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ホグワーツの愛と平和のために。
「あれ?、どこに行くの?」
ハリーならあっちに居たよ、と道行く赤毛の少年に呼び止められ、はびくん、と足を止めた。
「そ、そそ、そう…。」
「うん、今日、バレンタインデーだろ?なんか君にあげたいって、計画してるみた…おっと、ごめん、口滑らしたの内緒にしといて。」
照れたように微笑む気のいいクラスメートには困った笑顔を送る…ところだが。
いつもなら。
けれど今日は生憎と、そんな気分じゃない。
・はホグワーツはグリフィンドールの学生であり、
なんと彼の魔法界の英雄、ハリー・ポッターに見そめられ。
どこが気に入ったのか分からないと散々ぐずり倒す彼女を
なだめたりすかしたり時には脅したりしながら包囲網を確実に狭めてきた
狙った獲物は逃さないハリーの恋人になることを受け入れて、約二年ほど。
口で言うより優しいハリーと一緒に過ごすのは、にとっても幸せなことだった。
デートをしたり、一緒に勉強をしたり。
話し上手で顔も頭も良く、おまけに運動神経まで抜群というハリーは申し分のない恋人だった。
だから。
だから構わないと思ったのだ。…その、夕べ。
バレンタインデーの贈り物代わり、と称して彼が…その。
に永遠の愛(なんて恥ずかしい響き)を誓ってくれた時は。
そのまま、空き教室で二人…これ以上は表では言えない。
まぁハリーと彼女はココロもカラダもれっきとした恋人同士になったということだ。
そして話は現在に至る。
―――だってだってだって、あんなに痛いわ恥ずかしいわ疲れるわだなんて思わなかったんだもの〜〜〜〜〜っっ!!!
心の中で大絶叫、キーワードは「バレンタインデーの贈り物」。
挙動不審で顔が赤くなるを、ロンが不審げに見つめた。
「…あれ?どうしたのさ、。顔色悪いよ?」
「そ、そそそそそう?!そんなことない、元気よ?!」
「そうか?顔、赤いし…あれ、首…赤い湿疹出てるよ?!なんか君、ヤバイ病気じゃないの、それ?」
言いながら一歩踏み込んでくる少年に、は内心絶叫しまくった。
―――湿疹のわけがないでしょーーーーーっっ!!!ハリーの馬鹿ーーーーーっっ!!!
あれだけあれだけ人が痕はつけないでねってお願いしたのにあーの腹黒〜〜〜っ!
とこの場にいない英雄を罵倒しながら、は後に下がった。
「ほ、ほほ、ほんとに大丈夫だからね、ロン、女子寮に帰って寝てれば直るから、ね?!」
「ダメだよ、君に何かあったらハリーがどんなに心配すると思ってる?ポンフリーの所に行こう!」
友人思いで義侠心に溢れた、それがロンのいいところだ。いいところだ…が。
―――なんっでこう鈍感かなぁっ!放っておいてって言ってるでしょう?!このニンジン頭はぁぁっ!!
人がいいのも時には困りもの。は冷や汗で本当に気分が悪くなるかと思った。
医務室って。医務室に行って一体ナニを治療して貰うと。
問診?
『どうして調子が悪いの?ミス・』
『えーと、夕べハリーが寝かせてくれなくて寝不足で体中痛いし…。』
―――それだけはイヤアアアアアアッッ!!
一気に問診の会話まで妄想してしまって、は首を振った。
「わわ私、ほほ本当に大丈夫だから!そそ、そう、ロン、あなたこそハーマイオニー探さなくていいの?」
バレンタインでしょう?贈り物も渡すでしょう?!
という苦し紛れの誤魔化しにもロンは引っかからなかった。
「ハーマイオニーはここで君を見捨てた方を怒ると思うよ。」
ほら、段々顔色蒼くなってきたよ、等ときっぱりと言い切り、赤毛の長身の腕を彼女に伸ばす。
「お姫様だっこはハーマイオニー専用だからおんぶで勘弁してね?」
などとさりげなくナメたことを抜かしながらに広い背中を向けた。
「さ、乗って。」
「ロン、ホントにいいから…。」
「ダメ!医務室に行って、君をポンフリーに引き渡さなくちゃ!」
「……。」
は天を仰いだ。
嗚呼、なんて融通の利かない奴なのか。
この丈の合ってないローブの背中に蹴り入れて逃げ出したろか、などとが真剣に検討を始めた時。
「…何してるの?」
と、聞き慣れた声が彼女の背後からかけられた。
「あ、ハリー。」
ロンの声が僅かに硬くなる。彼は慌てて立ち上がり、親友の方を向き直った。
当然は突然の出来事に声もない、というか危うく卒中を起こすところだった。
「ロン……どうしたの?」
ゆっくりとかけられる声、けれどもそこにはたゆたう『不快』の感情。
「ああ、うん、がね、気分悪いみたいなんだ。顔も赤いし、熱もありそうだし。…ポンフリーの所に連れて行こうと思って。」
正直に事情を説明するロンの腕が微かに震えているのはの気のせいではあるまい。
絶対。明らかに。顔は見えないが雰囲気でさえ肌で感じ取れる。
恋人が親友の側に居るのを見つけたハリーは。
あの意外に嫉妬深くてねちっこくてしつこい性格の彼は。
口の悪い輩には「隠れスリザリン」等と呼ばれ、
あまつさえスリザリン生にまで止めてくれあそこまで狡猾じゃない等ととんでもない事を言われる彼は。
『暗黒大魔王・ブラックハリー降臨』している状態なのに違いない。
「でもま、君が来てくれたなら、君が連れて行った方がいいよ、ハリー。」
それを証拠にいそいそと彼女からじりじり距離を取る赤毛の少年。
オイちょっと待ってこのヒト押しつけて逃げる気?!
というの懇願の視線から明らかに目を逸らしつつ、
「じゃ!」
といい置くとロンはそそくさと立ち去った。
―――覚えときなさいよロン・ウィーズリー!後でハーマイオニーに言いたい放題吹き込んでやるからねーっっ!!!
等という彼女の心の内の大絶叫は聞こえたのかどうか。
とにかく、取り残された彼女の側でざくりと砂利を踏む足音がした。
「…。」
「ははは、はいっ!!」
びくっとして顔を上げる。そこにはにっこりと微笑む黒髪の少年。
ただし、緑柱石の瞳は「ちっとも面白くない」という真意を物語っているが。
―――おおおおお、怒ってる???!!!怒ってる〜〜〜??!!
どないすんねん、ぎゃー!!と叫びだしたいのを何とか堪えているに、ハリーは近づいた。
「大丈夫?風邪引いたって、…夕べそんなに無茶させたっけ?」
この台詞に。
の顔は真っ赤に染まった。
「ばばばばばばば…。」
「ば?」
「馬鹿なこと言わないで!」
「言ってないよ、心外だなぁ…そっちこそここで何してたのかな?」
気分が悪いって?ん?
聞いてくる表情はまさに「ザ・嫉妬」とか「ラ・焼き餅」とかいう文字が墨跡も黒々と大書されたような感じ。
「ああああの、ロンが、ハリーが私を捜してるっていうから…。」
言い訳なのか何なのか分からなくなりながらはぼそぼそ呟く。
大体、なんで自分は弁解などしなくてはいけないのか。
―――あの大ボケニンジン男、後でシメル、絶対コロス!
こんな困った状況にしてくれてー!と泣きそうなの背中に、ふわりと腕が回った。
一瞬遅れて状況を理解して、が今度は全身真っ赤になる。
彼女を抱きしめたハリーが、顔を覗き込みながら言った。
「そんな、困らせるつもりはなかったんだ…。」
「あぁの、ハリー?!」
「ごめん、…嬉しかったから、負担かけちゃったよね…ごめんね?」
耳元で囁かれ、は首を振った。
「う、ううん、そんな…。」
「あの後君が急に逃げるように帰ったから、嫌われたかと思った…。」
「え、う、そ、あの、恥ずかしかったし…。」
まさかみんなに見つかる前にシャワーを浴びたかったから即行逃げましたとは言えないが苦しい言い訳をする。
ハリーがほっと息をついた。
「…じゃ、イヤじゃなかった?」
「…う……。」
これは、もう。
首を縦に振るしかあるまい。
「……うん。」
はこっくりと頷いた。
「よかった。」
にっこり微笑んだ後、ハリーはやにわによいしょ、と彼女を抱き上げた。
「き、きゃああ?!ハリー、ちょっと!」
「気分、悪いんでしょ?しばらく横になってれば治るよ。」
「え、あ、じゃあ、女子寮まで…。」
恐る恐る彼女がした提案は。
「ダ・メ。」
という氷の笑顔で弾き返された。
たらり、との背中をいやあな汗が伝う。
この展開は、もしかして、もしかして……。
「大丈夫、ポンフリーより僕の方が得意な治療術もあるから。」
「って一体ナニをする気よ〜〜〜っっ?!」
「あ、大丈夫大丈夫。心配ないって。」
「不安に決まってるでしょ〜〜〜??!!」
おーろーしーてーー!!とじたばた藻掻くを気にも留めず、ハリーはそのまま歩き出す。
もしかしてもしかしなくても。
いや、あの、好きになったことは後悔しない、…多分しない、けど。
ひょっとしたら自分はやっばい男と最後の一線を越えてしまったのではないかと。
じわじわと全身に染み出してくる脂汗と共に、そんな思いがの胸に去来した。
ちなみに医務室へ行くと連れ去られたとハリーがこの後どうなったかは誰も知らない。いやむしろ、誰も知りたくない。
(ちなみに同室の赤毛の少年は周囲の同情を買って
親友の住まう女子寮の一部屋の床と毛布を手に入れてその晩はそこで就寝したらしいが。)
何はともあれ、とりあえず犠牲の可愛い子羊が居る間は平和で安泰なホグワーツであった。
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end.
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