少年期

-CHILD HOOD-



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 僕はどうして大人になるんだろう
 僕はいつごろ大人になるんだろう


 鏡を見つめて、溜息一つ。ごしごしと指で擦っても、ソバカスは落ちそうにない。
 諦めて、髪の毛を引っ張った。柔らかいが、腰のない赤銅色の髪の毛に顔を顰める。
 せめて一つくらい、気に入るところが有ればいいのに。
 最後に、これだけはまぁ、十人並みと納得している青い瞳を一瞥して部屋を出た。

「お待たせ!」

 先に部屋を出た親友の後ろ姿に追いつく。
 いつでも羨望の的の、緩く波打った黒い髪の毛と、宝石のように光り輝く碧緑の瞳がこちらを向いた。
「遅いぞ?」
「ごめんって。」
 軽く背中を叩き合い、一緒に寮の階段を下りる。

 食堂までの道すがらで、栗色の髪の少女と合流する。
「おはよう、ハリー、ロン。」
「おはよう、ハーマイオニー。」
「おはよ。昨日は何時まで勉強したんだ?」
 にっこり微笑んで挨拶をするハリーと、朝から軽い憎まれ口と。
 前者には笑顔、後者には無視。
「…いつもと同じよ。さ、ご飯食べに行きましょう?」
「賛成。」
「今朝は目玉焼きがいいなぁ…。」
「あら、私はオムレツがいいわ。」
「僕、ソーセージ食べたいかも。」
 言いたいことを言い合いながら、席について食料をかき込んで、授業に備える。
 1時限目に向かって連れだって廊下を歩いていると、下級生の言葉が耳に入る。

「見て、ハリー・ポッターよ!」
「ハリーが居る、おい、こっち来たぜ?」

 ちらりと視線を送る。黒髪の少年は、今では自分の名前が囁かれることなど気にも留めていない。
 貫禄さえ漂わせて、真っ直ぐ前を見て歩いていく。
 ハリーの居るところには、常に人が集まる。
 『ポッター一味』の一員としてカウントされているはずの自分が妙に落ち着かなくて、僕はそわそわした。
 エントリーはされているが、「なんでアイツがあそこにいるわけ?」な存在であることを薄々自覚している身としては、肩身が何となく狭い。
 隣を歩く栗色の髪の毛の少女は事件が起こるたびにハリーのいい参謀役を務めていて、ポッター一味の重鎮であるのだが。
 兄貴達にしょっちゅう「お前はお笑い担当だろ?」「いや、和ませキャラだよな?」とからかわれている僕としては、周囲の評価は気になるところ。
 いや、誰も僕のことなんて気にしちゃ居ないか、と思って自意識に一人で赤くなったり、青くなったり。

 ハリーを支えてやりたいなんておこがましいことまでは考えていない。
 ただ、足手まといにはなりたくないなぁ、と思うのだ。
 もし自分の所為でハリーに何かあったら、僕は魔法界でハリーに期待する皆に申し訳が立たない。

 しゃん、と背筋を伸ばして、少し足を速める。
 前を行く二人に追いつき、後ろから腕を伸ばして二人共を腕の中に抱き寄せた。

「きゃあ?!」
「わぁ、何するのさ?!」

 悲鳴と抗議が聞こえたけれど、気にせずに僕は、少し俯いたままで。
 二人の顔と瞳を真っ直ぐに見られないまま、ぼそぼそと二人の耳だけに届くように、呟く。

「僕ら、ずっといつまでも一緒に居ような?」

 僕のこの台詞に、ハリーとハーマイオニーはしばらくきょとんとしていたが、
 直ぐにハリーは何故だか少し泣きそうな顔になって、ハーマイオニーは満面の笑顔で大きく頷いた。

「もちろん!!」

 その後、それぞれ勝手なことを言い始める。
「ロンがいないとつまんないよ。」
「そうよ、貴方が居なかったら誰が私達を笑わせるの?」
「…ハーマイオニー、一言多いぞ?!」
 ツッコミ混じりの軽いデコピン一つ。ハーマイオニーがいたぁい、暴力反対!と言った後、僕の腕を取った。
「さ、早く先に行きましょう、…一緒に。」
 同じように、ハリーも逆の腕を取る。
「そうそう、心配しなくてもサボりなんて許さないから。」

 引きずってでも連れて行くよ、なぁ?とハリーが僕の体越しにハーマイオニーに話しかけ、彼女は当然じゃない、と頷く。

「って、わけで。」
「行きましょう?ロン。」

 僕たち三人は、また同じ歩幅で歩き始めた。
 二人は、僕の両腕をしっかりと掴んだまま。

 軽く笑いながら、少し目を閉じる。

 大人への変わり方なんて知らないけれど、君達の信じる道を僕も行く。
 後のことは、全て結果になって着いてきてから考えよう。

 とりあえずはこの少年時代を精一杯走りぬけようと。


 左右の二人より先に背が伸びて、青年への入り口を一足先に通り抜けようとしている赤毛の少年は、低い声で呟いた。





**********

...end.

 

 

ツッコミ不可ということで。友情物です。

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ああ 僕はどうして大人になるんだろう
ああ 僕はいつ頃大人になるんだろう
―――"Syounenki" By Tetsuya TAKEDA

 

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