は、離せ!黙れ!!」
「花魁揚巻と助六も考えないでは無かったんだけどさ、誰が髭の意休やんのさスネイプ?って話になってさー。」

「話を聞け〜!!」

 一人上機嫌に喋り倒すハリー・ポッターの肩の上でじたばたもがく
 ドラコ・マルフォイの運命がどうなったかは今更語る間でもない。

 こうしてまた、ドラコ・マルフォイの日記にはハリー・ポッターを倒すための理由が
 涙の跡と共に太字で付け加えられることになるのであった。





END

 

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