|
**********
―――いつまでも手を繋いでいられるよな気がしていた。
「ハリー、そっちの飾り取ってよ。」
「これ?」
「違う、その向こうのガラス玉…そう、それ。よいしょ、と。」
「ロン、その飾り、もうちょっと隣と離した方がいいわ、近づきすぎ。」
「ええ〜?…ハリー、どう思う?」
「うーん、…確かにもうちょっと右の方が綺麗かな?」
「…わーかりました!ちぇ、人使い荒いぜ二人とも!」
脚立に乗って、背の高い赤毛の少年がツリーに次々と飾りをぶら下げていく。
僕と、もう一人の女の子は下で立って飾りを渡したり、全体のバランスを見たりする役だ。
ああでもないこうでもないと言い合いをしながら次々に飾りを吊してゆく僕達の元へ、
暖かいココアのカップを三つトレイに載せて、大男の森番が近づいてきた。
「すまんなぁ、ハリー、ロン、ハーマイオニー、手伝わしちまって。どうだ、一休みしねぇか?」
「うわ、ありがとうハグリッド!じゃ、もうちょっとしたら休憩させてもらうわね?」
「いんやハーマイオニー、早いほうがええ。折角のココアが冷めちまう。おいロン、お前さんも降りてきて休憩したらどうだ?」
ロンが脚立の上で肩をすくめた。
「ああ、いいよ、ハグリッド。どうせする事もなかったし。
…ハーマイオニー、そこの木彫りの天使取ってよ。それだけ飾ればこっち側終わるんだ。」
「いいよ、近いんだし、僕が取る。…これ?はい。」
「ああ、サンキュ、ハリー。」
ロンは微笑んで僕の手から飾りを受け取り、樅の木の枝に吊した。
今年は、いつもこの手の飾り付け担当のハグリッドが余りに忙しそうだったので、僕達三人は自ら協力を申し出たのだ。
魔法を使ってさっさとやってしまおう、という僕達に対し、
ハーマイオニーがこういうのは手作業でやるから意味があるのだ、と頑なに主張し、
結果として僕達は膨大な数の飾りを一つずつ手で付けていくことになった。
…勿論、てっぺん付近は魔法で飾ることにしたけれど。
脚立を降りてきたロンに、ハーマイオニーがココアのカップを渡す。
「はい、お疲れ様。ゆっくり飲んでね、火傷しちゃうわよ?」
「ありがとう。」
ロンはにっこり笑ってカップを受け取り、さっきまで登っていた脚立の段に腰を下ろした。
こちらを向いて、この後の首尾を尋ねてくる。
「…ハリー、最後に雪も降らせるんだろ?」
僕は限度を知らないハグリッド作の熱々のココアの湯気をあごに当てながら、栗色の髪の毛の親友を振り返った。
「うん、そのつもり…なんだよね、ハーマイオニー。」
「ええ、もう魔法は調べてあるわ?あと一息ですもの、休憩したらやっつけちゃいましょ?」
「はいはい。」
「分かったよ。」
僕達は素直に頷いた。
ハグリッドはココアを置くとまだ用事があるとかで帰ってしまったので、
僕達は三人で彼のお手製の岩石のようなクッキーを囓る努力をしながらお茶の時間を楽しんでいた。
かたん、とカップを置いて、ロンがでもさ、と口火を切る。
「なんか…こんなことしてると、クリスマスが近付いてきました、って気分になるよな。」
その意見を聞いて、ハーマイオニーが微笑む。
「盛り上がるでしょう?」
「ああ。かなり。…そうだハリー、今年もまた、ママからお手製セーターが君に届くと思うぜ、覚悟しろよ?」
ロンがこちらを振り返り、僕はようやっと少し冷ましたココアを啜りながら笑った。
「え?僕、あれ嬉しいもん。…モリーおばさんにありがとうって言っておいて。」
「…そういや君、喜んで着てるよな、あれ。」
信じられないよ、とロンがぼやき、ハーマイオニーがあらそんなことないわ素敵じゃない、私も欲しい、と反論した。
まるで裏切り者を発見したかのような目でロンが彼女を見る。
「君まで!…じゃあ来年は君の分もあるようにママに頼もうか?きっと張り切って編むと思うよ。」
ハーマイオニーが首を振った。
「あら、そんなの悪いわ?あなた達ご兄弟とハリーの分でも大変でしょうし。」
「そうか〜?…調子に乗って全然手間でも苦労でも無さそうだぜ?」
「そうよ。あ、いっそ私も教えていただこうかしら、モリーおばさまに。」
その彼女の発言に、ロンが眉を顰めた。
「げぇ、止めてよ、君まで『グレンジャー特製腹巻き』とか作るわけ?!」
「な、失礼ね、ちゃんとセーターを編むわよ!」
「いや、初心者はミトンか腹巻きが精一杯だね。…ジニーがそうだし。」
「…ロン、そこまで言うなら作ったら着るんでしょうね、腹巻き。」
「そりゃ、君に作ることができたらね?」
「言ったわね………模様にイニシャルじゃなくてフルネーム入れてやるから。」
「…なんでそんな、嫌がらせなのさ………。」
ロンが目をくるっと回して『降参』のジェスチャーをした。
あることに気付いた僕はすかさずすました顔でツッコミを入れる。
「…っていうかさ、ハーマイオニーが作ったものを必ず貰えると思ってるロンもロンだけど、
プレゼントする気なハーマイオニーもハーマイオニーだよねぇ。」
それだけ言うとつづっとココアを啜る。
案の定、二人はクリスマスのサンタの服より赤くなって「しまった」とでもいうような声をあげた。
「…アー、うん、あのさ、それは、あの…言葉のあやって奴で……。」
「そそ、そうよハリー。売り言葉に買い言葉でね?……。」
「仲がいいよねぇ、相変わらず。…疎外感感じちゃうなぁ。」
態とらしくよよと泣き真似をする僕に、二人は慌てて同時に身を乗り出して弁解を始めた。
「そんなことあるか!君だって一緒だろ?」
「そうよ、あなたが居てくれなくちゃ、ハリー。」
その答えに、僕は一応は満足した……けれど。
これを聞くのは反則だと思っていた。…何を言い出すのやら、と呆れられる気がした。
―――けれど、ここまで来たらもう聞かずには居られなかった。
「……卒業しても?」
恐る恐る発した小さな言葉に、まずロンが呆れたような顔一つせずその場でキッパリと即答した。
「くどい。」
ハーマイオニーも続いて微笑む。
「聞くまでもないわね。」
親友達の確信に満ちた返事に、僕はお人好しだなぁ、と表面で笑ってみせながら。
―――心の奥で、泣いた。
***
あれから何回のクリスマスを迎えたんだろう。
日は止めどなく流れるし、…いつまでも、同じ場所に留まってはいられない。
久々のロンからの電話でシェーマスとラベンダーの間に子供が産まれた、というニュースを聞いて、
僕はふと、そんな思いに駆られた。
ハーマイオニーと出てきているから出産祝いを一緒に買いに行こう、という彼の誘いを、僕は断った。
折角の恋人との休日を邪魔されたい訳がないだろう……本当は。
『ええ〜?!出て来いよ、頼むよ、君、今僕がどれだけ居心地悪いか分かるか?!』
「いいじゃん。近い将来の予行演習だと思えよ。」
『…な、…バッ…馬鹿、なに言い出すんだよ!!』
「ロン、どもってるよ……。」
途端に電話口の向こうで、彼が一通りいつもの言い訳をわめき立て始めたので受話器を遠くへ離す。
いい加減向こうが息切れして静かになったあたりで、精々明るく言い放った。
「あ、じゃあお金払うから僕も連名にしておいてね!」
『え。あ、ちょっ、人の話を聞け……!』
それ以上は聞かずに通話終了ボタンを押した。
…彼は相変わらず、真っ直ぐで。
けれど、守るべき存在を手に入れて、一本芯が通った最近の彼を、僕は正面から見られない。
居たたまれずに、電話を切ってすぐ、家を出る。
…僕だけ、取り残されてしまいそうで。
***
魔法界も人間界も、イベントで盛り上がるのは余り変わらないらしい。
買い物をしようとした僕は、浮かれきった街のディスプレイに苦笑した。
街のあちこちで、大きなツリーに飾り付けをする人たちの姿が見える。
…ふと、あのころのことを思い出した。
いつまでも三人で居られると思っていた日々。
学生時代、ああでもないこうでもないと言いながら、ツリーの飾り付けをしたこともあったっけ。
背の高いロンが飾り付け役で、ハーマイオニーと僕が飾りを渡して。
……僕は今でもあの時の夢を見る。
柄にもない感傷に捕らわれ、頭を振った。
今年のクリスマスも、やっぱり彼はツリーの飾り付けをしているんだろう。
その下で、飾りを口うるさく言いながら手渡しているに違いない栗色の髪の少女と一緒に。
幸せそうに、微笑み合いながら。
―――ボクノコトナンカワスレテ。
きりり、と胸が痛んだ。
かつてはこれを、恋の様なものだと思い込んでいた馴染みのある感覚だ。
…ロンが他の誰かと仲良くしているのを見る度に、胸に訪れた。
振り切るように歩き出すと、学生時代より伸びた頭が、樅の木に飾られた宿り木の葉を掠った。
「…った!」
「あ、ごめんなさいよ!」
ツリーを飾り付けていたおばさんがこちらを振り向く。僕は苦笑して手を振った。
「…いえ、僕も不注意でした。」
「そんなことを言うもんじゃ…ああ、丁度いい、お兄さん、お詫びにこれをあげるよ。持っていきな。」
言いながら、彼女は僕の手に樅の木から引き抜いたその宿り木の枝を押しつけた。
「え、あ、いや、いいですよ。」
「そんなこと言わずに!…お兄さん、『クリスマスに宿り木の下に立っている女の子にはキスしてもいい』っていうジンクスがあってね?」
あんたくらい男前なら好きな子の一人や二人居るだろう、頑張んな、と笑われて、僕は枝を返すに返せなくなってしまった。
「……じゃ、そうします。」
礼を述べて立ち去る。
…そんな事言われても、どうしようかなぁ。
まじまじと宿り木を見つめた。
―――宿り木、かぁ。
まるで僕みたいだ、と思ってまた、苦い笑いを噛み殺した。
…この執着と愛惜は、取り残されることに対する焦燥。
居心地が良すぎて、あの二人の傍を離れられない。
いつまでも、学生時代が終わってすら、僕は彼等を卒業できない。
二人だけにしてあげたくても、…僕の心はまるで灯火か暖炉のようなその暖かさを求めて止まない。
三人が最小単位なんて事が不自然なのは、僕自身が一番よく、知っている。
はぁ、と深くため息をついた。いつからこんなに甘える癖がついてしまったんだろう。
何でも一人で出来ると思っていたのに。…手の中の宿り木が重かった。
今は、一人で。…『今だけ』一人で。
今年のクリスマスも、彼等は必ず僕を呼びに来るだろうから。
悪い、と言っても辞退させてくれないんだけれど。
『私たちは毎年あなたとクリスマスをお祝いしたいのよハリー。…ねぇロン?』
『ああ、当然だよな、ハーマイオニー?なに遠慮してんだよ、らしくないぜ?』
…こんな風に言って。
いついつまでも僕の『家族』であろうとしてくれているから。
切なくて、痛いくらい申し訳なくても。
―――僕は甘えることを、止められない。
**********
...end.
|