>>華果由空さんへ。

 

:輪廻と転生:


 雨が降っている。

 

 予定ではもう少し先の町まで行くはずだったが、本降りになってきた夕立の所為でクロノ達はこの町での逗留を余儀なくされた。早めに宿に入って早すぎる夕食を取った後は、どこにも行けず何もする事もなく、全員何となく早々に部屋に引きこもってしまった。これ幸いとさっさとベッドに潜り込んだクロノに、窓際から声がかかる。

「なぁ、クロノ」

「うん?」

「生まれ変わりって、信じるか?」

「・・・どうしたんだよ急に。珍しいよね。カエルが迷信的なこと言い出すの。」

「いいからっ!!どう思う?」

「うーん・・・生まれ変わり、ねぇ・・・」

 もそもそとクロノが安宿のベッドの上に体を起こす。今日のパーティはクロノとカエルとマールだから、必然的にこの二人が同室なのだ。

「そうだ。・・・どう思う?本当に人が生まれ変わる、なんてことがあるんだろうか・・・?」

 雨が酷く降っているのでカエルの声の微妙なニュアンスまでは聞き取れない。また灯りも点いていないので影になったその表情も分からない。

 だから、クロノは躊躇いながらも茶化さずに答えた。

「・・・おれさ、ずっと思ってるんだけど。生まれ変わり、とか前世、とか言ってもさ、結局はそれって他人だと思うんだよね。だってその人はおれのことを覚えていないし、その人にとってのおれの位置も、おれが知っているその人とは全然違っている筈なんだ。・・・だって、「タマシイ」っていう不確かなモノだけを共有しているだけで、結局は別人なんだから。」

「・・・・・・」

「・・・って前にマールに言ったら『冷たい』って言われちゃったけどね。」

「まぁ、あのお姫さんならそう言うだろうな。」

「でも。」

 クロノがちょっと言葉を切る。少し躊躇う様子を見せながら、言葉を舌に載せた。

「でも、だから。・・・だから、前世で親しかった見覚えのない誰かより、今生きていて出会った、今、大切な人たちを大事にする方が、ずぅっとずぅっと大事な事なんじゃないかって・・・おれはそう思う。だから、「生まれ変わりを信じるか?」って聞かれたら、そういうこともあるかも知れないけど、今のおれには関係ないし気になんてしないようにしてる、って答えるようにしてる。だっておれは今の大事な人たちだけで精一杯だから。」

「・・・そうだな・・・」

「・・・そう、だとおれは思ってるよ。」

 生まれ変わりを探すなんて不毛だよ、とはカエルの考えているであろう事を思うと、流石に口にできなかった。言いたいだけ言うとクロノも後は沈黙する。カエルが相変わらず黙りこくっているので、クロノはそのうち諦めてまた布団を被ろうとした。

「・・・ぉもうんだ・・・」

「え?」

 振り返る。さっきの位置から微動だにしないまま、石像のようなカエルの方から微かに声だけが届く。

「思うんだよ・・・未来に行く度に。『どこかにサイラスがいるんじゃないか』って。」

「・・・・・・」

「探して、もしかしたら俺を見つけてくれて、覚えていてくれて、もう一度出会えるんじゃないかって・・・やり直せるんじゃないかって。虫のいいことを、思うんだ・・・」

「カエル。」

「・・・そうだよな、他人なんだよな・・・もう。」

「・・・・・・カエル。」

「お前は正しいよ、クロノ。・・・すまねぇ、なんかちょっとしんみりした気分になっちまってな。雨はいけねぇよなぁ。気が滅入る。」

 自嘲するように言葉が紡がれる。

「・・・そうだね。雨はおれも好きじゃないよ。」

「だよな。」

 そこで言葉は途切れて、また雨音だけが部屋の中を支配した。

「・・・・・・カエル。」

 返事はない。けれど、クロノは構わず続ける。

「カエルの『サイラス』はもう、どこにもいないんだよ・・・・・・辛いだろうけど。」

 やっぱり返事はない。

 クロノは、起きあがるとドアの方へと歩いていった。こんな時は、そっとしておく方が良い。

「クロノ。」

 ドアを開けた瞬間、後ろから声がかかった。クロノが振り返る。

「・・・・・・アリガトウ。」

 応えて片手を挙げ、クロノはドアを閉めた。

「生まれ変わり、かぁ・・・」

 本当は、あればいい。いつかどこかで誰もが失った大事な人に出会えるのなら。

 隣のマールの部屋も、こんな陰鬱な雨音が支配しているのだろうか。そうでなければいい、と心から思いながら、クロノは隣室のドアをノックした。

 雨が、降っている―――――

 

>>Fin

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タイトルは萩原朔太郎の詩から。同じことを友達に言って「冷たい」と泣かれた私には結構切実な問題(泣かすな)
お誕生日に頂いたイラストのお返し創作です。華果さん、サンキュウ!!