Sweet Gambler
-甘すぎる勝負師達-



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『独り占めジャックポット』


「ほら、ロン…頑張っちゃいなさい、あとはもうそんなに残ってないんだから…。」
「ダメだよハーマイオニー…僕ギブアップ。」
「もう!」
 机の上に散乱した羊皮紙の山に、ロンの赤毛の頭が突っ伏す。
 ハーマイオニーはわざと深い溜息を吐いた。

「ロン…後あなただけなのよ?この課題提出してないの。」
「分かってるけど…苦手なんだよ、僕こういう理詰めにしていく問題。」
「なんでなのか不思議だわ?あなた、チェスが得意だったりするのに…。」
「チェスと勉強は別だよ。チェスは盤面を見てると
 何手も先の駒の動きまで何でかぱっと分かるけど、
 それがどうしてかって聞かれても答えられないだろ?」
 この少年の説明になっているようななっていないような反論を少女はばっさり切り捨てる。

「あら、自明の理じゃない。練習量が足りないのよ。」
「……うげぇ。」
「数式なんて基本を覚えて数をこなせば後は殆どがその累計パターンなんだから、
 そのうちにぱっと見たら解き方が分かるようになるわ?」
 この少女の的は射ているのだが有り難くないアドバイスに、ロンは呻いて頭を抱えた。

「そんなガチンコな教科じゃなくてもっとこう、優雅な解き方は無いわけ?!」
「お生憎様、数秘術はガチンコな教科なの。」
 さっくり流されてロンは渋々顔を上げる。
「じゃ、どーあっても今日君はこれが終わるまで僕を解放してくれる気は無いと……。」
「当たり前よ、提出期限三日前までに全員が揃えばその寮に点数が追加されるんですもの。」
 今日出せば最高の50点が貰えるのよ?!
 燃える熱血教師ハーマイオニーに、ロンが深々と溜息をつく。
「どうりでここのところ、君が放課後必ず誰かの家庭教師と化してると思ったら…。」
「さ!ロン、後もうちょっとじゃない!やっつけちゃいなさい!」
「…ハーイ。」

 嫌々羽根ペンを再び手に取ったロンはしばらく顰め面で問題用紙を眺めていたが、
 ふと何かを思いついたようにニヤリと笑う。
「ハーマイオニー。」
「なぁに?あ、口は動かしてもいいけど手は止めないでね。」
「…あのさ、問題、今から一時間で解けたらご褒美くれるって、どう?」

 今日中って言っても最後のクラスが終わるまでには後そのくらいしかないし、
 先生の部屋に夜中に行くわけにもいかないだろう?
 というロンの言葉に、ハーマイオニーは首を振った。

「確かにそうだけど…ロン、そもそも誰の宿題だと思ってるの?」
「宿題は僕のだけど、提出期限にはまだ随分あるだろう?
 最も、今提出したら君には何かボーナス付くみたいだけど?」
 と悪戯っぽく笑われ、ハーマイオニーは降参のポーズをした。

「全くずるいんだから…そうね、考えてあげてもいいわ。」
 もうじきバレンタインデーだし、チョコレートでもどうかしら、
 と続けようとしたハーマイオニーの笑顔は、
 ロンの提案によって思い切り引きつる羽目になった。

「問題解けたら…キスひとつっての、どう?」
「なっ…!!」
「あれ、できないと思ってるんなら別に焦る必要ないじゃない?」
 ニヤリと挑戦するようにロンが笑う。
 どうする?と重ねて尋ねられ、ハーマイオニーは困惑して
 彼の手元の羊皮紙に視線を落とした。

 課題はまだ結構な量が残っている。
 後一時間などでは…到底無理だ、とハーマイオニーは判断した。
 思い直したように頷く。
「…いいわよ?本当に一時間でできるものならね。」
「オッケー、忘れるなよその台詞。」

 言うなり、ロンは急に真面目な顔になって真剣に課題に取り組みだした。
 する事のなくなったハーマイオニーは黙ってその横顔をぼんやり眺める。

―――睫も長いし鼻筋通ってるし、…黙ってると見られない素材じゃないのに。
 くるくると良く変わる表情豊かなその顔は、
 決して整っているという評価を受けたことはない。
 勿体ない、などと考えてしまって、ハーマイオニーは一人こっそり赤面した。

 しばらくして、軽くあげられた勝ち鬨にハーマイオニーは思考を破られた。
「…できた!」
「え?!ええ??嘘?!」
 手元の時計を見るとまだ45分ほどしか経過していない。
「い、いい加減な答え書いてないでしょうね、ロン?」
 睨め付けるハーマイオニーに、赤毛の少年が疑り深いよ、と苦笑する。

「嘘だと思うなら見てご覧よ。」
 ハーマイオニーは慌てて全部埋められた羊皮紙を手に取り、自分の物と比べる。
「…合ってる。」
 愕然としたように呟く彼女の隣で、ロンが小さくガッツポーズをした。
「ホラ見たことか。できただろ?」
「な…こんなできるならなんで…。」
「ああ。」

 ロンが苦笑する。
「そこ、こないだ例題が分かんなくてパーシーに聞いたばっかりだったんだ。」
「なっ…!!」
 解ける自信がなきゃ賭なんてするかい、というロンの台詞に、
 ハーマイオニーがうっそぉ…とまだ信じ切れない声を上げる。
 ロンがその彼女の表情を見ながら苦笑した。

「読みが甘いなぁ…?」
「だっ…!」
「負ける賭は僕はしないよ、ハーマイオニー?」
 知らなかっただろ?と笑みを浮かべる少年から、ハーマイオニーはじりじりと距離を取った。
「こんな賭言い出す事自体、おかしいと思わなきゃ。」
「う、うるさいわねぇっ…!!」

 精々強気な口調で言い返すが、頬が赤い。
 ご褒美貰っていい?と囁かれ、しばらく硬直していたが。
 やがて観念したように顔を上げた。

「いいわ、約束だもの…えーと。…ほっぺたかおでこ?」
「そんなの、キスに入らないだろ?」
 言いながら、彼の指がまるで自分の受け取る物を確認するように彼女の唇に伸びて、
 ここ、と呟いた。ハーマイオニーが息を飲む。

「…本気?」
「冗談なら最初からこんな賭けしないよ。」
 諦めてね、とすっと頬を撫でられ、ハーマイオニーが視線を彷徨わせた。

「だってこんな…賭でするようなもんじゃないと思うわ?」
「それは違うよハーマイオニー。」
 ロンが苦笑するような、そしてどこか淋しそうな笑顔で訂正した。

「こんな賭でもしなきゃ、僕は一生君にキスできそうにないからね。」
「そ……。」
 そんなことないわ、と言おうとして、ハーマイオニーは言葉に詰まった。
 そんなことがなかったら自分は将来ロンとキスする意志があるということで
 それはつまり、えーと。
 さしもの明晰な頭脳にも混乱をきたしている内に、
 ロンががたがたと椅子ごと体を彼女に向ける。

「ただでさえ君には勝負負けっぱなしで賭け金取られっぱなしなのにさ…たまには回収させてよ。」
「な…誰がいつそんな…?!」
 ロンの言葉の真意が分からずハーマイオニーが目を白黒させる。
 自分が一体いつロンと勝負として一体ナニを搾取してきたと言うのか。

 言いがかりだ、と喘ぐようになんとか反論したハーマイオニーに、ロンがふと目を伏せる。
「そんな風に言われると…また勝負を降りたくなっちゃうよな…。」
「え?」
「分かんないかなぁ?」

―――賭け金代わりに僕のココロを全部一人で取っていってるのが一体どこの誰かって事が。

 照れたような続きの早口の台詞は、流石に気障すぎると思ったのか。
 しばらく切れ切れな言葉を反芻して頭の中で組み立てた少女が一気に顔を赤くする。
「な、…え?!…あのっ…!!」
「ほらね、僕、今まで随分君に賭け金渡して来たろ?…ちょっとくらい回収させて貰うよ。」
 にっこりと微笑みながら少年は最後通告をして。

 当然手にするべき報酬を受け取るため、彼女の顔に唇を寄せた。




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...end.

 

 

うららさんにハリドラ書くのでくださいと言いましたら
なんとロンハーも書いてくれました…!!ありがとう!ありがとう!!(感涙)
ちょっと積極的(笑)なロンです。
一問解けたらちゅーひとつ!勉強の効率はかどりそうです!(ロンに限る)
ハーマイオニーは手に付かないかも…(笑)
そのうちエスカレートしてくるんですよ、次の試験で満点だったら触らせてとか(どこを)

 

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