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結局捕まえられないくせに。偉そうなこといってんなよな。
ばか、見てろ、今度こそ。
言いながら、フレッドとジョージは逃げ水をどちらが捕まえられるかというやくたいもない競争をしていた。
不幸な弟が、そこに顔を出す。
「なにを、しているの」
「「ローニィー!」」
抜群以上のコンビネーションで、双子が庭の向こうの揺らめく水たまりを指差す。
「「アレが捕まえられるかい?」」
赤毛の幼い少年は窓から身を乗り出して、よいしょ、うんしょ、とぽとりと落ちるように庭に降り立った。
「できるよ、簡単さ!」
いいながらとてとて走っていくが、行った先には当然水がない。
困惑したようにうろうろ立ち往生する弟を窓枠にもたれ掛かってげらげら笑いながら双子が見ていると、窓から伸びてきた手にぽかりと同時に拳固を喰らわされる。
「フレッド、ジョージ、ロンをいじめるなよ。逃げ水が捕まえられるわけがないだろう?あれは蜃気楼の一種で……」
偉そうに呆れたようにお説教のごたくを並べるパーシーの前で、拳骨の主のチャーリーはほら、ロニィを迎えに行ってこい、と弟たちを指差す。
「待って」
長兄がにこにこと微笑んで杖を抜いた。同時に、窓の外で心細げにおろおろする末弟に向かって、声をかける。
「ロニィ!」
少年が振り向いて、歓声を上げた。
天から降り注ぐ甘露、出現する虹。
「ビル」
チャーリーが振り返ると、どうせママに庭の水やりを頼まれていたんだ、と弟に甘い兄は苦笑する。
「行くぞ!」
「参戦ー!!」
双子が何がおかしいのか、ロンにめがけてタックルを繰り出す勢いで駈けていった。
行きがけの駄賃に、何故か家の中に居たはずのパースも攫われる。
「我々も行こうじゃないか」
急に騒々しくなった庭の喧噪を呆れながら眺めていると、ぽんと兄貴に肩を叩かれ、チャーリーは苦笑した。
「どうせみんな、運動神経ではおれに適わない癖に」
笑いながらはしゃぎながら今度はめいめい本当に水を出してきてかけあった。
パパもママも呆れたように家の中からこちらを見ていたけど、パパはその内に面白くなってきたようで最後には参戦して来ちゃった。
ずぶ濡れで、パパまで揃ってママに怒られて、男同士で目配せして。
その後で、みんな手を洗っていらっしゃい、なんてちびっ子のジニーに偉そうに言われながら、ママが作ってくれたアイスクリームをみんなで食べた。
フレッドとジョージがチョコレートソースを大盛りでお代わり、と叫ぶので僕も、とあわててお皿を空にしたら、ロニィはまだ小さいからお腹を壊すからいけません、とママが入れてくれなかった。
悔しくて空の底に少し溜まった溶けたアイスを名残惜しげに眺めていると、ぽとん、ぽとんとアイスが落ちてきた。
びっくりして見上げると、ビルとチャーリーが自分の分を分けて入れてくれたのだった。
その向こうで兄さん達は甘いなぁ、とパースが肩をすくめながら悠々と己の取り分を確保している。
ロンは、大事にちびちびと、でも溶けてしまう前に出来る限り素早く、そのアイスを食べた。
逃げ水のような、もう二度とは捕らえられない猛暑の日のことだった。
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+++END
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