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「もうじき、今学期も終わりかぁ。試験が近いよな。嫌んなっちゃうよ。」 放課後の図書室、勉強に飽きてきた赤毛の少年がぼやく。 「そうよね。授業が無くなるのは、とても残念だわ。」 栗色の髪の少女が、後を受ける。赤毛の少年は、うへぇ、と空を仰いだ。 「そろそろ、休み中の計画をたてなきゃいけないな。」 白金の髪の少年が顎に手を当てつつ呟く。左右に陣取る大柄な少年達が、後を追うように「そうだね」とか何とか続けた。 「止めてよぉ。休みなんて、一年で一番憂鬱なんだから、僕。」 くしゃくしゃの黒髪の少年が、恨めしげに机に突っ伏した。 「そんなに嫌なら、さっさと家を出ればいいのに。」 「未成年に貸してくれる家がどこにあるのさ、ハーマイオニー。」 じとり、と横目で睨まれ、ハーマイオニーが「それもそうよねぇ」と溜息をついた。 それは、日常の一コマ。 いつもと変わらない。…はずだった。 「…じゃあ、僕の家にでも遊びに来るか?」 などという、爆弾発言が聞こえるまでは。 「ええ?!ドラコそれどーいう風の吹き回し?!」 いいのいいの?ほんとにいいの?!と急に元気を回復したらしいハリーに、ドラコが苦笑する。 「ああ。別に、特に予定があった訳じゃないし。本家じゃなけりゃ、父上に気兼ねすることもない。ロン、グレンジャー、君たちもどうだ?」 続いたドラコの言葉に、ハーマイオニーが「私も!?」と腰を浮かした。 「嬉しい!私、一度でいいから魔法使いの旧家って覗いてみたかったの!」 屋敷しもべ妖精とか執事とか居るんでしょう、と興奮気味に言われ、ドラコがたじたじとする。 「あ、ああ。そんなに旧家がいいなら、マナーハウスにでも招待しようか?田舎だし、何もないけど…」 ハーマイオニーがうっとりした表情で手の平を組んだ。 「マナーハウスですって!!やっぱりマグルと同じでカントリーハウスがあるのね!ねぇねぇ、どんな感じなの?私、マグルの世界でも入ったことがないの!マルフォイ領はどこにあるの、ねぇ…」 「…落ち着け、グレンジャー。」 ハーマイオニーの剣幕にすっかり押され気味のドラコがロンの方を向いて「おい、何とかしてくれ!」と懇願した。突然の指名にロンがぽかん、と口を開ける。 「…なんで僕が。」 「グレンジャーは君の専門範囲だろう?!」 「何だよその『僕の』専門範囲って!」 聞き捨てならないな、と顔を染めつつ言い返すロンに、ハリーが苦笑した。 「…顔が笑ってるよ、ロン。」 「ハリーまで!」 裏切り者め、とぶつぶつ言いながらもロンは立ち上がり、 「落ち着けよ、ハーマイオニー。ドラコが困っているじゃないか。」 と彼女の肩に手を置き、席に着かせる。 「あら、ごめんなさい。私ったら、つい。でも嬉しいわぁ。ねぇ、ロン。楽しみよね、今から。」 「え?僕も行くの?」 「来ないの?!」 一緒に招待されたでしょ!と噛み付かれ、ロンが慌てて「行く行く!楽しみだなぁ!!」と手を振った。 「どうせ君はウィーズリー家にも遊びに行くんだろう?僕の家と両方回れば、休みなんてあっという間さ。」 夫婦漫才を展開中の二人をあっさり無視しながら、ドラコがハリーに笑いかける。 「うん、ありがとう、ドラコ。」 「なに、気にするな。父上と母上はバカンスで海外だ。今年は太平洋の島に行くと言っていたから、その間なら全然構わない。休みが始まってしばらくしたら僕の家に来て、その後でロンの所に行って、休みの終わりまで居ればいいじゃないか。」 「あ、じゃあ、その時君も僕んち来るかい、ドラコ。」 ロンが口を挟む。ドラコが小馬鹿にしたようにふん、と鼻を鳴らした。 「…ウィーズリー家に?一つ聞きたいが、僕の居場所まで取れるのか、君の家。」 「なんだと?!」 仲良くいつもの舌戦を繰り広げるロンとドラコを、ハリーは微笑みながら、ハーマイオニーはあきれ顔で見守っていた。 夏休み。 この単語が待ち遠しかったのは、生まれて初めてだろう。満面の笑顔で帰ってきたハリーを、バーノンおじさんとペチュニアおばさんは奇妙な顔で出迎えたが、ハリーはそんなこと気にも止めなかった。 いつもの通りの憂鬱な夏休みをしばらく過ごした後、ある涼風吹く夏の夜に、いよいよマルフォイのワシミミズクが招待状を運んできた。ハリーは胸をときめかせて封蝋つきの手紙を受け取り、次の日の朝食の席で早速こう告げた。 「おじさん、おばさん。僕、来週から、友達の家に遊びに行くから。」 そしてしばらく帰らないよ、と言われ、バーノンおじさんは「ああ。」と興味なさげに生返事をした。 「友達って、学校の友達かい?」 いつものウィーなんとかとかいう?と眉を顰めつつおばさんに聞かれ、ハリーは首を振った。 「ううん。違うよ。マルフォイっていう子。マナーハウスに招待してくれるんだ。」 「マナーハウスだって?!」 おばさんが驚いた顔をする。おじさんがフン、と鼻を鳴らした。 「どこのマナーハウスだって?魔法使いどもが荘園を持っているとは知らなかったな。」 お前の友人はまったく嘘吐きばかりだな、といわれ、ハリーは怒鳴りつけたくなるのをぐっと堪えた。ここで喧嘩をして、マルフォイ家に行けなくなったのでは折角の計画が台無しだ。 「…とにかく、おじさんもおばさんも、来週から僕のことは心配しなくていいよ。」 おじさん達に迷惑はかけずに、友達と大人しく遊んでくるから、とハリーは言い残し、それ以上何か言われないうちに食堂を後にした。 その週はダドリーの嫌がらせでさえハリーの気分を害することがなかった。張り合いなさそうに舌打ちするダドリーを相手にせず、着々と準備をする。どうせこの家では宿題もさせてもらえない。ハリーはドラコの別荘に一緒に来るハーマイオニーに教えて貰うのを当て込んで、宿題セットを鞄の底に真っ先に詰め込んだ。 一週間後。 天気は快晴。 ハリーの家のあるバージェット通りにほど近いところで、クィディッチの有名チーム名の刺繍された帽子をかぶった赤毛の少年が、連れの少女に不安そうに囁いた。 「ハリー、本当に出てこれるかな。」 「大丈夫…だと、いいけど。」 つばひろの帽子を被り、白いワンピースを着たハーマイオニーが心配げに呟く。風がさやさやと長めの栗色の髪の毛を揺らし、ロンはそんな彼女に一瞬見惚れた後、慌ててそっぽをむいた。 「じゃあ、ここで待っていてくれ。迎えに行ってくるから。」 背後から、三人目の人物が声をかけた。ロンが振り向いて、奇妙な表情を作る。 「…その、君、暑くないの、ドラコ。」 「別に。じゃあ、打ち合わせ通りに。十分たっても出てこなかったら…頼む。」 ジーンズとTシャツ姿のロンとは対照的に白い糊の効いたシャツをきっちり着込んだドラコが、不安げな二人の視線を余所に、おもむろにハリーの家に向かって歩き始めた。 そのころ、ハリーはまだ安眠を貪っていた。ドラコが迎えに来る日だ、というのは分かっていたのだが、前日興奮しすぎて眠れなかったのである。なかなか寝付けず、寝返りを打ちまくった挙げ句明け方近くになってやっと眠りに落ちた彼は、眠りの国から未だ抜け出せずにいた。 「…リー、ハリー!!」 大声で耳元で喚き散らされ、掛け布団を無理矢理ひっぺがされ、ハリーがベッドから転がり落ちる。 「な、な、何?!」 「お前の友達が迎えに来てるんだよ!すかした嫌味なやつだぜ。パパとママがお前を起こしてこいっていうんだ。早く起きろ!!」 仏頂面のダドリーに不機嫌な声で告げられ、ハリーは飛び起きた。 「ドラコだ!」 ああ、なんか一悶着起こしてなきゃいいけど。起きた拍子にサイドボードにぶつけた頭をさすりながら慌てて部屋を飛び出して、階段を半ばまで駆け下りたところで眼鏡をかけていないことに気がついて、取りに戻る。 「め、め、眼鏡っ、眼鏡!!」 霞んだ視界の中でベッドサイドを探り、目的のものを掴むと、ハリーは今度こそ階段を転がるように駆け下りた。 「バーノンおじさん、ペチュニアおばさん、おはよう!!マルフォイは…」 叫びながらドアを開ける。リビングルームのソファの向こうに、見慣れた白金の頭髪。室内に闖入したハリーの格好を見て、バーノンおじさんが顔を顰めた。 「何だ、ハリー!その格好は!!」 「あ、あ、おじさん、ドラコに何にもしてないだろうね、彼だって悪気がある訳じゃ…」 気にも止めず、ずかずかとドラコに近づく。 「ドラコ!」 「やぁ、おはよう。ハリー。…なんだ、君、まだ寝間着じゃないか?さっさと顔を洗って着替えてきたらどうだ?」 「……へ?」 ハリーが思わず間抜けた声を出す。それもそのはず、魔法使い嫌いの叔父叔母にさぞや辛く当たられている(なんと言ってもあの性格だ)予定のドラコ・マルフォイが、のんびりと彼の家のダイニングでお茶を飲んでいたのだから。ドラコはまるで当たり前のようにハリーに挨拶をし、寝起きのままの彼を咎めた。 「君が朝食を食べたら出発しようか。…待たせて頂いて構いませんか?ミスター・ダーズリー。」 「もちろんですとも!ゆっくりしていって下さいな、なにもお構いできませんですけれども。」 猫なで声で言いながら、ペチュニアおばさんがドラコの前にケーキの皿を置く。 「恐縮です、マダム。」 優雅にカップから紅茶を飲みながら、ドラコが硬直したままのハリーに視線を送る。 「…何を突っ立っているんだ?君は。」 「…いや、ちょっと、その、状況が理解できなくて。」 「おい、ハリー!いつまでマルフォイ君を待たせるんだね!すみません、礼儀を知らない奴でして。」 学校でも、貴方に迷惑をおかけしていませんかな、とバーノンおじさんが媚びるような笑顔で言う。 「いいえ。彼は、僕の掛け替えのない友人の1人ですよ。」 ドラコが非の打ち所のない笑顔でそう答えた。おじさんは 「そうですか、そうですか!ハリーの奴も少しはまともになったようですな、ははは!」 とか何とか答えている。ハリーは軽い頭痛と目眩を覚えながら不可解な光景の展開するリビングを後にした。 「お待たせ!」 シャワーを浴び、顔を洗って着替え、大きな荷物を引きずってハリーが二階から降りてくると、 「やぁ、待ってたよ!ハリー!」 「久しぶり!ハリー!」 と、懐かしい声の二重奏が彼を迎えた。 「ロン!ハーマイオニー!君たちも居たの?」 「ああ、ちょっと前からね。」 っていうか。僕、ますます状況がわけわからないんだけど…… ハリーの困惑がいっそう深くなる。ドラコは相変わらず涼しい顔でソファーの一番いい位置に陣取っているし、後から来たというロンとハーマイオニーの前にも紅茶のカップが出ていることから考えて、どうみてもお客様として扱われているようだ。部屋の隅の方では両親の注目を無くしたダドリーが、つまらなさそうにカーペットに八つ当たりしている。 「おじさんもおばさんも、一体どういう風の吹き回しなんだろう…」 「何をそんなところで訳のわからんことをぶつぶつ言って居るんだ!早くこっちへ来て朝飯を食べないか!友達が待って居るんだろう!!」 考え込むハリーを苛々したような口調でバーノンおじさんが呼ぶ。同時にドラコの方に向かって余所行きの声で、 「何もありませんが、良かったら一緒に召し上がって行かれませんかな?」 と続けた。 「いえ、結構です。食べてきましたから。構いませんから、ハリーにゆっくり食事をしてもらってください。」 「何て寛大なんでしょう。貴方のような生徒がいらっしゃるなら、ホグワーツとやらいう学校も、なかなか捨てたものではありませんな。…ところで、お父上は本当に建設大臣とお知り合いで?」 「ええ。マグル…非魔法族との折衝も、父の重要な仕事の一つですから。僕もそのご縁で、何度かお茶を一緒に頂いたことがあります。」 「おお、おお!実は私は、土木建設の機械の方で、まぁ、ちょっとした成功を収めていましてな…」 「存じ上げています。」 「光栄です!しかしとてもハリーと同い年とは思われませんな!うちの息子も貴方くらい落ち着いてくれたらいいのですが。」 おじさんはにこにこと嬉しそうにマルフォイと会話を続ける。ロンとハーマイオニーは何事か言い含められているらしく、先ほどからにこにこと笑うだけで(よく見ると多少引きつっているが)一言も発言をしない。さり気なく貶された形のダドリーが後ろから父親に不平の声を漏らしたが、あっさりと黙殺された。 「ハリー!何をしているの!さっさと食べておしまい!零すわよ!」 その様子をダイニングからぽかんと見守っていたせいで、ハリーはトーストの上に載せた目玉焼きをもう少しで膝の上に取り落とす所だった。大体にして朝食に目玉焼きが付くこと自体この家ではハリーにとってスペシャルな出来事だ。慌ててトーストごと目玉焼きを殆どすすり込むように口に入れ(ペチュニアおばさんがとてつもなく不快な物を見たように眉をひそめたが、気にしないようにした。)、もごもごと口を動かしながら紅茶で流し込む。 「行儀が悪いよ、ハリー!」 「ほめんなはいおははん!!(ごめんなさいおばさん)」 もぐもぐごくん、と口の中の物を飲み込み、ハリーがそそくさと席を立つ。いつもの如く洗い物を流しに置いて、急いでリビングに足を向けた。 「お待たせ!ドラコ、ロン、ハーマイオニー!!」 「ああ、やっと来たか。ハリー。…では、失礼いたします、ミスター・ダーズリー。良い夏休みを過ごされますよう。」 ドラコがにっこりと営業スマイルを浮かべて暇乞いをする。 「ええ、ええ、是非またいらしてください、マルフォイさん!」 バーノンおじさんが満面の笑みで「しっかりやれよ!」とハリーたちを送り出す。玄関を出ると、そこには黒塗りの大きな車が止まっていて、またハリーが目を白黒させる。運転手がさっと降りてきて、後部座席をのドアを開けた。 「…お待ちしておりました、ドラコ様。」 「うん、では、父上の別荘へやってくれ。」 「かしこまりました。お荷物をお預かりいたしましょう、ミスター・ポッター。」 白手袋の運転手が呆然とするハリーの荷物を引き取ってトランクに入れる。 「あなた見て、ロールスよ。」 「…素晴らしい!これは是非とも、友好的な関係を築いておかないと。」 バーノンおじさんとペチュニアおばさんの打算的な会話を後にし、四人は車に乗り込んで、「行って来ます、」と手を振った。 「…くっ…」 車がしばらく進んだところで、ロンが堪えきれずに笑い出す。 「くっくっく、苦しかった〜〜〜!!!見たかい?君のあのおじさんたちのにこにこ顔!」 「…ああ、見た。気持ち悪かったよ。」 「ドラコ、君、役者になれるぜ!!」 「…なに、造作もない。」 ドラコがふん、とシートにふんぞり返った。 「ああいう手合いは自尊心をくすぐってやるのが一番だ。あと、こちらに親切にしておくとのちのち有利と思わせることだな。」 「何にしても、僕がジョージやフレッドと連れだしたときとは偉い違いだな!正面玄関から入って、見送りつきで出てくるなんて!」 痛快だったぜ、とロンはご機嫌だ。 「ふん、当然だな。僕の立てた計画だぞ。」 自信満々にそう告げるドラコに、ハリーが「ありがとう」と感謝の言葉を述べた後、多少不安げに尋ねた。 「ねぇ、ドラコ。ところで、この車って…」 「ああ、ロンドンの『漏れ鍋』までは、この車で行く。そこからは、『煙突飛行粉』だ。」 「いや、そうじゃなくて…君んちの?」 「当たり前だろう?ハリー、車に乗ったこともないのか?」 「いや、そりゃあるけど…」 マグル嫌いのルシウス・マルフォイがねぇ、と総革張りのシートを撫でながらぼそぼそ呟くハリーを、ハーマイオニーが隣からつついた。 「違うのよハリー。」 「え?」 「本物の車じゃないの。私も最初はびっくりしたんだけどね…どうもこの車、シンデレラの馬車と同じ原理みたい。望む形の乗り物に変化するの。私とロンが初めに見たときは、小さな箱だったわ…なるべく高そうなはったりの効く車がいいっていうから、私が丁度通りを走っていたロールスロイスを見て、あれがいいって言ったのよ。」 まさか乗って走れるとは思わなかったけど。不思議ね、一度調査したいわ、と好奇心しきりのハーマイオニーに、ドラコが苦笑しながら同調する。 「…まぁ、種をあかせばそんなところだな。もちろん、僕がかけた魔法じゃないから校則違反ではないぞ、グレンジャー。」 話を振られて、ハーマイオニーが憮然とする。 「誰もそんなこと、言ってないでしょう?!」 「いいや、君なら言うね。言いかねない。」 したり顔で頷くロンの足を、ハーマイオニーがさり気なく蹴っ飛ばす。 「痛い!」 「自業自得よ!何よ、こんな時だけドラコと結託しちゃって!!」 「何も蹴らなくったっていいだろう?!」 いつもの通り言い争いを始める二人に、ドラコが呆れた顔をし、ハリーは微笑んだ。 休みはまだまだ、これから。 今年の夏は、スペシャルだ。 車窓から流れる町並みを見ながら、ハリーはそう、確信した。 END * * * ロンハー、ハリドラ(どこが。)カップリングと言うよりは、脳内にこのコンビが出来上がってるみたいです。ドラコ、まだハーマイオニーをファーストネームで読んでいません。切っ掛けが掴めていないらしいです。ハーマイオニーはロンとハリーがドラコドラコと言っているのでつられていつの間にかドラコ呼ばわりですが。タイトルは皆様ご存じの坂本九…しかし、ハリーとドラコ接近編はいつできあがるんだ((((^^; |