星屑のイノセンス

-Silent Night-



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「…大広間には行かないの?」

 薬の最後の仕上げをしていると、横合いからマートルが声を掛けてきた。
「この後行くわ?…だけど仕上げをして行かなくちゃ。…ポリジュース薬以外にも用意するものあるし。」

 すっかり顔馴染みになったこのゴーストと、振り返りすらせずに喋る。
 彼女は言いたいことだけ言うし、私も言いたいことしか言わない。
 遠慮も気兼ねもない。
…なので、結構上手くいっているのかもしれない。

「ふぅん…クリスマスなのに、随分淋しいわね?
 私が学生の頃はもっと浮かれてるもんだと思ったけれど。」
「そう?」
「ええ、好きな男の子と出かけたりとか、贈り物をしたりとか。」

 そこで彼女はいつもの惨めな記憶とやらを思い出したらしく、
 ひとしきり個室で大騒ぎしていたが。
 やがて飽きたのだろう、再びこちらに戻ってきた。
 暫くは黙って私の手元を見つめていたが、やがて口を開くといきなり尋ねてきた。

「…ところであなた。」
「なぁに?」
「どっちが本命なの?」
「?…何のこと?」

 私には咄嗟に彼女の言っていることがよく分からなかった。
 マートルが「呆れたわ」とでもいうような表情でこちらを見る。
「いつも一緒にいるあの子達!どっちがあんたのボーイフレンドかって聞いてるの!」
「………はぁ?」

 その時の私は、余程意表を突かれた顔をしたらしい。マートルが溜息をついた。
「鈍っぶいわねぇ、信じられない!」
「…余計なお世話よ。」
 ゴーストにまでバカにされ、私はぼそぼそと文句を言う。
「意外とレベル高いわよ〜?特に、あの黒髪の方…ハリーだっけ?ウットリしちゃう。」
 きゃあ、と胸の前で手の平を組んでいっちょ前に照れるマートルに呆れ果てながら、私は首を振った。
「二人とも、ただの友達よ。」

「”ただの友達!!”」

 マートルが金切り声で叫んだので、私は思わず耳を塞いだ。
「うるさい、マートル、静かに……」
「”ただの友達””ただの友達””ただの友達!!”…みんなそう言うの。
 そして結局、ただの友達だったなんてこと、一遍もないのよ!!この嘘吐き!」

 これには流石にかちんときた。

「本当よ!ハリーもロンも、凄くいい人で、親友だわ、大切な!優劣をつけるなんてできない!」

 マートルはまだ信用していないようで、ゆらゆらと飛び回りながら調子外れに繰り返す。

「”ただの友達!!””ただの友達!!””ただの友達!!”」

「……。」

 これ以上は何を言っても無駄だ。私は軽く溜息をつくと、
 あらかた完成した薬の火を止め、睡眠薬入りのケーキを掴んで女子トイレを後にした。

「今に分かるわよ!!”ただの友達”なんて絶対に嘘だって事が!!」

 後ろからまだ叫んでくるマートルの言葉が、やけに耳に付いた。

***


 結局、クリスマスの夜の企ての首尾は上々だったけれど、私は薬の調合の最後の詰めを誤り、
 半分猫に変身して、冬休みの残りの日々を保健室のベッドで毛玉を吐きながら暮らす羽目になってしまった。

 しばらくして症状がやや落ち着いた頃、ロンがお見舞いに尋ねてきてくれた。

「調子はどう?」
「まぁまぁかしら…大分ヒゲも薄くなったし、尻尾もなくなったし。」
「そりゃ何よりだ。…ゴメンね、もっと早く来たかったんだけど、ポンフリーが入れてくれなくて。」
 後半部分だけ、衝立の向こうを憚ってか小声で囁く。私は手を振って別に構わない、と言った。

―――あんまり見られて気分のいい姿でもないし。

 ロンはならいいんだけど、と言いながら、ローブのポケットを探った。

「ハーマイオニー。」
「なぁに?」
「あの……。遅れちゃったけど。」

 これクリスマスプレゼント、とロンが小さな箱を渡してくれる。
…開けてみると、リボン付きの小さな鈴が出てきた。
 ちりん、といい音で鳴る可愛らしいそれは、どうみても…猫の首に付けるような。
 きょとん、として目の前に鈴をぶら下げる私の視界の隅で、ロンがにやりと笑う。

―――クリスマス恒例のジョークのプレゼントだ。

「…ね、私が猫になるって予測してたわけ?」
 内心のおかしさを押し殺しながら不機嫌な声で尋ねると、
 ロンはそんなことないけど、と笑いながらもう一つ紙包みを出してきた。

「はい、欲しがってた本。…ハリーと二人からだよ。
 本当はハリーも来る予定だったんだけど、ウッドに引きずられてっちゃって。」

 包み紙を開け、二枚のカードが添えられた赤い革表紙の本の表紙を手で撫でる。
 新書特有のインクの匂いが鼻孔に入り、私はしばしうっとりと手の中の本を眺めた。
「嬉しい。…ありがとう。」
 とっても欲しかったの、とお礼を言うと、ロンはホントに好きだよね、と苦笑する。
「今のうっとりした表情!まさしく本が恋人だよなハーマイオニー。」
「あら、そんなこと無いわ?今年は生まれて初めて男性から装身具を頂いたし?」
 言いながら先程の鈴をリボンで首に結びつける真似をすると、ロンが思い切り吹き出した。

「そりゃ光栄だよ。…君にアクセサリーをプレゼントした初めての男になれるなんて。」
「ええ、名誉ある一番手よね。」
「最初で最後にならなきゃいいけどな。」
「…なんですって?!」

 軽口を叩くロンに丸めた包装紙をぶつけたりぶつけ返さりたりとひとしきり大騒ぎした所為で、
 烈火の如く怒ったポンフリーからロンは保健室からの即刻退場と当分の間入室禁止を言い渡され、
 私たち二人ともこってりと油を絞られる羽目になってしまった。

***


 後で、このとき見舞いに来られなかったことを詫びがてらやってきたハリーからあることを聞いた。

「ロンさぁ、随分悩んでたんだよ、君へのジョークプレゼント。…少しでも、猫になった君が元気になるようにって。」
「…で、鈴?」
「笑ったでしょ?」
「ええ、かなり。…もうちょっと気を遣えとすら思ったわよ。」
「だったら成功だよ。…ロンは君の外見が変わっても、何ともないって事を知らせたかったみたいだから。」

 初めてロンの気遣いを聞かされて、私はかなり戸惑った。
「そんな、…なんで。」
「あれ?…ロンは元々君には凄く気を遣ってるじゃないか。」

 まさか気付いてなかったの?といっそ驚いたように言われ、私はなんだか恥じ入りたいような心境で頷いた。
 ハリーがぽつりと呟く。

「不器用な奴…報われないよなぁ……。」
「でも、ロンは…お人好しだから。」

 私の反論に、ハリーが両手を広げて『降参』のジェスチャーをした。

「ハーマイオニーの鈍さもロン級とはね、薄々気付いてたけど…」
「…失礼な言いぐさね。」

 むっとする私に、ハリーがそれ聞いたらきっとロンも同じこと言って怒るよ、と微笑んだ。

「君、スリザリンに一緒に来ることができれば良かったのにね。
 マルフォイがまた君の悪口を言ったときのロンの激怒具合と来たら、
 ホントに君に見せてあげたかったよ。」

 大事に思われてるじゃないか、という軽い揶揄混じりのハリーの台詞に、私は言葉を失った。

「ま、早く良くなってよね、ハーマイオニー。マートルも喧嘩友達が居なくて寂しそうだし。」
「ああ、思い出させないでよ、頭痛がするわ。…そうそう、ハリー、彼女あなたにご執心らしいわよ?」
「…………もし死ぬ羽目になったら考えるよ。」

 ハリーはちょっと鼻の頭に皺を寄せる真似をして、じゃあまたね、と軽く笑って帰っていった。

 見送って、私はゆっくりと目を閉じた。

 今はまだ心静かな夜の、静寂の眠りがすぐに私を連れ去った。

―――誰にも心を奪われたりなんかしない。

 今は、まだ。






**********

...end.

 

 

----------Merry Christmas!!
一本目は初々しい?お子様ロンハークリスマスです。
まだお互いに意識もしてるかしてないか…初々しいですね〜(お前が言うな)
なんだかマートルが随分目立ってますけど、まぁいいか(笑)
一応映画前提のお話です。

 

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