「目で殺せ!」






―――視線を感じる。

 このところ、ずっとだ。お陰様で気になって、仕方がない。

 肌がちりちりする。……誰だ。

 無遠慮な視線には慣れていたが、この視線は少し違う…そう、何と言えばよいのか。

 僕の外見だけを見て居るんじゃなく。内側まで、内面のまた奥底まで見通して、見極めようとしているような、そんな。

 心当たりはあった。
 けど、確かめるのは何故か躊躇われた。

 いつまでも、こんな半端な状況じゃ、我慢できない癖に。

 気弱な自分に、少し腹が立った。…誰だか確かめるだけだ。何故、どうして。躊躇する理由が。

 そうして遂に。僕は。……こちらを見つめる緑柱石の双眸を発見した。

 僕と視線がまさに、交錯した瞬間。…相手はふと、目を逸らし、そのままこちらを見ることはなかった。

 なんなんだ。

 なんだっていうんだよ、一体!…気に、なるじゃないか。

 そんな物問いた気な目で。切なげな視線で。

 何を伝えたいんだろう。

「おい、ハリー。ハリー・ポッター。君、僕に何か言いたいことでもあるんじゃないか?」

 痺れを切らした僕は、彼の人物を詰問した。ハリーが、酷く驚いたような顔になる。

「…僕が?君に?」

 一体何の用さ、と聞かれ、僕は自分の胸に聞け莫迦、と言い返した。奴は律儀に己の胸に手を当てて見せ、イヤ別に用事はないよ、と。

 そう。言い切った。

「…なら、いい。」

 言われてしまうと、過剰反応した自分が不意に恥ずかしくなった。…是では、お前の視線を気にしていたと、告白するようなものではないか。

 偶々此方を見ただけかもしれないのに。

 追求できない自分が不甲斐なくもあり、是で良いのだと安堵する気持ちもあった。

 黙して立ち去る僕の背中を、ちりりとした熱さが撫ぜた。

 僕は背筋を伸ばし、唇を噛んで。―――気付かない振りをした。


 図書館で本を読んでいると、右の米神が反応した。そのまま視線だけ送ると、見慣れた黒髪の人影が、親友二人と此方へ近付いてくる所だった。

 楽しげに、他愛ない話をしながら。

 時折、目線だけ、こちらにくれる。

 勿論、一緒にいる友人達は、彼のそんな行動になど気付いていない。赤毛のウィーズリーなど、僕の姿を認めた瞬間、ふっと眉を顰めたくらいだ。

―――彼奴、この間のことをまだ、誰にも言っていないんだな。

 無論、僕もだが。

 ちらりとまた、皮膚の上を緑色の光が走った。…様な気がした。

 其の、行動は。何だが酷く背徳的で、不謹慎にも僕は背筋がゾクッとするのを感じた。

 君は知らないだろう。

 蛇寮が、背徳と不道徳を、暗に好む気質であることを。

 こんなのは。

 大好きだ。…気に入った。


 僕は精々不快気に顔を顰めてみせると、ばたんと本を閉じて立ち上がった。

 一瞥もくれずに獅子寮の三人組の側を通り抜けると。項の辺りに、視線を感じた。心で、念じる。

―――来い。

 伝わっただろうか。その辺りの棚に適当に持っていた本を突っ込み、出口へと向かう。

「あ、僕、マグゴナガル先生に呼ばれてたんだ!忘れてた、行かなくちゃ!」

 黒髪の標的が、友人達に告げる声が、聴覚を打った。

 僕は誰にも気付かれないように。クッと、唇の端を持ち上げて……嗤った。


 僕が歩く。

 一定距離を空けて、ハリーが付いてくる。

 僕は歩く。

 ハリーは、近寄ってこない。

 段々飽きてきた僕は、次の曲がり角で決着をつけることにした。

 曲がって直ぐの、教室へ飛び込む。

 息を潜めると、暫くして角を曲がってきたハリーの足音が、ぱたぱた廊下の途中まで聞こえて。
 戸惑ったように、途絶えた。

 僕は暗い教室の中から、じっくりと奴を観察した。

 ダークブラウンの収まりの悪い癖毛、どちらかと言えば痩せ気味の体躯。緑の瞳は、真っ直ぐなようで居て全く油断がならない。誂えたローブと制服の仕立ての良さは、初め頃は怯え気味の中身とちぐはぐだったが、自分に自信の付いてきたらしいこの頃では見事なほどに着こなせている。

 ふぅん。

 見られてばかりでは面白くない。たまさかには僕こそ鑑定してやろう。

 思って、じろじろ無遠慮に奴を眺め倒した。……外見だけなら。鑑賞に堪える素材なのだが。

 中身を始めから知っていたなら、とてもお近づきになりたいとは思いもしなかっただろう。
 口は悪いわ根性はひん曲がっているわ精神力も支配性も強くて、おまけに頭脳明晰で魔力も強い、ときたもんだ。魔法界の有名人で、自分でもそのことは十二分に承知している。信用も油断もならないとは、まさにハリーのためのような言葉だ。
 ふと、奴といつも一緒にいるウィーズリーに、どうして此奴と仲良くなろうと思ったのか、聞いてみたい気がした。

 ハリーは、明らかに友人向きのタイプじゃない。身内にはとことん甘いが、一旦敵だと認めたら全くもって容赦がない。

―――恋人なら、ともかく。

 ちらと横切った考えに、僕が狼狽した瞬間。

 ハリーの目が、こちらを向いた。

 視線が絡み合って、疚しさを感じた僕は、自分から逸らした。

 ハリーが。

 迷いのない、足取りでこちらへ歩いてきた。

 空き教室の扉を開け、中へ入ってきちんと扉を閉め。あくまでも冷静に。

 ごくん、と唾を飲み込んだ。

 僕の前まで歩いてくると、ハリーはすっと視線を上げて、その碧緑の瞳で壇上の僕を見上げた。

 不覚にも、鼓動が跳ねた。

「…やぁ。」
「やぁ。」

 軽い挨拶に、少しだけ安堵する。…次の瞬間、飛び上がることになるとも知らずに。

「随分じっくり観察してくれたね…どう?僕は。お眼鏡に適った?」
「…なっ!」
「あー、怒んないで怒んないで。もうバレバレなんだから、さ。」

 身構える僕に、やつはけろっとした顔で告げると行儀悪く机に座り込んで、面白そうな目でこちらを見つめた。


「少しは僕のこと、気にしたでしょ?」

「まさか。」

「嘘だ、だって今、じっと見てたじゃない。」

 振り向きたいのじっと我慢して、散々君の視線に耐えたんだけど僕。と、にまりと笑われて。

 その、底意地の悪さに僕は赤面した。遊んでいるつもりで、すっかり遊ばれていた事に気が付いて。

 ハリーが待ってたんだよ、と嬉しそうに両手を広げ、こちらへ近付く。

「君の、視線の温度が。僕のと同じになるまで。…散々、これでも我慢、したんだよ。」

―――殺せそうな目で、僕を見たでしょ?

 足に根が生えたように、その場から動けない。潮時だよ、諦めて。と小さな声が耳を打った。

 次の瞬間。

「つっかまえた!」

 奴はにっこり笑って僕を抱きしめ。

 僕は、うまうまと奴の計略に嵌ってしまった自分に、臍を噛んだ。

 次は、こうは行かせないから、覚えておけよ。

 言いながら、ペナルティーだと自分に言い聞かせ、諦めて赤金の制服に顔を埋める。

―――微かに、汗の匂いがした。視線を上げると碧緑の瞳がきらきらと輝いて、すっと細まった。

「お前は猫か。」

 言いながら、己の翡翠の瞳でしっかりと其の視線を受け止める。

 屹度捕まえるだと?そう、簡単に易々と。何でも手に入ると思うなよ英雄閣下?

 鬼ごっこは、未だ終わらせない。


 でも、嗚呼。

 奴の視線に、少し、酔ってしまったようだ。


END






+-+-*-+-+


 えー。いちお、裏裏の「食物連鎖」の続きです。いちお。
ハリドラ方向にシフトチェンジしてみることにしました。
習作です、あくまで習作。人様に二本ほど差し上げに書きたいので、
まずどんなハリドラにしたいかを考えるわけです。
何となくはっきりしました、追いかけっこなんですね…(笑)
カノンですか、カノンですね……
カノンならパッヘルベルが大好きですよ。
は?鮎燃え?誰それは(笑)『うぐぅ』?知りませんってば。
…え?臭作?…違いますったら!!!
それに臭作は純愛エンディングですよ!!
(エロゲーを知らないヒトには決して分からないだろうな………)
 ↑知っとんかい(爆)

つか、ハリーは将来バンコラン並の眼力を有するんじゃないか
などと馬鹿なことを申している私に誰か賛同を(ない)
ドラ子がマライヒなのね……美しさは罪でしょうよ…



 

+++back+++