美しき人間の日々(前編)




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「えっ?」

 ポセイドンラインの重役の部屋に呼び出されたスカイハイ……キース・グッドマンは聞かされたばかりの話に非常に驚いていた。

「私が、バラエティ番組……ですか」
「そうだ」

 ずっと不調だったスカイハイが、先日の戦闘用アンドロイドを撃破した事件以来復調しているので、不動の一位だったバーナビーとのポイント差が徐々に縮まって来ている。その所為か、一時はきつかった風当たりも徐々に和らいで来ていた、と思ったのだが。どうも、それが違う方向に向いてしまったらしい。

「あの事件の前に、君、頭から塀に突っ込んだことがあっただろう」
「あれは……なんというか、誠に申し訳ない」

 さっと頬を染めて頭を下げるキースに、上役はまあそれはいい、と手を振った。

「それが、あの事件の後で、また意外な方向に向いてな」
「は?」
「元々、君には些かトボケた所があったがね、スカイハイ。それがあの事件以来、貴重な天然ボケのキャラとして、ネット上などで好意的に認識されつつあるらしい」
「……はあ」

 君、ネットは、と言われても、家にパソコンはあるものの、興味がある事を調べたり、なかなか買い物に行く時間が取れない時に通販を頼んだり、会社から転送されて来たファンレターを読む位が精々のキースには、今ひとつピンと来ない。つい最近長時間パソコンの前に座り込んだのは、愛犬のペット用品が切れていたので注文しようとした時に、うっかりおもちゃや新しい家などを買い込みそうになった時くらいだ。

 頭の上にクエスチョンマークを散らしまくっているキースの様子に、重役はそんなこったろうと思った、とため息をついて、ばさっと机の上に分厚い紙束を放り出した。

「読んでみろ! 玩具メーカーから、スカイハイ・ダーツの商品化の話まで来ているぞ」
「いいですね、楽しそうだ」

 スカイハイが可愛い、次はどんなスカイ大空転を見せてくれるか楽しみ、などという感想の書かれた紙束を見ながらキースはやや他人事のように返事をした。無論、彼自身は二度とあんなミスはしない、というつもりだったのだが。

「笑っている場合か! それでだ、タイガー&バーナビーを抱えるアポロンメディアが君に目をつけた」
「はあ……」
「間もなく始まるバラエティ番組に、君を看板に持って行きたいらしい。主に他のヒーローや視聴者との絡みらしいが、やってみるか?」

 キースは少し考えた後で口を開いた。

「やりましょう、是非、やらせて下さい」
「分かった。まあ、こちらとしても、「風の魔術師」だけでは押し出しが弱いと思っていた所だ、キングに返り咲く前に、新たなファン層の開拓も悪くはない」

 重役は頷き、その場でアポロンメディアに電話をかけ始めた。キースは重役の後ろの窓から外を見ながら、新しい風が自分に向かって吹き始めたのを感じていた。


 斯くして、スポンサーとしてポセイドンライン全面協力を引っさげ、新番組「突撃隣のスカイハイ!」は始まったのであった。


■ □ ■ □



「スカイハイのどっきりヒーローのお宅訪問」


 キューが出ると同時に、キースはスカイハイになり切って、話を始めた。

「シュテルンビルトの市民の皆さん、こんにちは、そしてこんにちは! 今日は、折紙サイクロン君のお宅にドッキリ訪問だ! 前回のバーナビー君の時は、ワイルド君が乱入して大変なことになったが、今回はどんな事になるのか楽しみだね!」

 言いながら、キースは和風の門構えの屋敷を見上げた。ちなみに、セットだ。ヒーローの自宅が特定されないように、玄関前の映像と、場所が特定されないように、窓からの景色なども処理するのだと聞いている。実際のイワンの家には、これから移動する事になっていた。打ち合わせ通り、玄関前で声を張り上げる。

「たのもう! そしてたのもう! 折紙サイクロン殿はご在宅か!」

 途端、ぎぎぎ、と門が軋む音がして、僅かだけ扉が開いた。その中から、イワンの声が響く。エコーがかかっているが、当然特殊効果だ。

『拙者を呼ばれるのは何方でござるか!』
「折紙サイクロン殿、スカイハイだ! 貴公のお宅を拝見させて頂きたく、尋ねて来た! そして、入れてもらいたい!」
『それは結構でござるが、但し条件があるでござるよ』
「条件?」
『拙者と言えば見切れ、見切れと言えば折紙サイクロンでござる。スカイハイ殿には、門に隠れている拙者を見つけて貰いたいでござる。さすれば、我が家へとご招待致すでござるよ!』
「なんだと? 仕方が無い、……スカーイ、ハーイ!」

 叫ぶと、キースは空中に飛び上がった。

「さあ、見つけてみせるぞ、折紙君!!」
『ふふふ、見切れ職人の名にかけて、拙者なかなか見つかる訳には行かないでござる!』

 そこで、カットの声がかかったのでキースはふわりと空から舞い降りた。同時に、ヒーロースーツを着用して頭だけ脱いだイワンがお疲れさまです、とやって来る。イワンはキースの台詞に併せてアフレコをしていたのだ。

「この後、移動だそうです。……あの、僕の家、一生懸命片付けたんですけど……狭いし汚いし、バーナビーさんの家みたいに豪華じゃないので……ごめんなさい」

 もじもじと言うイワンに、キースも頭だけマスクを脱ぎながら、こちらこそ、と苦笑した。

「なんだか、アポロンメディアとポセイドンラインが随分ヘリペリデスファイナンスにごり押ししたみたいで申し訳なかった」
「いいんです、僕どうせ、最下位だし、ヒーローとしてどんな事でもスカイハイさん達のお役に立てるなら……」

 ぼそぼそと俯いて喋るイワンの肩に、キースがぽんと手を置いた。

「それに、私は折紙君の家に初めて遊びに行くヒーローなんだろう? ふふ、番組とはいえ、なんだか得をした気分だよ」
「い、いえ、あの、いっ、いつでも来て下さい、歓迎します!」

 つい力を入れて叫んでしまって、イワンは真っ赤になった。キースがそれは嬉しい、と笑顔になる。

「折紙君もいつでも私の家に遊びに来てくれたまえ。少し騒がしいが、退屈はしないよ、きっと」
「本当ですか!?」

 スカイハイの自宅、と聞いて俄然イワンが身を乗り出した。そんなもの、どんな豪邸か気になって仕方が無い。その二人の会話を聞きつけた番組プロデューサーが、ああそれはいい、と身を乗り出した。

「じゃあ、このコーナーの最終回は、逆にスカイハイの自宅を折紙サイクロンが訪問、でどうだい?」
「ああ、いいね。是非遊びに来てくれたまえ、折紙君!!」
「えっ、えっっ??」

 門の飾り細工の中に擬態して隠れる折紙サイクロン、という場面を撮影する前に既に動揺しつつあるイワンを余所に、話はトントン拍子に進み、折紙サイクロンは「スカイハイのどっきりヒーローのお宅訪問」の最終回に再び出演が決まってしまったのであった。


■ □ ■ □



 イワンの家にロケバスで移動する途中、イワンはキースの横でそわそわしながら座っていた。

「どうしたんだい? 折紙君。緊張しているのかい?」
「し、しているでござる、拙者、HERO TV以外でこんな形でのテレビへの出演は初めてでござる故……」

 もじもじと脱いだマスクをいじり回すイワンの手の上に、そっとキースの手が置かれた。びくっとしてイワンが顔を挙げる。

「す、スカイハイ、殿?」
「今はキースでいいよ。この間、収録前にワイルド君から教えてもらった取って置きのおまじないを教えてあげようね」

 言いながら、キースはイワンの掌に、ヒーロースーツ越しに『人』という字を三回書いた。そのイワンの手を握って、一緒に、と言いながらぶんぶん上下に振り回す。

「イワン君の緊張、遠い遠いお空に飛んで行け、スカイハーイ!」

 言いながらぱっと手を離され、イワンは目をぱちくりさせた。なんだか、半端に合っているのか間違っているのか怪し過ぎるおまじないだ。

「あ、あの、キースさん」
「もう大丈夫だ、そして大丈夫だ! これでイワン君の緊張は飛んで行った筈だよ!」
「いやいやいや」

 思わず反論しかけたイワンだったが、確かに緊張は多少解れた気がする。視線を向けると、キースは相変わらずにこにこしているだけだ。

(……ま、いいか)

 ふう、と息を吐き出し、イワンはありがとうございます、とキースに向かって礼を述べたのだった。

 イワンの家に到着すると、直ぐに収録が始まる。キースが再びスカイハイのマスクを付け、玄関先で声を張り上げた。

「それでは約束だ、家に入れてもらうよ、折紙君」
『どうぞ、お茶と茶菓子は既に居間に用意してあるでござる!』
「……って、どうして折紙君はいないんだい!?」
『拙者は見切れ職人、例え自宅でも見切れ続けるでござるよ!』
「しかし、それでは手土産に用意して来たジャパンの銘菓、『手裏剣煎餅』と忍者列車の模型が渡せない!」
『忍者列車! ……いやいや危ない、そうやって拙者をおびき出す作戦でござるな、その手は喰わないでござる!!』

 そこで、イワンはスタッフがこっそりやって来て手元に置いて行った、「足下のボタンを一番右から順番に押せ」というメモに首を傾げた。イワンは寝室の押し入れに潜んでいたが、その事はキースには伝えられていない。

「僕んち、押し入れにボタンなんてあったっけ……」

 首を傾げつつ、足下を探ると確かに押し入れの隅にボタンがずらっと並んでいる。こんなものいつの間に、と思いながらボタンを押すと、収録中のマイクから物凄い悲鳴が聞こえて来た。

「うわあああああっ!?」
「すっ、スカイハイさん!?」

 慌てて手元に用意されている、キースの様子を隠し撮りしているという小さなモニタを覗くと、イワンの家の玄関の上がりかまちに見事な落し穴が開いていた。キースは間一髪浮かび上がったようで、穴の上に浮かんでいる。

「ちょっ、一体……!」

 呆然とするイワンの耳に、タイミングよく会社の上司からの内線が入った。

『やあ、折紙サイクロン、収録はどうだね』
「あっ、あの、拙者の家には、いつから落し穴が仕掛けられているのでござろう!?」

 ああ、とイワンの上司は不穏な含み笑いと共に、スカイハイは引っかかったかい? と聞いて来る。

「飛んだでござるよ、それよりも」
『飛んで逃れたか、つまらん。ちゃんと穴の底には竹槍があったんだがな……。では、次のボタンは壁が入れ替わって同じ部屋の中に居ながら錯覚を起こすようになっている。その次を押すとワイルドタイガーが召喚できる、その次は……』

 ちょっと待ってくれ、とイワンは焦った。自分の家はからくり忍者屋敷ではなかった筈だ、ごく普通の和風木造アパートの一室だった筈だが。そう言うと、上司は事も無げに改装したんだよ、と言い放った。

「そんな、いつ!?」
『収録が決まった後、君が仕事で飛び回っている間にだよ、勿論! ヘリペリデスファイナンスの威信にかけて、折紙サイクロンが住んでいるのは忍者屋敷だろう、君!!』

 堂々と言い放たれて、今回の企画のヘリペリデスの責任者はこいつか、とイワンの眉間に皺が寄った。

『折紙君の合図で畳返しも出来るようになっているよ!! あと、紐を引っ張ったら吊り天上が落ちて来るから、楽しみにしたまえ!』
「待つでござる、拙者どこのゴルゴ13に狙われておるのでござるか!!」

 全く、収録が終わったら家は元に戻してくれるのだろうか。自棄になって、イワンが一応ボタンを片端から押して行くと、耳元にキースのはしゃいだ声が聞こえた。

「すごいね! なかなか居間に辿り着けない、流石は折紙君のお家だ、楽しい、そしてとても楽しい!!」
「そーれーはー、よかったでござる、よ……」

 イワンの方はかなり疲労困憊だ。どっきり自宅訪問って、こんな番組だったか? と首を傾げる。

(絶対うちの上司、風雲たけし城と間違えているでござる……)

 キースが寝室にやって来る前に、「よくぞ来た! 我が精鋭達よ!」と言いながら迎撃するかどうかを真剣に悩みながら、イワンは取りあえずキースを正しく居間に導くべく押し入れから抜け出したのであった。

 一人居間で卓袱台に座って、イワンの用意した羊羹と渋茶を楽しむキースと見切れで会話をしながら、凄いね折紙君、やはりニンジャはニンジャヤシキに住むんだね、毎日でも遊びに来たい! と言われて嬉しいような嬉しくないような、微妙な気持ちを味わう事になったのであった。



→スカイハイさんのお家訪問に続く……かも。  










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ツイッタ―で友人達とドッキリの話とかお家訪問の話をしていて書いたもの。お笑いです……。ていうかなんかもう色々ごめんなさい。15話の余韻ぶちこわし。所詮がスカイ廃。/タグ、ブックマークタグ、評価、DRありがとうございます!\宣/

 

 

 

 

 

 

 

 

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