チョコホリック

-MONSTER'S BALL-



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「そんなに食べて、太らないんですか?」
 背後からかけられた声に、柔らかな茶色の髪の毛の男が振り返る。
 相手の姿を認めて、悪戯を見つけられた子供のようにばつが悪そうな表情になった。

「やぁ、ミス・…。」
「もう、ルーピン先生ったら、ご飯前にそんなにチョコレート食べたら
 お腹がいっぱいになってご飯食べられなくなっちゃいますよ?」
「いや、夕食は夕食できちんととるから…ね?」
「ね、じゃありません!」
「お昼に職員会議があっただろう?ゆっくり昼食を取る暇がなかったんだよ。」

 言いながら悪戯っぽく微笑んで板チョコレートを口に運ぶルーピンに、小言の主がため息をついた。
 この会話だけではどちらが立場が上だか分からないが、
 一応ルーピンはこの学校、ホグワーツの「闇の魔術の防衛術(Defence against the Dark Arts)」の教官であり、
 という名前の彼女はその生徒である。
 新任で学校に慣れないルーピンのために最上級生の中から校長であるダンブルドアが選んだのが彼女であった。
 主に施設や学内での規則やルール、よしなしごとなどを教えるためだったはずが、
 最近ではすっかりルーピンの保護者扱いである。

 ついこの間など、彼を捜す黒衣の魔法薬学教官に
「ミス・、ルーピンの奴めの潜伏場所を知らぬかね?」
 と素で訪ねられ、私は飼育係じゃありません!!と流石に少々苛立って切り返していたが。
…彼女自身がこの言葉を苦く噛みしめつつ回想するのは、その半年後の出来事で。

 このときはただ、同じ決め台詞を無自覚に投げかけた。
「もう、私は先生の飼育係じゃないんですよ?自己管理くらいしてください、大人なんですから。」
 ルーピンは僅かに寂しそうに微笑んだ。
「私はすぐに燃料切れしちゃうんだ。燃費が悪いんだろうね。」
「…どこでそんなにカロリー消費してるんですか、先生。」
「そりゃあ、君たちのような優秀な学生相手に何を教えようか日々悩み続けているからさ。
 頭脳労働はカロリー消費が半端じゃないからね。」
 戯けてみせる一回り以上年上とはとても思えない男性を、がじろりと睨む。

「どこが頭脳労働ですか。ルーピン先生に代わってから『闇の魔術の防衛術』、
 肉弾戦な授業ばっかりで生傷が絶えない生徒が増加した、ってマダム・ポンフリーが零してましたよ。」
「…ありゃ。」
 ルーピンが頭をかいた。がその様子に流石に表情を崩して微笑む。

「とにかく、先生、チョコレートばかりじゃなくて夕食もちゃんと食べてくださいね、
 今日の晩ご飯、私寮のテーブルから壇上見張りますからね!」
「はいはい。」
 そう言いながらルーピンは、先日もその前の日も満月が近づくに連れて食欲の落ちている自分を、
 自寮のテーブルから自分の夕食に殆ど手を付けもせずに心配そうに見つめていた少女に微笑んでみせた。

 ルーピン、…リーマス・ルーピンは純粋な魔法使いではない。
 この学校でそのことを知っているのは目下校長のダンブルドアと、
 学生時代に同級であった魔法薬学教官のセブルス・スネイプの二人だけであるが。

 彼の本性は人狼。…半ばは狼である。

 当然、古今東西の人狼譚に違わず満月を見ると狼に変身する。
 が先ほどから彼がここのところ夕食に手を付けずにチョコレートばかり食べていることを咎めたが、
 そこには歴とした原因が存在していた。

 食べられないわけではないが、既に彼の味覚は狼のそれに近づいている。
 野菜系は青臭くて食べる気にならないし、肉類も香辛料が利いているものは刺激が強くて受け付けなくなってきた。
 チョコレートは、時々衝動的に襲ってくる発作的な破壊衝動を多少沈静する効果を持っているので、
 ここのところ確かに口にする回数は増えている。
 というより、それ以外はもうきっと多分生肉くらいしか美味しいと感じないだろう。
 それはいくら何でも人として情けないので、ルーピンは己自身に生肉を食べることを禁じていた。

 は口は少々悪いがそれは照れ隠しだけのためで、本来は面倒見が良く、優しく、心根の暖かい少女である。
 ルーピンの超人めいた嗅覚は初対面からたちまちのうちにそれを嗅ぎ分けた。
 なので彼女が世話を焼きたいのなら、とさせたいようにさせているのだが……。

 いつの間にか、彼女の前では少々子供めいた行動を喜んで取る癖の付いている自分に流石に少々苦笑せざるを得ない。
 今まで、誰も人生に介入させずに生きてきたのだ。

 信頼している、と口にしてもいいほどの仲間達を手に入れた時期もあったが、その蜜月すら既に遠い過去のこと。
 今の魔法界を浪々とするルーピンに、身寄りと呼べる人間は一人も居ない。

 過去もない。
 家族も居ない。…自分の居た形跡は、どこにも残さない。

『あまり心を許してはいけない…ここにいつまで居られるか分からないのだから。』

 ルーピンは心の中でに絆されがちな己を縛めた。
 かつての友の忘れ形見の黒髪の少年を一目見たいと思わなければそもそも、
 これほど人との接触の多い場所に近寄りはしなかっただろう。
 今でも、黒髪の少年…ハリー・ポッターに伝えられるだけのことを伝えたら、ここを去るつもりで居た。
 そう、彼の父親、ジェームズ・ポッターの事を伝えるまで。
 赴任してくる前に聞いた、シリウス・ブラック脱獄のニュースのことも気にかかっていた。
 もしも自分が知っているあのブラックなら、迷わずハリー・ポッターの元へ駆けつけるだろう。

 彼を殺しに。

 それを防げるのはブラックを良く知る自分だけだ、と密かにルーピンは自分の招聘理由をそう踏んでいた。

 でなければここになど。
 幸福の残滓があちこちに残る、ルーピンが唯一足跡を残している場所になど二度と近寄りたくなかった。
 心痛む、このホグワーツになど。

 何者も側に置いてはいけない。
 傷つけてしまってからでは遅いのだから。

 ルーピンはいつもの穏やかな微笑みを浮かべながら、部屋を出ていくの後ろ姿を見送った。






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to be Continued.

 

 

ルーピン夢、なんだかいきなりどシリアスに続きます(汗)
なんでやねーーーーーーん(泣)
なんで甘くなれへんねーーーーーーん(絶叫)

 

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