1つの魔法

-My happiness in life depends on your love.-



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「ロン。」

 名前を呼ぶ。
 赤毛の少年が振り返った。
「なんだよ?…あ、ちなみに薬草学の宿題なら僕もできてないぜ?」
 本当の用は違ったけれど、僕はワザと表情を作る。
「嘘ぉ?ロンだけが頼みの綱だったのに!」
「ハーマイオニーに聞けよ。」
「こないだから聞きまくってるからさ、もういい加減不機嫌ゲージが満タンでね…。」
 首を振ると、ロンはしょうがないなぁ、お互い、と言いながら軽く笑った。

 とくん、と心臓が跳ねた。
 宿題なんて、とっくに鞄の中に入っている。
 そう。ただ、名前を呼んで、この微笑みを見たいが為の。

 この、魔法界に来て。僕は初めて、未知なる力を信じた。

 なかでも、僕に起こった一番の奇跡が。
 信じられないほど幸運で幸福な魔法が。
 呪文名「ロン・ウィーズリー」っていう、
 この、目の前の赤毛の少年。

 並んで歩く。僕より頭半分ほど長身の彼は、朗らかで優しくて熱血漢で、まぁ…寮の人気者だ、平たく言えば。
 天性のムードメーカーで、少し甘ったれで。
 けれど、誰より情に脆くて友情に篤い。
 つまりは、好かれる要素満点、って訳だ。

 目下の所、僕が入学以来の親友として独占して居るんだけれども。
 もう一人、異性の親友も居て、僕達は三人のチームではあるけれど、
 ロンはやっぱりちょっと、僕にとってはその…特別なんだ。
 最も、ロンの方は僕とハーマイオニーの扱いに差なんて特になくて、
 それは少々寂しいんだけれども。

 言わなくても察してくれる。
 躊躇ったら、掴み上げてくれる。
 いつでも、僕を支えていて、くれる。


 魂の伴侶ってこういう感じなのかな、と思って少し赤くなる。
 照れくさいけれど、もう一度心の中で反芻する。

 ああ、僕は幸せだ。

 魂の、一番美味しいところを。君は僕に与えてくれる。
 無防備な笑顔とか。
 無邪気な笑い声とか、隠そうともしない感情とか。
 そのくせ、時々驚くほど大人びて。
 

 ハーマイオニーに、メロメロね、と笑われるわけだ。
 はぁ、と溜息を付く。曲がりなりにも、腐っても僕は英雄。…らしい。
 それなりの威厳を保たなくちゃ、ロンが誇れる親友であるような。

 びしっと背筋を伸ばして、ロンの隣りに腰を下ろす。
「な、ちょっとそっち詰めろよ、教科書忘れて来てさ、見せて…。」
 言いながら、顔だけこっちに向けて乗り出してくる。

 思わず。横顔に、見とれた。

 うっわ、睫、長……。
 あ、ダメ。僕やっぱメロメロかも…。
 耳元で掠れた低い声が囁くたび。腰が抜けそうになる。
 脊髄に直接「来る」、…純血の魔法使いって、こういう意味か?
 なんて、馬鹿なことまで、考えて。

 急に、ロンが僕を見上げた。
 深い深い海みたいな青い瞳に覗き込まれ、僕の心臓が心筋梗塞さながらに引きつる。
 じっと見つめられると、全身の血管が逆流しそうになる。沸騰する。
 ピープー!と耳から蒸気を吹きそうな僕の前で、更にロンがにっこり微笑んだ。
 あ、ダメ。
 もう僕のことは人間薬缶って呼んで〜!状態の僕に向かって、ロンが囁く。
「ハリー、この、問い3の答え分かるか?僕、当たりそうなんだ。」
「え、あ、う…。」
 問い3どころか、アルファベットもおぼつかない様子の僕に、ロンを挟んで座っていたハーマイオニーが深い溜息を付く。

「ロン、ハリーが集中できないから…私の教科書見たら?」
「え?」
 ロンはきょとんとするが、ハーマイオニーはそのローブの袖を引っ張る。
「いいから。…どこが分からないの?」
「あ、うん、…あのさ、ここ…。」
 言いながら、その細くて長い指が、ハーマイオニーの教科書の上を滑る。
 ああ、羨ましいな、…予習しておけば良かった。
 仲良く顔をつきあわせる二人に多少恨みがましい視線を送る。
 特に、栗色の髪の少女に。

 気付いたハーマイオニーが軽く頭を上げて、ロンの頭越しにあかんべぇをした。

 あ。
 むかつく。

 彼女も結構ロンを気に入っていて、ちょくちょくこういう
 応援なんだか手助けなんだか妨害なんだか分からないことを仕掛けてくるんだけれども。
 でもその代わり僕は昼も夜も寮の部屋まで同じだもんね!
 と訳の分からない優越感に燃えながら、僕は授業に集中しようとした。

 だけど。ひそひそと囁き交わす隣の二人が気になって仕方がない。
 くくっ、と小さくロンが笑った。楽しそうに。
 死ぬほど混ぜて欲しいけど、三人でしゃべり出したら立派な授業妨害だ。
 こーゆーとき三人組は損だよな、と思いながらぼんやり聞き耳を立てていると、
 ぽん、と手に何か当たった。
 見てみると、小さい羊皮紙の切れっ端。
 びっくりして隣を振り向くと、ロンが軽く笑ってウィンクをする。
 広げると、『暇だよな!』と一言。
 僕の存在を忘れていないことに幸せを感じながら、急いで返事を返す。

 最後には、ハーマイオニーの『文通は授業が終わってからにしなさい!』というメモが来るほど。


 こんなささやかな。
 授業中でさえ。
 この学校での生活は、僕にとってはもう魔法の贈り物だ。


 授業が終わった後、ハーマイオニーは程々にね、と僕に小さく耳打ちして、図書館へ一人行ってしまった。
 今日はクィディッチの練習もない。
「…ロン、今日はこれからどうする?」
「んー、取り急ぎあんませっぱ詰まってる宿題もないしな、ハーマイオニーと違って。
 魔法使いのチェスでもするか?こないだ、教えかけてた戦略の続き、やろうぜ。」
「うん!!」

 思いっきり頷く。
 こんなにロン依存度が上がっているとは自分でも驚きだ。
 孤独にも無視にも、慣れていると思っていたのに。
 彼を無くすことが、今の僕にとっての一番の恐怖であること、君は知らないだろう。

 ふと、思い立って聞いてみた。

「ね、これから何があっても、…僕の側に居てくれる?」

「当たり前だろ?なにアホらしいこと聞くんだよ。」
 ぶっきらぼうな即答に、僕は微笑んで。その広い背中に全力体当たりを喰らわせた。
「…っ、なにすんだよ!痛いだろーが?!」
「ごめーーん!!」
 笑いながら、捕まえようとする腕をかいくぐる。
「ちょこまかとっ…!待て、ハリー!!」
「捕まるかよ、シーカーだぜ?僕は!」

 ロンの腕が僕の腕を掴む。
 勢いが付いて、後ろに倒れ込んだ。
「うっわぁ?!」
「わぁ!!」

 頭を床にぶつけることを覚悟したけれど、何も起こらなかった。
 ロンががっちりと僕の肩を掴んでいる。

 思わず、気の抜けた声で呟いた。
「うっそ、支えてくれたわけ?」
 途端、ロンが噛み付くように叫んだ。

「ったり前だろ?!君一人受け止めきれないと思うなよ!!」
 真っ赤になって言われた台詞に、見る見る僕の顔にも血が昇る。
 思わず、口元を手で押さえた。笑いを堪えるのに、精一杯で。

「…いつまでも、後から来てると思うなよな。」

 そう言って。軽く微笑んで。
 ロンは、
 先に。…行ってしまった。

 廊下の角を曲がるのを完全に確認して。
 緩みきった口元を隠していた手を下ろす。

 ふらふらと手近な壁まで歩き、背中をつけてずるずるへたり込む。

「…ヤバ。」

 末期、かも。堪んない。
 心が。…君がいっぱいで。

 ああ、僕は。
 なんて。


―――これからも、ずっとこの魔法が、解けなければ。

 その為なら。
 なんだって。


 この、唯一つの魔法を。
 いつか君にも、返したい。





**********

...end.

 

 

はーい、ロンにメロメロメロリンラブなハリーです(笑)
きっとロンハーのロンもハーロンのハーマイオニーも
ドロンのドラコも避けて通るに違いありません、英雄形無しです(笑)
つか、誰が英雄?の勢い…。
青砥屋さん中糖度最高じゃないでしょうか(爆笑)

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1つの魔法を あなたはくれるよ
それはhandsomeな瞳に隠した
心が灯した魔法 終わりのない愛しさを与え
数え切れない笑顔を見せて 心が求めた人よ
嵐が走った渚のように 書き直した歌詞のように
心が灯した魔法
ああ風と光があなたに恵むように最初から感じた
ああ緑の中であなたは硝子よりも透き通って見えた
急に急にあなたの瞳から来るその力は軽い衝撃波
1つの魔法を あなたに返すよ
値段のないおくり物 それは 未来への魔法

「1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)」小沢健二

 

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