星屑のイノセンス

-All I want for Christmas...-



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「…なんで此処に居る。」

 部屋に入るなり、僕は厳しい口調で第一声を発した。
 暖炉の前の安楽椅子に腰掛けて暖を取っている黒髪の青年がひらひらと手を振りながら返事をする。

「ん?クリスマスだから。」
「答えになってない!!」

 黒髪の青年…ハリーが苦笑しながら短気だねぇ、と呟いた。

「…お前相手に気が長くて居られるのはこの世でロン・ウィーズリーただ一人だと思え馬鹿者。」
「うっわ酷い。僕としてはそこにドラコ・マルフォイ以下多数を付け加えたいんだけど。」
「…他の犠牲者はともかく、僕はリストから外してくれ。迷惑だ。」

 言い放つと、ハリーはひとしきり鬼だの氷だの雪男だのと言い散らしていたが、
 やがて用件を思い出したらしく手をぽんと打ち合わせた。

「ドラコ、僕、君に頼みた…。」
「却下。」
「ひーどーいー!!せめて話聞いてよ最後までさぁ〜?!」
「お前の持ってくる話なんぞろくでもないに決まってる。」

 にべもない返事をしているにも関わらず、ハリーは勝手に用件とやらをしゃべり出した。

「いや、今からロンとハーマイオニーにクリスマスパーティに呼ばれたから行くんだけどさ、
 一人じゃあんまり当てられて寂しいから誰か引っ張っていこうと思って。」
「…だったら他を当たってくれ。」
「ドーラーコー。」

 つれないこと言わないで一緒に行こうよ〜、と食い下がるハリーに僕は冷たい視線を向けた。

「やかましい!なんで僕が静かな聖夜にわざわざあんな万年新婚状態カップルの家なんかを訪問しなければならないんだ!!」
「友人付き合い。」
「お前なんか友人な訳があるか!!!」
「え〜?宿り木持って押し掛けようよ〜。」

 ほら、持ってきてるし!とハリーはどこからともなく一本の宿り木の枝を取り出した。

「なんで宿り木……。」
「んー、ホラ、宿り木の下にいる女の子にはちゅーしていいって言うし、ロンの後押し。」

 彼の台詞に僕はまた、深いため息をついた。一体全体今度は何を企んで居るんだ、こいつは。
 後押しも何もあそこは出来上がってもう随分経って、今や結婚までのカウントダウンの最中の筈だ。

「あのな。今更後押しなんか居るか、あの二人に。学生時代とは違うんだぞ?宿り木の力なんか借りなくたって……。」

 説得口調で言いかけて、ふと気付く。

……なんだか、今日のハリーはどことなく変だ。
 妙にはしゃいでいる。

 あることに思い当たって、僕は口を開いた。

「…一体何があってお前は落ち込んでいるんだ?」

 案の定、ハリーは顔を顰める。

「…なんで僕が落ち込んでると思うわけ?」

 僕は肩をすくめて返答を返した。

「お前は落ち込むと、妙にハイになるクセがあるからな。」
 ウィーズリーじゃなくたってそのくらいは分かるぞ、と続けた僕に、ハリーは納得が行かないような調子で食い下がった。

「嘘だ、そんなことないよ。」
「嘘だと思うなら今までの挙動不審を考えてみろ。…まぁ、お前はいつでも挙動不審だからいっそ気付かないのかな、自分では。」
「……いつでも思うけど容赦ないよねドラコって。」

 はぁ、と溜息をつく黒髪の青年に、僕は頭を振った。
「率直だと言って貰おうか。…甘えさせて欲しいなら他を当たれ。」
「他があるならね。」

 苦笑しながらハリーは傍らのテーブルに宿り木の枝をぽんと放りだして椅子に深く沈み込み直した。
 顔の前で手を組み合わせ、ぼそっと低い声で洩らす。

「僕がクリスマスに欲しいのは、いつだってたった一つなんだけどなぁ。」

 その口調に、僕は精々冗談めかして返してやった。

「ウィーズリーか?」
「惜しい、違う!」
「………………惜しかったのか?」

 呆れて顔に手を当てる僕に向かってハリーが冗談だってば、と笑う。

「じゃあなんだ。一応聞いてみて、事と次第によってはサンタに伝言してやろう。」

 軽く笑って提案する。

 今年の誕生日の時のように『二人の南国スィートツアー』だの、
 『温泉に浸かりながらオーロラを見て愛を誓い合う旅』などというアホ臭い願い事をしなければ聞いてやるつもりだった。

…いや。聞いてやるつもりにさせられた、と言うところか。

 即答に近かった。

 ただ。

 返事をするその瞬間、ハリーは僕の目を見なかった。

「んー、一緒に暮らす家族?…僕だけの。」

 さらりと言ってのけたが。

 僕は。

 胸の中の、一番薄いところを突き破られたような気分になった。

 思わず尋ねていた。

「…ウィーズリー達ではダメなのか?」

 毎年楽しそうに集まっているじゃないか、という僕の問いかけに、ハリーはふと切なげな瞳をした。

「……ダメだと、思いたい。」
「微妙だな。…埋まっているのならそれでいいじゃないか。」

 胸の内、ハリーの『家族』の場所には間違いなくあの二人が大きな割合を占めているはずだった。

…けれど、心のもう一方で、彼は分かってもいるのだ。
 その場所は、本来自分が居るべき場所ではないことも。

 表情を完全に消した顔で、ハリーが呟く。
「……悪いよ。」
「じゃあ、そう言ってやれ。」
「言えない。」

 首を振るまるでだだっ子のような彼に、僕は息をついた。

「本当にお前は不器用だな。…小心者。」
「うるさいよ。」
「大事な人間に大事なことを言えない癖は直した方がいいぞ。必ず後で後悔する羽目になる。」
「………分かってる。」

 大切に思うほど何も言えない。
 大切であればあるほど、守ろうとする。
…それが必ずしも相手や自分の為にならないと知っていても。

―――言えない。

 ふと、尋ねていた。
「…なぁ。」
「ん?」
「なんで、僕には言うんだ?」

 ハリーが微かに笑う。

「…さぁ。なんでかな。」

 言った後で、ゴメン、君にまで誤魔化すのはフェアじゃ無かったかな、と手を挙げてもう一度笑った。

―――笑うことしか知らないように。

 囁くように、呟いた。

「……分かってくれるのは、君だけだったんだ。」

 同じ孤独を。…家族を欲しても手に入れることを恐れるこの弱さを。

―――理解してやれるのは。同じ気持ちを知っている人間だけ。

…そんな風に言うと、彼の親友達はそんなことはない、といって分かろうと努力するだろう。
 けれど。…彼は努力して貰うことすら遠慮する程の小心なのだ。本当は。

 かける言葉に窮した僕は。…ただ、沈黙するしかなかった。

 ぐるぐると焦り、空転する思考の海から何とか彼への言葉を探そうとする。

 彼は別に僕になにも期待していないと知ってはいる。
 だからこそ、こうやって希に本音を吐き出しに来るのだ。…分かっている。

 軽口を叩いて、冗談を言って、…時たま、それに交えるようにぼろっと零れる本気の言葉に。

 理解していても、何かを言ってやりたかった。

 だって今日はクリスマスだ。…何か。彼に何か。

 躊躇いながら、ようように口を開いてみた。

「…まぁその、何だ。」
「?」

 まさかまともなレスポンスがあるとは思っていなかっただろうハリーが吃驚したように顔を上げて僕を見る。
 いつもはこんな時、僕は黙ってその傍に居るだけだから。…ハリーが復調するまで。

…その、なにも期待していない緑の双眸の視線が、痛かった。

 表現を選んで、続ける。

「普通の子供は小さい頃からずっと家族と過ごしてから家族離れしていくもんだが…。」
「…??」
「…その。アレだ、お前はそもそも家族と出会うのが遅かったから、ちょっとくらい家族離れの時期が遅くても構わない、と思うんだ。」

「…ドラコ。」
 驚いたように名前が呼ばれた。頓着せず、続ける。
「ウィーズリー達もお前が急に居なくなると寂しいだろう。…あいつ等に自分の子供ができるまで、もうしばらく保護者面させてやれ。」

 どうせそう先の話じゃないさ、と続けた僕に。ハリーは目を真ん丸にして訊いてきた。

「…もしかして、慰めてくれてる?」
「…っっ!な、馬鹿馬鹿しい!僕はだなぁ、単に……!!」

 しかしハリーは目を輝かせて立ち上がり、呆気に取られる僕の両手をぎゅっと掴んで振り回した。

「うっわやっぱり僕君のこと大好きかもドラコ。」
「…言って置くが、大迷惑だ!!!」

 ぎゃんぎゃんと喚いてみても、彼は最早聞く耳も持っていないらしく、満面の笑みのまま続けた。

「ね、さっき友人だって思ってないっていったよね。」
「ああ、言ったがどうした?」

 謝らないぞ、という顔つきをして見せた僕に向かって、ハリーはにやりと微笑む。

「それって、友人の域を超えてるってこと?」

 黙ったままの僕の右ストレートがハリーへの第一のクリスマスプレゼントになることは、結局この後毎年の習慣になっていったのだった。


―――毎年の。





**********

...end.

 

 

----------Merry Christmas!!
ハリドラ編、またの名前を完結編……。とも。(笑)
珍しくまともにハリドラです(どこが)
ハリーがいつもよりもう一歩踏み込んで行っています。…これでも。
いいんですもう。ドラさんが絡むとプラトニック決定なのは身に染みました(笑)

 

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