クロノ達の世界にだって春は来る。いくらラヴォスが世界の滅亡にむけてカウントダウンかましていようがいまいが桜の花だって咲く。
花が咲くと人間の心というのは何だか浮き立ってくる物である。だから。
「よーし、今夜みんなでお花見ね!!」
お転婆王女様がこんな事を言い出すのも不思議なことではないだろう。
「花見???・・・そりゃ、良いけど。突然だなぁ。・・・ま、いいか。マールがお父さんと仲直りしたお祝いも兼ねてやろうか。」
「そうね。たまには良いかもね、息抜きも。久しぶりにロボも帰ってきた事だし。」
稽古中のクロノとシルバードのメンテナンス中のルッカはあっさり同調した。
「エイラ、酒が飲めるなら何でもするぞ!!」
「ワタシはルッカ達が良いのでしたら・・・」
昼寝中だったエイラとルッカの手伝いをしていたロボも乗り気だ。
「花見?いいぜ、別に。ここんとこしんどいこと続きだったしな。落ち込んでる奴らの良い気晴らしになるだろ。」
クロノの刀に柄糸をまき直しながら(クロノが細かい手仕事が苦手なためこれはずっと彼の仕事になっている。)カエルも賛成してくれた。
魔王は何も言わなかったが、これはイツモノコトなのでマールももう気にはしない。
「決まり!!じゃあ、今夜はみんなでお花見ね!!ね、ルッカ、エイラ!用意手伝ってよ!!」
マールは嬉々として用意のために走り出す。
「乾杯!!」
グラスが幾つか触れ合って澄んだ音をたてた。
「しかし短時間で用意したにしちゃあ色々そろってるじゃねーか。」
敷物の上に並んだ結構なご馳走を前に、カエルが感歎の声をあげる。
「ふふ、ビックリした?」
「した。酒だって上等のもんが並んでるしよー。やるな、マール。」
「へっへー、敬いなさい・・・と言いたいところだけど、これ全部ガルディア城の料理長さんの力作なの。」
「なーんだ。マールが作ったんじゃないんだ。じゃあ安心だね。」
「どーいう意味よっ!!クロノ!!」
聞いた瞬間さっさと手を出すクロノをマールが睨む。
「カエルカエル!!これ、これ飲む!!」
「なんだぁ?この馬鹿でかい杯・・・うぇっぷ、とんでもねー強ぇ酒飲んでやがるな、エイラ!!」
「これ岩石クラッシュいう!!エイラ達の酒!!」
「あーあ、カエル可哀想に・・・知らないんだよね、そう言えば・・・」
「彼はアノフジュンブツのオオイ液体を飲んだことはナカッタ筈ですカラ・・・」
調子に乗ってガンガン飲み干すエイラと付き合わされて四苦八苦するカエルを同情の視線で(でも遠巻きに)見守るマールとロボ。他方ではクロノが既に出来上がっている以外と酒癖の悪いルッカに絡まれて閉口している。
「だからね、わたしはぁ、思うのぉ!聞いてる?!クロノ!!」
「あーあ、聞いてますよ!!はいっ!!ったく、誰だよ、ルッカに呑ませたの〜〜!!」
「なあにぃ?アンタ生意気よ!!クロノのくせに!!ちょっとそこになおんなさーーーーいっ!!おねぇさまが根性叩き直してあげるからぁ!」
「ちょ・・・やめ、ルッカ、そんなに呑んだらいくら僕だって・・・」
「うるさい!!私の酒が飲めないってーのぉ?!」
「はうっ・・・」
結局頭ほどもある大きな杯を空けさせられたクロノはその場にぶっ倒れた。
「なぁにぃ?案外根性ないわねぇ!!」
ルッカは腰に手を当て、高笑いを始めている。向こうではカエルを見事に潰したらしいエイラが勝ち鬨をあげている。マールとロボが顔を見合わせてため息を付いた。
『はああ・・・』
「なに辛気くさい顔してるのよっ!!アンタ達も呑みなさぁぁいいっ!!」
目ざとくそれを見つけたルッカが第二の得物とばかりにそちらへにじり寄る。
「え?いや、私は・・・」
「なによマール!私の酒は飲めないってぇの?」
「ルッカサン、あまり飲んでは身体に毒デスヨ。」
「いーのよ今日はお花見なんだから!!!あーーーーーーーーーっ!!」
ルッカが外れたところで一人ぽつねんと杯を傾けていた魔王の所へ駆け寄る。
「なぁーに辛気くさい顔してるの!!青い顔しちゃってーーーー飲みなさい、もっと!!」
「・・・何だ、貴様・・・」
「ちょっと、ルッカ・・・」
流石に蒼くなって止めに入るマール達をさっくり無視して、ルッカがすう、と大きく息を吸い込んだ。
「飲みなさーーーーーーーーーーーーいっ!!!」
きいいいいいいいいいいん、と鼓膜に反響するほどの声で怒鳴られ、魔王が思わず押しつけられた杯を手にする。
「さーあ飲んで飲んで!!」
「お、強いな!魔王!!エイラと勝負!!」
そこへエイラまで参戦して状況は更に混迷、というか完全に魔王に不利な展開になってきた。魔王にさえ呑ませる傍若無人っぷりを発揮するルッカを見ながら、ロボが隣のマールに
「・・・これが世に言う「無礼講」デスカ?」
と囁いた。
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。」
マールはただ苦笑いするばかり。
結局、クロノもカエルも復活したとたんにまた二人がかりで潰され、酒宴はこのテンションを保ったまま深夜まで延々続いたのであった・・・
「う・・・ん・・・」
次の朝、一番に目を覚ましたのはマールであった。
「あ、頭イタぁ・・・」
最後になって、断り切れずに結構呑んだのが効いているのか、まだ頭がふらふらする。勿論、他のメンバーに至っては起きる気配すらない。
「みんなやりすぎよね・・・」
ぶちぶち呟きながら、顔を洗おうとえいやっ、と体を起こして。
マールは、絶句した。
「綺麗・・・・・・」
辺り一面に、桜の花びらが散っている。まるで花色の絨毯のように。起きあがったマールの髪の毛からもはらりはらりと花びらが零れて落ちる。
眠りこけているみんなの上に、均等に。雨が降るように被せられた桜。
「美しいデスネ。」
振り返ると、いつの間にか起きてきていたロボが同じ光景を見て呟いていた。
「・・・そうね。」
「突風でも吹いたのでショウカ。」
「・・・さぁ。」
何だか言葉が出てこない。
「・・・夕べは、楽しかったデスネ。」
「・・・そうね。」
「イツマデモ、・・・・・・・・・・」
ロボは続きを言わなかったけれど、マールにはちゃんと分かっていた。
―――――イツマデモ、コウヤッテイッショニイラレタライイデスネ。
「・・・そうだね、本当に、そうだね・・・・・・」
同じ花を愛でる事ができて、同じ目標を持っていて、同じ時間を楽しんで。
それがどんなに贅沢なことかが、しんみりと胸に染みいる。
「綺麗だね。」
「ハイ。」
二人の会話に呼応するように、はらはらと桜の花びらが降り注いだ。
「来年も、みんなでお花見、できたら良いね。」
「そう、デスね・・・」
願い事はたった一つ。来年も、その次も、またその次も。
「同じ時間の中、同じ桜の雨の下で。
同じように、出会うことができれば良いね。」
守られない約束を惜しむように、桜は音もなくその自身を散らし続けた。
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