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ローマ時代、禁じられた恋人達を結婚させたかどで処刑された聖人が居たという。
その殉教日を称えるために定められたのが……
ぽん、と机の上に本を放り出す。
伝説なんて物は、いつだって半信半疑に受け取って構わない。
「…そうは思わない??」
独り言混じりの少年の呟きに、話しかけられた相手はただ苦笑した。
少年は、珍しく雄弁な気分のようだった。
熱に浮かされたようにひたすら喋り続ける。
「第一、人が一人死んだのをお祭りにして、浮かれ騒ぐ、っていうのが気に食わないよね?」
悪趣味だ、極みだよ、と顔を顰める。
ふと、思い立って聞いてみた。
「でも…魔法界で「例のあの人」が消えた日は……。」
火花が散ったかと思った。
気が付くと、ぎらぎらと光を放つ険のある両目がこちらを睨み据えていた。
はっと自分が禁句を口にしたことに気付いて口を噤んだが、もう遅い。
そこにはいつもの優しい少年の姿はなく。
ハリーは完全に「伝説の少年ハリー・ポッター」の表情に変わっていた。
「……だからさ。我慢ならないよ。」
僕がもしあいつと戦うことになって、
…何があっても、どんな犠牲を払っても僕はあいつを倒すつもりだけど。
「命を落とすことになったとして…僕の死んだ日を、
殉教者の祭日みたいにしたら、そいつら全部不幸になるだろうな。」
だって僕は平和のためにヴォルデモードを倒すんじゃなくて、
僕自身の恨みのために彼を倒そうとしてるんだから、とハリーは呟く。
緑柱石の瞳には、陰火のような炎が灯った。
けれど。
…けれど、じゃあなんでそんなに苦しそうなのか?とは。
臆病なには聞くことができなかった。
ただ、瞳を閉じて俯いてしまう。
自分自身に呪詛のように言い聞かせ続けている言葉を軽減してやることなど、
果たして本当に自分になどできるのだろうか?
いつも側にいる親友ですら、あんなに心を砕いているのに。
絶対的に与えられているのが運命で、その命を覆すことを革命というのなら。
一体、彼の運命を変えるにはどれほどの革命が必要だろう。
かける言葉すら見つからない、
無力な恋人である自分をは恨めしく思った。
「…聞いてるの??」
ぐい、と突然至近距離から碧緑の瞳に覗き込まれ、どきん、との心臓が跳ねた。
「…さぁ?」
惚けるように心配そうな目の色から視線を逸らす。
今さっきまでの真剣な真情の吐露をこちらにしたことに、
彼は後悔を感じているに違いない。
返事はどうしても曖昧な物になった。
「…ハリー次第かな…聞いているのも、聞かなかったのも。」
の返答に、ハリーは一瞬目を見開いて、はぁ、と息を付いた。
「…ずるいよね、いつも、君は。」
「…そう?」
「そうだよ。そうやって、僕にばっかり決めさせる。
…たまには、君自身の言葉で語ってくれてもいいんじゃない?」
僕のこと、どれだけ思っているか知りたいよ、
と少し意地悪く微笑んで聞いてくる少年に、
は微かに苦笑した。
その緑の瞳はまたキラキラと輝いて、明るい朗らかな少年の顔が覗いていて。
先ほどまでの暗い影など跡形無く拭い去られている。
どれほど昔からこのような己を覆い隠す術を心得ているのかと思うと、哀しくなった。
彼が自分に求めているのは癒しだけだと知っている。
同じ方向を求めて走ることを、
自分を暗がりの道へ引きずり込むのを、彼は何より恐怖しているから。
…最小限度の物しか求められていない。
だからといって、足手まといに、彼の弱点になり得ることを何より知っているも、迂闊に同じ方へ歩いていきたいとは……言えない。
ならばせめて。自分は彼にとってこれ以上なく甘い恋人になってやろうではないか。
若干の寂寥を押し殺しつつ、
はゆっくりとハリーに口付けを与えて、戯けたように囁いた。
「I...love you, My Dear Valentine?」
「……卑怯者。」
ハリーは少しだけ頬を染めてそう呟くと、腕を掴んで自分の方から深いキスを求めてきた。
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end.
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