君と出会えたという奇跡

-My decision is that..."accede to a request of you."-



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"U"



 本当はもう、随分前から感づいていたんだと思う。

 見ないように、聞かないように、知らないようにしていただけで。

 セドリック・ディゴリーの運命は、これから先の僕やハーマイオニーの未来でもあるんだと。
 目をどんなに瞑って、耳を塞いでも、心の中からの真実の糾弾は消せそうにない。
 あの、死体は。明日はお前かもしれないと。

 葬儀の日、そう思った。…いや、気付いてしまった。

 もう、「死」は僕達のすぐ足下まで来ていることに。
 そして、あっけなく人一人を連れ去ってしまうことに。

 ハリーの昏くて重い運命を、今度こそイヤと言うほど思い知らされた。
 彼の行く手にあるのは、未来や希望より先に、まず戦場と死なのだ。
 片足を突っ込んだ僕は、…半端な場所で、途方に暮れている。
 片足だけで。

 かつて、ヴォルデモードの手先をそうと知らずにペットだと信じて敵に安易に情報を渡す立場だった僕は。
 今では、そんなお気楽な態度では、生き残って居られないことを知っている。
 自衛しなくちゃ、ハリーはいつまでも僕を庇えないことも。
 ハリーだって、自分のことで手が一杯なんだってこと。

 どこか余裕をかましていた今までと違い、年々追いつめられていく感じは強くなる。
 敵が勢力を増しているからだ。寧ろ、今まで良く健闘してきたな、と冷静になると思うほど。

 遂に、「例のあの人」も復活した。

 マグル世界で生きてきたハリーやハーマイオニーと違い、僕は小さい頃から骨の髄まで「例のあの人」への恐怖をたたき込まれて育ってきている。
 何度、恐ろしい伝説を、言い伝えを聞いただろう。しかも、それらは全て真実なのだ。

 ぶるりと背筋が震えた。
 自分を臆病だと思ったこともあったが、「例のあの人」復活の話を聞いて、事はそういった次元の問題ではないと、気付いた。

 危機は、すぐそこまで迫っている。
 生き残りたいという気持ちは、もう本能からの叫びだ。

 そうして、この四年生の一年間の内に、知らず知らず、僕はその方法を学んでいた。

 簡単なことだ。
 敵はハリーだけを狙っている。
 だったら、ハリーから離れてしまえばいい。

 知らず、ごくりと唾を飲み込んだ。たぶん、これが最後のチャンスだ。

 ハリーの手を離す。

 ただのクラスメートや友達に戻ってしまえば、平凡でも平和な日々が僕を待っている。
 学生生活がただもう早く終わるよう、カウントダウンするような。
 別に喧嘩する必要なんてない。
 ただ、今よりハリーから距離を置くだけだ。
 彼の運命や不安や孤独、悩みから目を逸らして、……しまえ、ば。

 たった、それだけだ。ロン・ウィーズリー。
 元々、僕達の糸なんてその位細くて頼りないものなんだから。

 ふと、ハーマイオニーは知って居るんだろうか、と思った。
 いや、気付いていないはずはないか。
 共に過ごしたこの四年、僕が知っていることは彼女はとっくに既知のことに違いない。
 知っていて、一緒にいるのだろう。

 彼女はバカだと思った。

…だって、立ち止まりも迷いもせずハリーに付いていくなんて、まともな神経じゃできないはずだ。
 元々、彼女には危機感が足りない気はしていたのだ。…自分の能力を過信しているような、気も。
 大体、僕程度の魔法使いが、「例のあの人」と戦おうなんて、そのこと自体が……。
 そんな風にハーマイオニーの態度を論うことで、僕はどこか安心していた。
 僕の方が「普通」なんだと。これが「普通」の反応なのだ、と。

 そこまで考えて、頭の中に浮かんできたイメージに。
 ハリーやハーマイオニーと別れて楽しく生きる僕の理想像に。

 どうしてだか違和感を感じて、狼狽した。


「違う。」

 呟きが音になって漏れた。

 僕が本当に望んでいるのは、そうじゃない。
 平和に、幸せに北風知らずで暮らしたいと思うけど。欲しいものはそうじゃない。
 もう、そんなものでは我慢できない。

 途方に暮れて、手の平を見つめた。
 この中に、本当はもう糸口は掴んでいる、僕の求めるもの。

 それは、ハリーだ。

 欲張りなくらい、ハリーを独占したい。
 今まで、人の後ろで隠れて目立たなかった僕自身を、見つけて必要だと言ってくれた。
 ハリーに親友と呼ばれるためなら、僕は火の中にだって飛び出していく、それはまた、
 すごく確かな真実でもある。

”本当はもう一つ、道があるんだ。”
 唇が、我知らず言葉を漏らした。気付いて、体は正直だよ、と苦笑する。

 見えているけど、今まで積極的には踏み込まなかった道。
 本当に、真実心の底から、僕が行きたいと願っている道。

…知っている。

 ハリーと一緒に戦う道だ。

 魔法だって覚えなくちゃならないし、実戦経験も有れば有るほどものを言うだろう。
 ハーマイオニーじゃないけど、勉強だってしなくちゃならない。
 チェスだって、索敵は基本中の基本だ。相手を知り、己を知る。
 大変だけど、辛いだろうけど。…楽しいだろうか。共に進むのは。

 殻を破るのを待っている、僕の中の新しい何かが。
 芽吹き始めていることに。

 漸く、少し素直になれた。


†+†+†+†+†


 新学期までにやっておくことは。

 とりあえず、僕は窓枠から飛び降りると、机の前に行って引き出しを開けた。
 殆ど使っていない、真新しい綺麗な便せんを出す。
 いつもは羊皮紙の切れっ端くらいしか使わないから、二人は奇妙に思うだろうか。

 そうして僕は、まずハーマイオニーに長い手紙を書いた。
 約束をすっぽかして済まないということ、この後で会おうということ、ハリーの誕生日のこと。
 宿題のことから庭こびとのことまで、毎年慣例で交わすフクロウ便が少なかった分の埋め合わせのように近況報告もついでに付け加えた。
 君は凄いよ、という賞賛の文句は皮肉に取られそうだから途中まで書いて破り捨てた。
 やがて、ハーマイオニーが見たらその瞬間に眉を顰めそうなだらだらと長い手紙ができる。

 格闘して仕上げた巻物に近い手紙を、エロールに持たせる。
 老いぼれフクロウはよたよたしながら栗色の髪の親友の所へ旅立っていった。

 改めて、机に戻る。新しい便せんを出して、ペンをインクに浸す。

 そして、ハリーにはとてもとても短い手紙。

"See you soon, mate."

『じきに会おう、友よ。』
 これだけでペンを置き、ピッグを口笛で呼びつけた。

 空へ舞い上がるチビフクロウが月の中へとけ込んで消えた後。
 眩しく見上げていた僕は、窓を閉じて部屋の中へ目を移した。

 机の灯りを消して、ベッドにはいる。
 今度はもう、朝まで目が醒めない予感がした。

 君が僕の光だから。
 僕に生きていく目的を与えてくれた人だから。
 他の誰でもない、「僕」が必要だという叫びが聞こえたから。

 だから僕は一緒に行こう、例え君の未来にこれから先、どれだけの死や不幸が待ち受けていようと。

 例えば僕が、そのうちの一人でも。

 例えば君が、僕を見なくなっても。

 僕は君の側に控えよう。傍らで、いつかふと、君が立ち止まったとき、迷ったときに。
 背中くらいは支えてあげられるように。
 君が僕を友と呼ぶなら、僕は君の望むものになるだけだ。

 僕は君に出会えたんだから。
 せめてこの奇跡だけは、忘れないで居よう。

 行く手は暗くても、歩みは遅くても、目の前の遙かな道を。


―――そして五年目が始まる。


 誰にも聞こえないよう、心の中で何度も繰り返した。

 僕にとっては特別な五年目。
 君と迎える、初めての一年が。


"See you soon, mate."


 眠りに落ちる直前、もう一度僕は呟いた。




**********

...END.

 

 

と、いうわけで終わらせてみました…はうん。ご、ごめんなさい、暗くて…。
どうもうちの四巻以降のロンは暗いですね(汗)
しかもどーこーがハリロンやねーん、っていう(滝汗)
ハリーの方からロンを見るとキラキラなんですが、ロン側から見るとこんな感じと言うことで…
い、いや待て、待つんだ!五巻の内容ともクロスさせようとしたらこない暗い話になってん!(言い訳)
以前書いた『熱帯夜』とも微妙にリンクしてます。
ちなみに課題曲は途中までスピッツだったんですが、変更して書き終えました。
↓コレ。ミスチルでは一等好きな曲なんですが……なぁ(笑)

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この感情は何だろう 無性に腹立つんだよ
自分を押し殺したはずなのに
馬鹿げた仕事を終え 環状線で家路を辿る車の中で

全部おりたい 寝転んでたい
そうぼやきながら今日が行き過ぎる

手を汚さず奪うんだよ 傷つけずに殴んだよ
それがうまく生きる秘訣で
人類は醜くても 人生は儚くても
愛し合える時を待つのかい

無駄なんじゃない 大人気ない
知っちゃいながら さぁ 行こう

夢はなくとも 希望はなくとも
目の前の遥かな道を
やがて何処かで光は射すだろう
その日まで魂は燃え

誓いは破るもの 法とは犯すもの
それすらひとつの真実で
迷いや悩みなど一生消えぬものと思えたなら
ボクらはスーパーマン

怖いものなんてない胸を張ってたい
そして君と さぁ 行こう

意味はなくとも 歩は遅くとも
残されたわずかな時を
やがて荒野に花は咲くだろう
あらゆる国境線を越えて

さぁ 行こう
報いはなくとも 救いはなくとも
荒れ果てた険しい道を
いつかポッカリ答えが出るかも
その日まで魂は燃え

夢はなくとも 希望はなくとも
目の前の遥かな道を
やがて荒野に花は咲くだろう
あらゆる国境線を越え

―――――"ALIVE" Kazutoshi SAKURAI

 

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