HAPPY BIRTHDAY !!, Harry !!

熱帯夜

-Such an abominable World.-



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"Happy Birthday Harry Potter."


 うなされて、目が醒めた。

 ふぅ、と息を吐く。水でも飲もうかと、隣の良人を起こさないようにそっとベッドを抜け出た。
 キッチンは暗く、空調も効いてはいない。
 溜息混じりにフリーザーから水を出し、グラスについて一気に飲み干した。
 二杯目に製氷皿から取り出した氷を入れながら、彼女は先程まで見ていた夢の内容を思い起こす。
 鮮明ではないので、止めてしまったが。

 夢を見ることは良くある。
 夫が馬鹿にするので口にはしないが、メッセージ性の強い内容で有ることが多い。
 今夜の夢の主役は、黒髪の少年と、燃えさかる炎だった。

「あの子が、帰ってくる。」

 呟く。勿論息子のことなどではない。
 どんなにかこの日が恐ろしく、待ち遠しかったことか。
 しばらく夢など見ていなかったのに、「彼」が戻ってくるこの時期になると、見る頻度が徐々に上がっていく。
 思い返したくもない血脈の絆を見せつけられているようで、酷く忌々しい。

「四年目が終わる。」
 指折り数えて早四年、折り返しは過ぎた。
 七年目を終えた後、「彼」はあの男のようになってしまうのか。

「そうはさせないよ、ジェームズ・ポッター。」
 ぎゅっ、とシンクの縁を掴んだ。きりきりと力を込める。
「あんたは私からリリーを奪っている、この上甥まで連れて行かせやしない。」

 まともに育ててやろうと思った、なのにあの男の力を濃く継いでいるらしいハリーは、
 幼い頃から強力な魔法の片鱗を無意識下で発揮し続けた。
 立て続けに引き起こされる異変を、彼女は制御しかねた。
 怒っても罰を与えても、彼は上手く自分の力をコントロールする事ができず、
 そうこうしているうちに叔母と甥の間には到底埋められないほどの深い溝ができてしまった。

「渡さない、誰にも。」
 呟く。魔法使いだかなんだか知らないが、この国ではハリーはまだ未成年だ。自分にこそ保護する権利も親権もある。
 誰が出てきても、それだけは譲る気はペチュニアにはなかった。
 同じ血の元にいないとハリーは死ぬ、と聞かされた所為でもある。
 可愛いなどとは微塵も思ったことはないが、あれでもリリーの忘れ形見だ。
 年々、あの忌々しい男に似てきて見ているとイヤになってくるが。

 我が息子のダドリーと引き比べてみて、どう贔屓目に見ても顔立ちも頭脳も勝っているのも余計に癪に障った。
 リリーに引け目を感じたことはない。
 彼女は魔女としては優秀だったかもしれないが、学校の成績はいつもペチュニアの方が勝っていた。
 夢見がちなリリーに比べて、ペチュニアは現実的でしっかりしていると言われていた。
 それなりにバランスの取れた仲のいい姉妹だと思っていた。

 あの男、ジェームズ・ポッターが現れるまでは。
 あれからだ、リリーが「完全に」あちらの世界に行ってしまったのは。
 あの世界が、彼女にとって忌むべきものになってしまったのも。

 結婚式の日、忘れもしない。自分たち家族を捕まえて、
 あのジェームズ・ポッターの友人と取り巻き達は
「穢れた血と結婚するなんてジェームズの気が知れない。」
 と影で囁いていたのだ。
 穢れた血とは何事だ、と心底ペチュニアは腹を立てた。
 こんな選民意識の強い輩共、訳の分からない、
 神に背いているとしか思えない力を平気で振りかざすやつがら共の生きる世界の方が余程穢れきっている、と言ってやりたかった。
 リリーが幸せそうでなければ、彼女は何がなんでもあの結婚を阻止しただろう。

 忘れもしない。
 ハリーはあの悔しさの、憤りの残滓だ。
 ぶつけるのはお門違いかもしれないが、ホグワーツを選んだ時点で、あの甥は魔法使いになることを決意したのだ。

 リリーの血なら諦めもする、しかし彼の学舎から還ってくる度、父親に似てくるハリーに、彼女は恐怖にも似た感情を覚え始めていた。

 ジェームズ・ポッター、あんたはリリーを連れて行っただけでは飽き足らないのか。
 玄関口にハリーが置き去りにされていた時に付いていた手紙に書いてあった、彼の両親は邪悪な魔法使いに殺されたのだと。
 ジェームズ・ポッターに関してはざまを見ろと思ったが、リリーまで巻き添えになったのはショックだった。
 そうまでして守った我が子が、自分の所に来たのは巡り合わせだと思った。

 リリーは本当はあの世界を厭っていて、それで自分の、関係ないマグルとやらの所へハリーを寄越したのだと。
 そういう、意志を感じた。

 だからまだ、諦めない。
 邪悪な魔法使いだかなんだか知らないが、こちらには文明の利器だってある、警察もいる、
 いざとなったらどんなにあの子が嫌がろうと無理矢理に海外に引きずり出してしまってもいい。
 そう、幾らだって手はあるのだ。そう思うと、微かに口角が笑みの形に吊り上がった。

「そうして、五年目が始まる。」

 ペチュニアは低く呟いた。ハリーがホグワーツに行ってから、夫や息子達まで魔法の力に慣れ始めている感じがある。
 無視、または黙殺という出方ではあるが、ハリーの朝食の席にフクロウが飛び込んでくるくらいでは小言は言うが驚きもしなくなった。

 このまま、流されるように巻き込まれるのか。
 折角断ち切ったと思ったのに。あの忌まわしい世界との絆を。
 そんなこと、有ってなるものか。誰も連れて行かせない。
 あの世界には、自分の身の内の者は、もう誰一人。

 エヴァンズの血を引く者は、もう彼女の他はハリーとダドリーを残すのみなのだから。
 ハリーが悪しきものに付け狙われるというのなら、自分たちだって同じだろう。

「後、二年。」
 後二年で彼女のハリーへの守護は切れる。その後の人生はハリーが勝手に選ぶだろう。
 だが、まだ勝手なことはさせない。

「あの世界には、もう誰だって渡しはしないよ。」
 言葉の最後を遮るように、グラスの氷がカランと音を立てて沈んだ。



 奇しくもこれはハリーが学年の最後に、セドリック・ディゴリーの葬儀に出席しようという、その当日の出来事であった。




**********

...END.

 

 

ハリーお誕生日創作ですv(嘘こけや…)
ハリーの生まれ…とか思っていたらほーらこんなに暗いお話にv
しかも主役はペチュニアおばさんってそれどーよ(笑)←笑い事か。
こんなんでも祝ってるんです、祝ってるんですってば!!!

 

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