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「折紙サイクロンのどっきりスカイハイ殿のお宅訪問、の巻でござる!」
数ヶ月後。スカイハイがメインを勤める、「突撃!隣りのスカイハイ」は、順調に視聴者を増やしていた。特に折紙サイクロンの自宅である忍者屋敷への訪問回は、本家HERO TVにも劣らない視聴率を叩き出す事になった。御陰で、HERO TVのプロデューサーのアニエスのご機嫌はすこぶる悪い。
最も、当の折紙サイクロン……イワンは、家に遊びに行きたいというファンでブログがパンクしそうになったり大変だったようだが。
会社が本気で拙者の家をアミューズメントパークにしようとしているでござる、拙者家を無くすかも、家なきサイクロンでござる、とさめざめ泣かれ、取りあえずどうしていいか分からなかった虎徹は、まあお前、折紙サイクロンランドってのも悪くないんじゃね? などと無責任なことを言って余計に泣かれた。
「拙者そんな見切れの国はうんざりでござる! スカイハイワールドなら行きたいでござる!」
「スカイハイワールドって……あいつ自身が生きた移動遊園地みたいなもんじゃねーかよ……」
ちなみに、虎徹のうちに来たときはアポロンメディアによるドッキリが仕込まれていて、寝ている虎徹のベッドをこっそりやって来たスカイハイが捲ると、隣りにバーナビーが裸で寝ていて、突然なんてことを、事務所を通してくれ! 映像止めて! とやられる一幕があった。無論、やらせではあったのだが、アポロンメディアの電話回線とネット回線が女性達の黄色い悲鳴で埋め尽くされたのは言う間でもない。
ただし、スカイハイは非常にいつも通りであったが。バーナビー君、裸では風邪を引いてしまうよ? とにこやかに言っただけだった。ついでに着ていたヒーロースーツの上着を脱いでそっとバーナビーの肩に掛けるなど、何故だか貴公子ぶりまで発揮して、全シュテルンビルトのお茶の間の視聴者達とバーナビーの心をきゅんとさせたようだがそれはともかく。
「つーか、明日スカイハイの家行くんだろ? どんなんだったか教えてくれよな、しかしあいつ、今年バニーに取られるまで不動のキングだったからな……。賞金とか出演料とか考えると、どんな豪邸か考えるのも怖いぜ」
「なんか、ご飯食べてってくれって好物聞かれました」
「超一流シェフのケータリングとかじゃね? いいなー、おじさんも呼んで欲しい」
そこに、聞きつけたバーナビーが割って入って来た。
「なに、物欲しそうな顔してるんですか。超一流シェフのケータリングがそんなに羨ましいんですか?」
「えっなに、バニーちゃん呼んでくれるの」
「冗談は顔だけにして下さい虎徹さん。僕はそれより虎徹さんの焼きそばの方が食べたいです」
「かーっ、坊ちゃんはジャンクフード食べつけてねえからな、これだよ」
言いながら、虎徹はどことなく嬉しそうだ。そういえば、バーナビーの家に突撃した時、何故かキースもお相伴にあずかった、と言っていた。虎徹の焼きそばはなかなかイケル味らしい。
ほのぼのしたやり取りの後で、バーナビーがイワンを振り返る。
「で、折紙先輩の好物って、何だったんです」
「ええっと、鰯を梅干しで煮付けた奴です……」
「それ、……スカイハイさんに理解できてるんでしょうかね……」
「さあ……」
「つうか折紙、それ俺のおふくろの得意料理だぞ、お前幾つだよ」
TIGER&BUNNYの両方から即ツッコミを入れられ、イワンはへにょんと眉毛を下げた。
「いけませんか。僕の家のご近所の定食屋さんのお昼の定番お惣菜なんです」
「あーはいはい、お前はほんとに庶民派ヒーローだな」
「虎徹さんには言われたくないと思いますが」
「っせえ、バニー!」
おじさん焼きそば作ってやんないぞ、と吼える虎徹の向こうで、イワンは密かに、例えスカイハイが出してくれたのが鰯の梅干し煮ではなく鰯のナントカ風カントカみたいな呪文料理でもドン引きしないぞ、と内心で密かに決意を固めていたのであった。
■ □ ■ □
えっ、と折紙サイクロンのヒーロースーツを身に纏ったイワンは我が目を疑っていた。
スカイハイの家、と言われて連れて来られた建物、それは確かに大きいものではあったが。
建物の厳重な門の前には、大きく「ポセイドンライン男子社員寮」と書かれている。スタッフ共々入館手続きをしながら、イワンの頭の中には益々クエスチョンマークが点滅する。豪邸……が、あるのだろうか、この中に。
そこに、物凄い違和感のある人物が聞き慣れた声で向こうからやってきた。
「やあ、よく来たね、折紙君!!」
「スカイハイ、さっ……!?」
イワンは綺麗に絶句した。キースは、確かにスカイハイのマスクを被っていたが……。その下はナチュラルに空色のジャージの上下だった。幾ら何でも気を抜き過ぎではないか。絶句するイワンに、キースが話かけようとした、その時。
「あっやっぱり出て行ってる! こら! スカイハイ!!」
「お前、いつ外に出たんだよ!!」
そんな事を叫びながら、大きな袋を抱えた屈強な男達が二人程走って来て、天然系風の魔術師を背後から羽交い締めホールドした。そのままずるずるとキースを引っ張り出す。
「うわ、何をする君達何を」
「ちょっと今ここカメラ映さないで!!」
「守衛さん、後は任せた!!」
言いながらキースは守衛室の奥の小部屋に引っ張り込まれ、その間後を任せられた守衛さんは、困った挙げ句、スカイハイはいい子なんだが、ちょっとトボケた所があって、となんだか言い訳にならない言い訳を始めた。
「やあ、お待たせした」
奥の小部屋から出て来たとき、キースはいつものヒーロースーツで颯爽と登場した。それだけで何となく安心したイワンは、こんにちはスカイハイ殿、と挨拶をする。
「あまりに砕けた格好だったので驚いたでござる」
「日常を映す、と聞いていたから、普段通りがいいんじゃないかと私は思ったんだがね……」
不満そうにマントを摘んでみせるキースに、いやそれはそちらでお願いさせて下さいと内心でツッコミを入れつつ、先程の人たちは、とイワンがこっそり尋ねる。
「ああ、私の寮の寮長さん達だ、いつも大変お世話になっている!!」
「まあ、スカイハイは俺たちのヒーローだしな」
「そうそう、だれた所を見せる訳にはな……」
ヘアブラシだのジャージだのを抱えた男達は、それじゃあ俺たちは先に向こうの準備を、と言って去って行った。
さて、と気を取り直して、イワンがマイクを改めてキースに向ける。すう、と息を吸い込んでイワンから折紙サイクロンに気持ちをスイッチさせた。
「本日は、拙者達がスカイハイ殿のお宅訪問ということで、宜しくお願い致すでござる!!」
「こちらこそ、宜しく頼む宜しく」
「早速ですが、びっくりしましたでござる、まさかスカイハイ殿が独身寮住まいだなどと……」
ポセイドンラインでも特別扱いされていると思っていたでござる、と言うイワンにキースは事も無げに笑った。
「無論、私は会社の顔ということで、特別扱いをしてもらっているよ!!」
「それは、どんなものでござろう」
「寮の中で犬を飼わせてもらっている!!」
向こうで、案内役でやって来たらしい上司と思しき人物がぼそりと、犬が居なきゃ淋しくて死ぬと抜かしたのはどこのどいつだ、と呟いたのがマイクに拾われなかったのは幸いだった。
「犬はいいから、スカイハイ、早速皆さんに家の中を見てもらってはどうだね」
「すまない、了解した!!」
「全く、玄関先で立ち話もなんだから、入って下さいよ」
ポセイドンラインの役員だと名乗ったその人物は、ヒーロー事業部の責任者だという。キースも随分と懐いているようであった。
「お、お邪魔しますでござるよ……」
言いながら足を踏み入れたスカイハイの自室は、それでも寮の中でも最上階の幾つかの部屋を抜いて作った特別室らしかった。寮費もお高めだと言うが、結局は社員寮、価格を聞いたイワンはついつい越して来ようかと思ってしまう。
いつ槍が降って来るか気が気ではない状態の忍者屋敷より、余程居心地が良さそうだ。アカデミー時代の経験の御陰で、これで結構寮生活には耐性のあるイワンである。
まあ、広いと言ってもこの社員寮にしては、ということで、世間にはこれより広い物件は山程ある。というか、下手したら虎徹の部屋の方が上等なくらいだ。
どうしよう、と思いつつ、キースの部屋で愛犬の過剰な歓迎を受け、キースがもたもたしている間に食堂からと差し入れられたお茶菓子とお茶を前にしつつ、イワンはやはり好奇心を抑えられずに尋ねてみた。
ちなみに、玄関横の壁には、屋外に向かって開くドアがあって、これはと聞くと夜のパトロールの時にここから出るんだよ、とキースが答えた。スカイハイ専用出入り口らしい。
天井にも同じようなドアがあって、猫か犬の専用ドアのようだ、とちらっと思ってしまったのを、イワンは慌てて首を振って追い払った。
「あの、スカイハイ殿は、どうしてわざわざ社員寮に」
「だって、ここなら食事も出て来るし、最初に住んだら居心地が良くて居着いてしまって」
スカイハイが初めてキングになった時に、流石にもう出てくれと言われたんだけど、それなら屋上にプレハブを建てると言い張ったら改装してくれたよ、とキースは嬉しそうに語った。
「まあ、それでもその内家を探してくれと言われてるんだけど、友達も沢山居るし、会社も近いし、なかなか出て行き辛くて」
いっそ、寮の敷地内を買収してここに自宅を、と呟くキースを止めてくれと上司が遮った。
「寮の牢名主にでもなるつもりかね、スカイハイ?」
隣りで黙っていた上司が思わず口を挟む。全く困ったものだ、と言いながらも余り困っている感じは無いが。
「しかし、拙者も一人暮らしでござるよ?」
まあ、最近あの忍者屋敷でちょっと自信をなくしつつあるけれど、と思いつつイワンが口を挟む。キースがそうそう、と目を輝かせた。
「だから、折紙君は凄いな、と思ったよ! 偉いねえ」
「君は一人暮らしをさせると三日で孤独死しそうだからな、スカイハイ」
やはり上司がツッコミを入れ、キースはいやお恥ずかしい、とそう冗談でもなさそうに頭を掻いた。イワンはスカイハイが犬と一人と一匹で広い部屋にぽつねんと暮らす生活を想像して、確かにスカイハイさんだったら寂しくて死ぬかも、と思ってしまう。
「しかし、スカイハイ殿なら、ファイアーエンブレム殿の様に豪華ホテル暮らしなどが出来るくらいの年俸は頂いているのではないでござるか……」
それなら沢山人が居るから淋しくはないかも、と思ったイワンに、キースがそんな贅沢は無理だよ、とさらりと言った。
「それに、スカイハイのギャラは殆ど寄付してしまっているからね!」
あっさりと言い切る空色の男に、お茶菓子の抹茶ロールケーキに手をつけようか迷っていたイワンがぴたりと手を止める。
「き……ふ?」
うっかり素のイワンに戻ってしまった。いま、なんか空恐ろしい事を言わなかったか、この男。ヒーローのギャラは、ぶっちゃけ危険な職業であることもあってかなりいい。最下位の折紙サイクロンでさえ、そこそこかなりの収入があるのだ。
それを、寄付?
「うん、恵まれない子供達とか、不幸な事故で飼い主を亡くした犬達とか……私なら、会社からの給料だけでも贅沢しなければ暮らして行けるしね。おや? どうした、折紙君?」
イワンはついついキースに向かって手を合わせてしまっていた。
(神様。今ここに本物の天使が居ました)
どんな豪邸だろう、ケータリングの食事の生活だろう、と言っていた自分が恥ずかしい。
思わず天に向かってイワンは祈りを捧げたくなった。地上にスカイハイさんを使わせて下さってありがとうございます。どうか末永く回収なしでお願いします、と。
そんな浄化されそうなイワンを余所に、それでは折紙君、歓迎会だ、とキースが立ち上がる。
「うちの食堂はシュテルンビルト一だと思うよ!! 是非食べて行ってくれ」
「か、かたじけないでござる」
ずるずるとスカイハイに引き摺られて行った食堂には、「いらっしゃい折紙サイクロン」と書かれた横断幕が掲げられていた。照れながらイワンが案内された席に座る。スカイハイは向いに立ち、やってきた割烹着の女性を紹介した。
「紹介しよう、食堂のおばちゃんだ!」
「あ、どうも、初めましてでござる、拙者、折紙サイクロンというヒーローの端くれで……」
イワンが慌てて立ち上がって頭を下げたが、食堂のおばちゃんは頓着していないようであった。食堂のおばちゃんは、杓文字を手にしたままイワンを頭の天辺から爪先までじろじろと眺める。
「あら、あんた細っこい子だねえ、もっとお肉つけなきゃ駄目だよ!」
「す、すまぬでござる!」
ずけずけと言われ、ぱん、と食堂のオバサンにお尻をはたかれて、イワンは思わず謝ってしまっていた。
「キースちゃんもここに来てすぐはひょろひょろ細っこかったけど、アタシの料理で大きくなったんだ」
「感謝している、とても」
にこにこしているキースは、好物だと言う肉豆腐を大量に盛りつけてもらっている。ああっちょっとそんな庶民的な、と思うイワンの向こうで、ディレクターが今の名前のとこ音声消して! と叫んでいた。
「ま、あんたもアタシの食事を食べたら直ぐにキースちゃんみたいになれるよ」
「それは本当でござるか!!」
「あと、リクエストの鰯の梅干し煮、たんと作ったから、食べ切れなかったら持って帰るかい?」
「頂くでござる!!」
大鍋で作られた鰯の梅干し煮はとても美味しく、イワンは僕も今日からここんちの子になります、とうっかり言いかけてしまった。キースが出て行かないのも無理は無い。食べている間中、寮の入居者達が次々とキースの所に声をかけに来るのも圧巻だった。ポセイドンラインのヒーローはかなり社員の皆様に愛されているらしい。
まあ、それはヘリペリデスの中にも折紙サイクロンファンクラブのようなものがあるが、あちらとこちらでは随分と愛情表現の仕方が違う気がする。折紙サイクロンはどうも愛されキャラというよりはいじられキャラの気がして仕方が無い。
「いいな、僕、ヒーロー辞めなきゃならなくなったらキースさんちの子になろうかな……」
収録終了後、ロケバスの中でヒーロースーツを脱いでお土産に持たされたタッパーに山盛りの鰯や他のおかずやお握りを手にしたイワンがそう呟くと、スカイハイの衣装を脱いでいたキースが、そうだねと笑いながらイワンの肩に手を置いた。
「いつでもおいで、歓迎するから」
「本当ですか?」
「ああ、いつでもだ」
ふんわりと微笑まれて、イワンはじゃあ、とりあえず近いうちにタッパーを返しに来ます、と早速二回目の訪問の約束を取り付けたのだった。
ちなみに。この回が放映された時、スカイハイの人気は最大風速、瞬間速度計測不能なレベルで一気に急上昇を遂げたのであった。どの位かというと、「風の魔術師」の称号が「地上に降りた最後の天使」の称号に塗り変わりそうな勢いである。
後日。夏休み向けイベント、「折紙サイクロンランド」の話を実現しようとする会社に対抗したイワンが、スカイハイさんの自立を助けるためという大義名分を盾に取って、キースの家に荷物をまとめて転がり込んだのは言う間でもない。
■ □ ■ □
「天使の休息」
(おまけ。あの後色々あって出来上がったらしい二人。)
いよいよ、キースが寮を出る事になった。
住宅情報誌を捲りながら、イワンはソファの上で愛犬と戯れているキースに声をかけた。
「ちょっと、キースさん!! 遊んでないで真剣に探して下さいよ、あなたの家なんですよ?」
「うん、イワン君が選んでくれたらもうそこでいいよ」
「良くないでしょう! まったく、ペット可で、セキュリティがしっかりしてて、高層階の物件なんてそんなに無いんですからね……」
ヘリペリデスファイナンスのコネも総動員して探しているが、今ひとつこれだ、という場所は無い。ポセイドンラインも優良物件を幾つも提示してくれているが、なかなかキースに似合う、と思える部屋には巡り会えなかった。
「あーあ、やっぱり現地に行かないと駄目ですね。キースさん、空いてる日は? 僕、併せてお休み取りますから、物件巡りしましょう」
途端にキースががばっと起き上がる。現金にも目が輝いている。
「いいね! そのまま食事もしに行こう!」
「遊びに行くんじゃないんですよ! 全く」
ぶつぶつ言いながら、イワンがキースから休日を聞き出し、自らの予定を調整しながら、これはと絞り込んだ物件の不動産屋に電話をかけて行く。普段は引っ込み思案なくらい引っ込み思案なイワンが、キースの為に色々してくれるのが嬉しくてそれをにこにこしながら眺めていたキースが、ふと気付いたように身を乗り出した。
「あ、そうだ、イワン君」
「なんですか?」
「和室だよ、和室が必要だ、そして必要だ」
「和室??」
なんで、と言うより早く、キースがイワンの唇を一瞬かすめ取る。
ばっと赤くなって唇を押さえるイワンに、キースはにこやかに微笑んでみせた。
「だって、イワン君の部屋が必要だろう?」
その、イワンが一緒に越して来ると信じて疑っていない満面の笑みに。耳まで赤くなりながら、イワンはもじもじとズボンのウエストに挟んで背中に隠し持っていた一冊の雑誌を引っ張り出す。
「あの、……実は。……僕が一目見て、いいなって思った部屋が、あったんです、けど……」
おずおずと差し出された、読み込まれた跡のある明らかに新婚さん向けの情報誌を目を輝かせて覗き込み、キースは青年の耳元で囁いた。
「私はとても一人では暮らして行けそうにないからね、イワン君が居てくれないと駄目だ、そして駄目だ」
「……仕方ないですから、お手伝いしてあげます」
家事はちゃんと分担してもらいますよ、と照れ臭そうではありながらも満更でもない表情で言うイワンの横顔を見ながら、キースは愛犬と、イワンも一緒の新しい生活もきっと素敵なものになるに違いない、という確信を抱いていた。
かくして、風を操る天使は本日も日だまりの中、最愛の青年の元で翼を休め続けるのであった。
■ □ ■ □
「スカイハイのどっきりヒーローのお宅訪問・番外編”隣りのワイルド君”」
ちなみに。
『突撃! 隣りのスカイハイ』のブルーローズ回は氷の宮殿(執事付き)、ロックバイソンは牧場(他のヒーローも呼んでバーベキュー付き)、ファイアーエンブレムは豪華ホテル(美青年ホテルスタッフ勢揃い付き)、とそれぞれ各所属企業が威信をかけて所謂「自宅セット」を用意して来た。
まともに自宅を開放したバーナビーとワイルドタイガーがそれはあんまりだ、と文句をつけて来るレベルである。圧巻だったのはドラゴンキッドの、各階に敵の居る塔で、スカイハイが各階のボスを打ち倒しつつドラゴンキッドの部屋まで登って行く趣向だった。敵役で現れた中に何故かワイルドタイガーが紛れ込んでいて、お茶の間は時ならぬヒーロー同士の決戦に沸き上がる事になった。
ついでにワイルドタイガーは何故かちゃっかり各回に登場し、ブルーローズ家の執事だったり、ロックバイソン家にピザを届けに来たり、折紙サイクロンの屋敷で回転扉の向こうに潜んでいたりしていたのだが。
本編終了後のミニコーナー、「隣りのワイルド君」は、折紙サイクロンの見切れと同じくらいワイルドタイガーを探すのに熱狂する人々で人気になっていた。
それもこれも、初回のバーナビーの家にスカイハイが訪れた時、何かケータリングでもしますか、と言いながら電話をかけたバーナビーが、ケータリング業者ではなく、間違えて虎徹にかけてしまい、しかも名乗りも聞かずにいきなり「メニューはなんでもいいです、男性二人分、大切な客人なので美味しいものをお願いします、なるべく速やかに、ですよ!」とやらかしたため、その素っ気ない伝言を真に受けて、自分の分も含めて都合三人分の食材を下げて登場したのが全ての始まりであったが。
その時虎徹の作った「ワイルドタイガー風野生の焼きソバ」は、普段ジャンクフード系の食事に縁の無いバーナビーとスカイハイに絶賛され、暫くシュテルンビルトの流行メニューにまでなったそうである。……そんなことはさておき。
「なんか、バニーが間違って俺んとこに電話して来た所為で、とんでもないことになっちまった……」
最終回直前のファイアーエンブレムの回に、用意された衣装に手を通しながら虎徹がぼやいた。虎徹の隠形レベルは段々上がって行っていて、現在黒帯レベルとなっている。次回で免許皆伝だそうだ。
「まあ、ワイルド君、ここまで来たら当然皆勤賞を目指すんだろう?」
「俺は折紙じゃねーっつーの。何でこんな仮装しなきゃいかんのよ?」
キースに言われ、普段のサングラスで顔を隠したスタイルながら、虎徹が頭を抱える。本日の衣装はホテルマン、しかもベルボーイなので金モールの衣装に帽子付きだ。
その虎徹に、キースは非常に嬉しそうに言い放った。
「次回は私の家だね、ワイルド君と折紙君で見切れ対決だな!!」
「いやいやスカイハイ、これそーゆー番組じゃねえし」
というか、ヒーローの日常生活を垣間みよう、という本来の趣旨はどこへ消えたのか、と言ってしまいたい虎徹であった。
■ □ ■ □
そして、最終回のスカイハイの家、ポセイドンライン男子社員寮編、だったが。
むくつけき男達の園にあまりにナチュラルにジャージ姿の虎徹が溶け込んでいたため、今までで最大の難易度を誇った最終回であったが、アポロンメディアの回線がパンクしそうな「どこにワイルドタイガーが居るか分からない」、という問い合わせの山の騒ぎを余所に、ジャスティスタワーのトレーニング室で普段通りにテレビを見ていたバーナビーは至極不思議そうに呟いた。
「あの後ろ姿と背格好と姿勢、虎徹さんですよね?」
「おっ、バーナビー、よく分かったな」
「というか、どうして皆が分からないのかが分かりませんよ、僕には」
不思議ですね、と事も無げに言い切るバーナビーの向こうで、バーナビーの指摘があっても虎徹を見つけられずに目を凝らしていたカリーナとネイサンが、だめ、無理、とギブアップ宣言をする。
「ハンサム、あんた本当によく分かったわね」
「分かりますよ。だって、スカイハイさんだって、折紙先輩が何に擬態していても見分けるって言ってましたよ、ねえ?」
話を突然物凄い暴投で振られ、虎徹を探していたイワンは「え、うええ!?」と言いながら飛び上がった。逃げ出しそうなそのイワンの肩をぽんと虎徹が叩く。
「諦めろ。あの手の天然系金髪の探知能力は異常だ」
「た、探知能力って」
「そうねえ、肉食獣が本能的に獲物を狩り出すってカンジ?」
「おいちょっ待てよファイアーエンブレム! 俺がタイガーさん、あっちはバニーだぞ!?」
肉食系おじさんは俺の方だろ? と虚しい反論をする虎徹を余所に、イワンはそうなんですよねえ、と深いため息をついた。
「最初は、五割位だったんですよ? 僕の擬態を見破れる確率。それが段々上がってって、最近じゃほぼ百パーセント見破られるんです……」
なんだか自信を無くしました、としょんぼりするイワンを虎徹が慰める。
「それを言うならだな、俺だって町中でどんな汚いカッコしてうろうろしてても、どっかであいつに発見されて声かけられるんだぞ。御陰で、ジャージで外に出られなくなっちまった」
「それは普通に出ちゃ駄目でしょワイルドタイガー」
あんた本当にヒーローの自覚ないわね、と言うネイサン達を見ながら、一人傍観していたアントニオは、虎徹と折紙の言ってる事、ありゃ壮大な惚気だな、と呆れつつ、何も分かっていない顔でうきうきとワイルド君いないねえ、などとのほほんとした事を言っているキースに視線を送る。気付いたキースが首を傾げた。
「どうした? バイソン君」
「や、お前の折紙サイクロンサーチエンジンって、一体どうなってんのか、ってな」
「そこに居れば分かるんだから、他にはなにも」
「ああ、そーかよ。ご馳走さま」
「私は別に何もバイソン君に御馳走してはいないが……」
そのうち臆面も無く「愛の力」だのと言い出す可能性のある天然系金髪男を二人抱え込みつつも、ヒーロー達は本日もシュテルンビルトの平和を守る事に精を出すのであった。
■ □ ■ □
「虎徹おじさんの執事姿が見たいだろうというので」
ぷう、と美少女が頬を膨らませる。
「スカイハイが突然訪問はいいけど、何このセット。ちょー不本意! ちょー有り得ない! あたしはフツーの家庭の娘だっつーの」
そびえ立つ氷の宮殿を前に、ブルーローズはお冠だった。まあ、中身はともかく、外観の氷は自身で作らされたのだ。機嫌も悪くなるといえよう。
「まあまあ、そうカリカリすんなって」
その時、後ろから聞き慣れた声がして、カリーナは振り返った。
「はあ? 誰もカリカリなんか、してない……し」
そこで、綺麗にカリーナは絶句した。よっ、と片手を上げて軽く挨拶してくる虎徹は、真っ黒の三つ揃いスーツ姿で、ついでに手にトーションなんて掛けて、どこから見ても「執事ルック」だ。
「なっ、なっ……」
ぱくぱくと口を開け閉めさせて言葉を失うカリーナに、虎徹はにいっと笑いかけた。
「ま、番組内の企画でよ、俺、どっかに出演することになってんだわ。今回はブルーローズ家の執事、ってことで」
そこで、虎徹は茶目っ気たっぷりにカリーナの前に深々と頭を下げた。
「宜しくお願いします、……『お嬢様』?」
ついでに、上目遣いに駄目押しのウィンク一つ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっ!!!」
当然ながら、所詮免疫の無い女子高生、真っ赤になったブルーローズが放心状態から立ち直るまでには相当の時間を費やす事になったのであった。
■ □ ■ □
「天使様が執事様!」
「折紙君!!」
「な、なんですか、スカイハイさん」
自宅の窓を開けると、空に執事が浮かんでいた。
……ではなく。
正直にイワンは腰を抜かす所だった。
「なっ、何やってるんですか、スカイハイさん!?」
「うん、今日の収録で、ワイルド君がやっていた執事の役がとてもかっこいいので、私も衣装を貸してもらって来た!」
どうだい、と言いながら、その場でくるんと回るキースは、金髪碧眼の美丈夫だけあって、執事のクラシカルな服装も綺麗に着こなしている。
「どうって、とても……似合いますが」
「イワン君も、ドラゴンキッド君みたいにメイド服を着せてもらえば良かったのに。可愛かったよ」
「いえいえいえいえ絶対ノーサンキュウでござる」
ぶるぶると首を振るイワンの前にそっと降り立ち、キースはイワンの手を取って、その手の甲に唇を付けた。
「それでは、美味しいお茶を入れてあげるから、家に招いてはくれないだろうか、『ご主人様』」
ご。
イワンの思考回路が完全に停止した。マジでサイクロンエスケープする五秒前、という案配だ。
ご、しゅじん、さま?
だれが。
いや、僕が。
だれの。
キースさん、……の?
かあああああああああっ、とイワンの顔どころか全身が赤くなる。イワンの手を捕らえたまま、下からその様子を面白そうに覗き込み、キースはにこりと笑う。
「さあ、美味しいケーキも買って来たんだよ、中に入れてくれないかご主人様、そしてご主人様!!」
「そっ、それ止めてくださいいいいいいっ」
「どうしてだい、ご主人様!」
「いやだあああああ!!!」
イワンの涙混じりの絶叫が折紙サイクロンのカラクリ屋敷に響き渡ったが、残念ながら空を飛ぶNEXTでも無ければ簡単には入って来られない屋敷の事、助けは誰もこないままでございましたとさ。
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