太陽と月に背いて

-NOSTALGIA-



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 女性に物を贈るのは初めての経験だった。
…と、後になって氏は懐古している。



「モリー、モリー?」

 庭の生け垣の間を歩いているところをクラスメートに呼び止められ、モリーは振り返った。
「あら、なぁに?」
「なぁにじゃないわ、あなた、卒業したら
 アーサー・ウィーズリーと結婚するって噂が流れているけど、本当?!」
 目を三角にして詰め寄る女生徒に、モリーは苦笑した。
「すぐにじゃないわ、アーサーは魔法省に入るでしょうし…。」
「じゃあ、結婚は本当なんだ…!」
 口を大きく開けて唖然とした表情になる相手に、モリーは首を傾げる。

「なぁに、そんなにおかしいかしら?」
「おかしいじゃないわよ!あなた成績も悪くないし、卒業して仕事はしないの?」
 本当に?と尋ねられて、モリーははにかむように答えた。
「だって私、早く結婚したいの。…子供は沢山欲しいし…。」
 クィディッチのチームが作れるくらい子供を産むとしたら、
 一年だって無駄にできないでしょう?とにこにこ顔のモリーに、級友は空を仰いだ。

「神様、早くも人生の墓場に入ろうとする彼女をお救い下さい…。」
「失礼ね。」
「失礼じゃないわよ!あなた、影では『グリフィンドールの太陽』って呼ばれてたの知ってる?」
 言いながら、少女はモリーの見事な赤毛の頭を指さした。
「数多の男子生徒を誘惑するその魅力!アーサーは悪い人じゃないけど、勿体ないわ…。」
「誰に魅力があるっていうのよ、馬鹿ね…。」
 少女の言いぐさに、モリーは笑おうとした。

「なにが勿体ないのかい?」
 その時、背後からかけられた冷たい声に少女達は文字通りすくみ上がった。
「…マルフォイ。」
「やぁ、グリフィンドールの太陽さんとやら、お元気かね?」
「ええ、元気よ。あなたも相変わらず顔色悪くて不健康そうね、ルシウス・マルフォイ。」
 そこには、スリザリンの制服を着て顰めつらしい表情をした少年が立っていた。
 モリーと立ち話をしていた少女がその嘲笑うような表情を見てそそくさと立ち去る。
 取り残されたモリーは気丈に彼を睨み返した。

 ルシウスがくっと皮肉っぽく唇の片方をつり上げる。
「Mademoiselle Soleil de Gryffondor,(グリフィンドールの太陽)とは、また随分な名前だな?」
「うるさいわね…」
 イツモノコトだが、グリフィンドールの生徒に絡むとき特有の彼の意地の悪い口調に、
 些かウンザリしたようにモリーが反論する。
「それに別に私が言い出した訳じゃないもの。」

 それにね、とモリーは続ける。
「太陽のなんの言うくらいなら、もっと相応しい素敵な人が居るじゃない?
 スリザリンの、ほら、なんて言ったかしら…。」
 お月様みたいに綺麗な子が居るわよね、と続けたモリーに、ルシウスが白々と続けた。
「彼女は私の婚約者だ。」
「……あ、そう。」

 流石にモリーが鼻白んだ表情になる。ルシウスは会話、という単語の意味を知っているのだろうか?
 それとも知ってても私とはしたくないだけかもね、と内心彼女は苦笑した。
 彼女はグリフィンドール生にしてはルシウスとよく話す方なのだが、
 (アーサーに至っては道で顔を合わせても口も聞かないほどお互い嫌い合っているようだ。)
 悪口雑言憎まれ口には全く持って事欠かない。
 とはいえ物事を寝に持たないたちのモリーはすぐに気を取り直した。

「そう、やっぱりマルフォイ家のおぼっちゃまは違うのね、婚約者が居るなんて。」
「親が勝手に決めた縁組みだがな。」
 興味もなさそうに言うルシウスに、モリーがダメよ、と苦笑する。
「結婚は素敵な物じゃなきゃ。」
 せめて愛する努力はしなきゃね、仲良くなる為に、
 と知ったように言うモリーに、ルシウスは肩をすくめた。
「まるで結婚生活に夢を持っているような口振りだな?」
 お目出度いことだ、と皮肉げに笑う少年に、少女は怒ったような口調で食ってかかった。

「あら、持っているわ?いつでも笑いが絶えないような家庭で、
 子供達はやんちゃで素直でクィディッチのチームが作れるくらい居るの。
 私は子供達にセーターを編んであげて、……。」
「もういい、分かった。」
 まくし立てるモリーをルシウスがウンザリしたように遮る。
「お前のそんな少女チックな願いを叶えてくれる男は居たのか?」
「居るわ。」
 この質問には彼女も胸を張って答えられた。
「へぇ、どこの物好きだ?」
「あなたの嫌いなアーサー・ウィーズリーよ。私たち、卒業したら結婚するの。」

 この答えを、ルシウスは予想して居なかったようだった。
 呆気にとられたように硬直する。
「…何だと?」
「結婚するの。」
 モリーの答えは変わらない。堂々と幸せそうに言い切られた宣言に、
 やっとルシウスが事情を呑み込む。

「…あいつ、嫁を貰うような余裕があるのか?」
「なくても押し掛けるつもりよ、私。」
 きっぱりと言い切る赤毛の少女に、白金の髪の少年が首を振った。
「お前が太陽というのもあながち間違いではないな。強引で我が儘で…。」
「ちょっとちょっと。」
 モリーが何をいうかなぁ、とツッコミを入れる。

 ルシウスはそんな彼女をしばらく眺めていたが、ふと思いついたように呟いた。
「それでは…結婚祝いを用意しないとな。」
 この発言に、モリーは心底驚いた。
「ええ?!結婚祝い?!あなたが?!」

 呪いの髑髏とか浮気促進剤とかじゃないでしょうね、
 と疑わしげなモリーに、ルシウスが憮然とした表情になる。

「お前、なにか誤解していないか?僕だって結婚祝いだというのに不吉な物は贈ったりしない。」
 まぁ、贈ってやりたいくらいだがな、ウィーズリーの奴には、と顔を顰めながら、
 ルシウスは生け垣に咲いていた見事な大輪の花を一本折り取った。

「…ほら。」
「うわぁ安上がりねおぼっちゃま。」
「いらないなら…。」
「冗談だってば。」
 嘘よ、ありがとう、と微笑みながらモリーが差し出された白い薔薇を受け取る。
「…綺麗。」
「似合わないけどな。」
「もう!あんたはいちいち人の気に障ることを!!」
 あんたの婚約者の方に似合う花でしょうよどうせ、
 とふてくされたように言うモリーに、ルシウスが声を掛けた。
「なぁ。」
「なぁに?」
「もし……。」
 モリーはすぐに振り返る。ルシウスは何かを言いかけて躊躇い、
 しばらく何事か考え込んでいたようであるが、
 じきに首を振っていつもの自嘲気味な少年に戻った。

「…いや、そのくらいたおやかなら苦労もしないんだろうが、流石にウィーズリーの奴に同情するな、と思ってな。」
「そりゃ、悪ぅございました!」
 べぇ、と舌を出して少女は走り去り、少年はその後を見送ると。
 ポケットから一通の封筒を取り出して、勢いよく破り捨てた。

「…やはり、血迷わなくて正解だったな。」
 それは差出人不明のバレンタインデーのカード。
 フクロウ小屋で散々悩んで、結局出せなかった物。
 風に舞い散る紙片と同時に、溜息混じりに漏れる声。

「私には月が相応しい。…太陽などにそうそうかかずらって居られるか。」


 そして皆の知るところになるおなじみの話が繰り返され、
 彼女は自ら望んだとおりの暖かい母親となり、彼は冷たい領主となって、
 既にお互いに学生時代があったことなど忘れてしまった。


 余談になるが、無意識に彼が選んだ白い薔薇の花言葉は、

 "I am worthy of you.(私は君に値する)"

 この言葉の意味を知るものは、この世の中にただ一人も、居ない。




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end.

 

 

なんでこんな素っ頓狂な茨の道カップリングが好きなのか分かりませんが、
親世代アダルト(笑)のアールシではなくルシウス→モリーという構図がちょっと微妙に
ええはいごめんなさい妄想でございます(汗)
しかしマジでこうならそりゃアーサーおじさん苛められるよね…(笑)

 

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