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「ハリネズミのジレンマ」
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―――――近づかないで。ボクに近づかないで。
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「アキラはいつか私を抜くかも知れないな。」
「アキラ君凄い!!ちょー天才」
「あの・・・碁教えてくれない?塔矢君。」
「アキラ先生、指導碁を一局頼むよ。」
・・・あああ、煩い。
ボクはそんなに凄くないんだ。偉いヤツでも何でもないんだ。
だって、だってボクは進藤ヒカルにすら勝てない。
『ちょっとプロになって』なんてヘラヘラ笑いながらいっていたあんなヤツにさえ完膚無きまでに叩きのめされて。みんな、本当は・・・心の中では笑ってるんじゃないだろうか?
馬鹿にして居るんじゃないだろうか。やれ名人の息子だ天才少年だともてはやされていたボクを。
・・・おとうさん。
自分の進む道が、見えない。
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「おい。塔矢。一局頼めないか?」
海王囲碁部の岸先輩がそう言ってきたのは今日の昼休みの話だ。進藤と対戦するためにお父さんの言いつけに背いてまで囲碁部に入ったボクは、やっぱりというか・・・歓迎されなかった。
そりゃ、そうだ。ボクは名人のお父さんから三つの頃から打っている。才能はともあれ、キャリアだけでも他の人たちには負けないと自負している。部長とか、その辺の人たちには本当に敬遠されていたから・・・実はボクはかなりこの申し出には驚かされた。
「え・・・ええ、でも・・・良いんですか?」
囲碁部の部長である岸先輩の実力は知っている。でも・・・失礼だけど、ボクなら勝てる。
「良いよ。勝負とか囲碁部とか選手とかそんなの抜きで一局お願いしたい相手というのは居るもんなんだ。幸いにしてテスト前で部活も休みだしな。頼む。」
「そこまでおっしゃるのなら・・・」
「決まりだな。他の部員にばれると何かと煩いから、そうだな・・・放課後に、図書室ででも待っててくれるか?別にボードゲームの碁盤でも良いだろう?」
「はい。」
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みんなボクを強いと言ってくれる。
それはボクが名人の息子だから。おとうさんに碁を教えて貰って、そこそこ打つことができるから。
・・・こんなに、半端に強かったりするから。誰とも打てない。軽々しく打っちゃいけないっておとうさんは言う。進藤ヒカルはそんなボクの価値観を粉々に粉砕していく。
負けられない。彼に負けるということは、自分を否定されるということだから。
だってそれじゃぁ何のためにボクはこんなに苦しい思いをして
楽しく
も
ない
・・・・・・楽しい。
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放課後。言われたとおりに図書室の奥の机で自習しながら待っていると、岸先輩は本当に二つ折りのボードゲームの碁盤を抱えて現れた。
「待たせたな。・・・何だ、自習か?優等生だな。」
「いいえ、別に・・・」
ボクは学校の中では図書館が一番好きだ。いつでも・・・小学校の時からそうだった。落ち着くし、人に煩わされないし。
「じゃぁ・・・早速お願いしようかな。」
「はい。」
辺りのものを片づけて碁盤を広げる。ほんとうにちゃちなボードゲームと只のプラスチックの碁石は、なんだか妙に新鮮だった。そう言えば、本物の碁石以外で碁を打つのは初めてかもしれない。
パチン
パチ
パチン・・・
人気もまばらな図書室にただ安っぽいプラスチック同志がぶつかる音がする。
響きさえしない。
パチ
「人嫌いの塔矢アキラ。」
パチ
「・・・え?」
パチン
「お前のことだよ。友達も作らない、何を考えているのかわからない・・・他人を寄せ付けようとしない。」
パチ
「・・・別に、ボクは・・・」
パチン
「勘違いしないでくれ。俺はカウンセラーじゃない。責めているわけでもない。ただ、興味があってな。」
パチン
「興味?」
・・・・・・
「人嫌いの塔矢アキラがそこまで執着する進藤ヒカルっていうヤツにな。・・・素晴らしい。このお前が負けたっていうのが信じられないな。・・・ありません。」
岸先輩はあっさりと中押しを宣言した。
「今度の団体戦、三将がお前だとさぞかし他の学校から嫌みを言われそうだな。」
「・・・すみません。」
「気にする事じゃない。その頃はもうお前は囲碁部の人間じゃない。そうなんだろう?」
「・・・・・・はい。」
そう。次の大会に三将で出てくる進藤ヒカルと対局するため、ボクは先生に頼み込んで三将にしてもらった。・・・この、大会が終わったら辞める約束で。
「お前くらい実力があればすぐにプロになれる。進藤も・・・お前がそう言うくらい強いのならいずれはプロに上がっていくだろう。」
「で、しょうね。」
「そんな高みを俺は見たことがない。羨ましいな。」
「ありがとうございます。・・・だと、良いのですが。」
「・・・何をそんなに怖がっているんだ?」
「・・・・・・え?」
「自分で選んだ道なのに、酷く自信がなさげだな。」
「進藤ヒカルは・・・強いですから。」
「ふぅん。」
岸先輩はそれ以上何も言わなかった。
ボクも何も言う気はなかった。
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進藤ヒカル・・・見損なった!!!ボクを馬鹿にしているのか、アイツは・・・
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久々に学校に出てきたボクが帰り支度をしていると、岸先輩が現れた。
「久しぶりだな。どうだ?プロ棋士は。」
「流石に、なかなか勝たせて貰えませんよ。」
「ふぅん。」
そのまま岸先輩はしばらく何か考え込んでいたが、やがてボクにいつかのボードゲームの碁盤を手渡した。
「・・・?」
「偉くしょぼくれてるな、と思ってな。また対局お願いできるか?」
「はぁ、でも今日はこれから予定が・・・」
「今日とは言わない。いつでも良いさ。お前が碁を打ちたくなったらな。」
「・・・?」
「たまには気楽に打ちたいときだってあるだろう?そんなとき、こういう碁盤で俺は打つんだ。この安っぽさが結構好きでね。・・・気が抜ける。囲碁は楽しいんだって改めて思う。」
「岸先輩・・・」
「打っていて楽しくないんだろう?プロになったんじゃ気楽に対局もできないしな。いつでも声を掛けてくれ。それで、対局しよう。」
「あ・・・」
「ここだけの話、部長になって直ぐの俺がそんな感じだったんだ。とにかく、囲碁を打つのが苦痛でな。楽しいことのはずなのに・・・ま、折角俺の後輩から名人が出ようとしているのにこんなところで碁を打つのが嫌になられたらたまらないからな。」
先輩は。ボクのことを心配して声を掛けに来てくれたのだ。初めて気が付いた。この間の対局も、進藤のことで思い詰めているボクをリラックスさせようとして誘ってくれたに違いない。初めて、そのことに思い当たった。
「・・・ありがとうございます、先輩。でも、これは結構です。」
ボクは丁寧に頭を下げるとボードゲームを先輩に差し出した。
「・・・塔矢?」
「ボクは、一人でも。大丈夫です。碁を打つのは楽しいですし。ご心配をおかけして申し訳ありません。」
先輩はしばらく何か言いたげにしていたが・・・やがて諦めたように首を振った。
「・・・以外と強情なんだな。人の好意は普通黙って受けるものだぞ?」
「・・・すいません。」
「そうやって・・・お前は、どこまでも一人で登っていくつもりなんだな。」
「・・・はい。」
「そうか。気が変わったらいつでも遊んでやる。また、気軽に遊びに来い。」
「ありがとうございます。先輩。」
ボクは体を返した先輩の背中に深々と頭を下げた。
―――――進藤ヒカルが院生に合格したのを聞いたのはその、数日後のことだ。
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ボクは一人でも大丈夫なんだ。
誰の手も借りないで高みに上がっていける。
そうじゃないと、「神の一手」には絶対に届かない。
でも。もし、ボクと一緒に高みを目指せる人間が居るなら。
―――――進藤ヒカル。
来いよ。
上がってきてくれ。
ボクはキミしか要らない。
悔しいけれど。
それが真実みたいだ。
待っているよ。ここで。
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終わり
そしてもしかしなくったってこれはアキラ×ヒカルではありません!!(逃亡)
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