心配しないで

-Don’t worry ’bout me-



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「何を考えているのかね?ミス・。」

 聞かれて振り返ったのは長い素直な黒髪の少女。
 こちらに向かって歩いてくる黒衣の男の姿を認めて、嬉しそうに手を胸の前で組み合わせた。

「先生。」
「…もうじき消灯時間の筈であるが?」

 渋面を作る男の、並の生徒なら怯えて土下座して頭を床に擦りつけそうな凶相を気にも留めず、
 と呼ばれた少女は嬉しげに微笑んでみせた。
「もしかして、心配して探しに来てくれたんですか、スネイプ先生!」
 屈託なく笑われて、スネイプの眉間の皺がもう一センチ奥に陥没する。
「いいかね、ミス・。ここはスリザリン寮の近くで、グリフィンドールは遙か彼方だ。なぜこの時間にこんな場所に?」
「ええ、先生に会えるかなぁ、って思いまして。」
「……。」
 悪びれもせずに言う少女に、深々とした溜息をつきながら、スネイプは踵を返した。

「…付いてこい、送ろう。」
「ありがとうございます、先生。」
 無邪気に言いながら後ろから付いてくる軽い足音に、スネイプが思わず「理解不能だ…」と呟きながら眉間に指を当てた。

 この少女、はそもそもスリザリンの寮監である自分の受け持ち外の生徒の筈であった。
 なのになぜだか受け持ちであるスリザリンの生徒以上にスネイプの視界に入り込んできているような気がする。
 気が付くと自分の研究室でお茶とか入れていたりするし。
 資料整理とかしていたりするし。
 いつの間に自分が入出許可を与えたのか分からないのがまたスネイプを悩ませる一端なのだが。
 今ではひょっとしたら魔法薬の置き場所に自分以上に詳しいんじゃないかとか
 ちょっと流石にそれはやばいんじゃないかとか思っていたりもするのだがそれはさておき。

 どうせ言っても聞きはしない、と半ば諦めながら、スネイプは意気揚々と先を歩く少女の後に続いた。
 無駄だろうと心の内で諦めつつ、妙なところで律儀なこの魔法薬学教官は、前行く生徒に声をかける。

「この頃はホグワーツも物騒なのでね、暗くなってからの一人歩きは感心しない。」
 が艶やかな黒髪を翻しながら微笑んで振り向いた。
「あ、今のも嬉しかった。」
「……。」
「やだ、先生そんな仏頂面しないでくださいよ。スネイプ先生からの優しい言葉なんて貴重なんですから。」
 楽しそうに聞きようによってはとんでもなく失礼なことを口にする少女に、スネイプが首を振った。
「しかし、年頃の娘の夜歩きは感心しない。本来なら減点対象だぞ。」
「私のことなら心配しないでください先生、暗いところとお化けには強いんです。」
 ピーブズも血みどろ男爵もへっちゃらです!と意気揚々と語るに、スネイプが溜息をついた。

「分からんのかね?」
「何がです?」
 ことん、と首を傾げたに、スネイプは何の気なしに告げた。
「吾輩が、不安なのだ。」
 この発言に、なぜだかはさっと頬を赤らめ、
「……はい。」
 と呟くと、もうしません、としおらしく小さな声で返事をする。
 珍しいこともあるものだ、と自覚症状ゼロの薬学教官は首をひねったが、
 それよりも丁度通りかかった窓から見えた自分用の薬草畑の方が気にかかり、隣を歩くの方を振り向いた。

「折角だ、今晩のような満月の夜にしか咲かない月亮華の花を見に行かないかね?」
 勿論、を連れて行きたいと言うよりも自分が育てている薬草の生長具合を確かめたいだけなのだが。
 しかし、はちょっと驚いた顔をした後、小さな声でこう返事をした。
「でも先生、こんな風に暗くなってから歩くのは駄目だって…。」
 何を今更殊勝なことを、と思いながら続ける。
「今は構わない、吾輩という保護者が付いているからな。」
 スネイプのこの言葉に、が不満げな声を上げる。
「保護者なんですか?」
「不満か?」

 急に口を尖らせてしまった少女の真意が見えず、スネイプが尋ねる。
「そんなことは…あっ!」
 案の定暗がりの段差で蹴躓いた落ち着きのない少女にとっさに手を出し、支えた。

「大丈夫かね?」
 しかし、安否を問うたにも関わらず、はぽかんとした表情でスネイプを見上げたままだった。
 よもや何処か打ったりしたのではなかろうか、とスネイプが少々不安になってきた瞬間、
 が感動したような声を上げる。

「すごいです先生。」
「何が、だね?」
「なんか、カップルさんみたいですよ?」

 この問いにスネイプは絶句し、少し怖い目で同行の少女を睨んだ後、
「グリフィンドール、減点2。」
 と言い放った。
「ええ〜?!待ってくださいよ、なんでですか?!」

「申し開きは受け付けない。」
「スネイプ先生、なんで〜?」

 口々に言い合いながら月の光の射し込む廊下を並んで歩く姿は、
 どこから見ても似合いの二人にしか見えないのであった。
 そのことにスネイプが気付く日までは、まだもう少しの時間との努力がが必要なようである。






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end.

 

 

海夏さんちで代理管理人やってるときにアップしようと思って間に合わなかった物。
いや、めちゃめちゃ難しいです夢(泣)
無謀なことはするもんじゃありませんなぁ……ガフゥ。

 

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