Mr.Goodmanの平穏なる日常




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 真っ白なカーテンが朝の光に翻る。さらさらのリネンのシーツの中で、キース・グッドマンは目を覚ました。寝惚けながら隣りを探るけれど、そこには誰もいない。

「……ああ、寝過ごしてしまったか」

 呟きながら上体を起こすと、丁度いいタイミングで部屋の扉が開く。

「あれっ、お早うございます」

 トレイにマグカップを乗せて入って来たのは、プラチナブロンドの髪の青年だった。キースはその姿を見て、嬉しそうに微笑む。

「お早う、イワン君」
「おはようございます。朝ご飯召し上がりますか?」

 微笑みながら青年は聞き、キースにマグカップを差し出した。いれたてのコーヒーの芳醇な香りに身体が覚醒して行くのを感じつつ、キースはマグカップを手に取る。

「頂くよ! お腹がぺこぺこだ、そしてイワン君の朝ご飯は世界一だ!」
「おだてたって普段通りの物だけですよ」

 くすりとイワンは笑いながら、キースの側に近づいて来て、顔を寄せて目を閉じる。要求されたおはようのキスに答えながら、キースはイワンの柔らかな髪の毛を指で梳いてやった。

「シャワーを浴びた?」
「ええ、先に。キースさんも浴びて来て下さい、その間に卵焼き焼いておきます」
「甘いのがいい!そしてイワン君くらい」
「何を言ってるんですか!」

 ばか、と赤くなりながら紫色の瞳で睨めつけられても、可愛らしいばかりだ。マグカップを手にしたまま、キースはイワンにキスをしながらベッドから下りる。

「じゃあ、お言葉に甘えてシャワーを浴びて来るよ」
「ええ、そうしてください。……髭の生えてるキースさんも、ワイルドで嫌いじゃないですけど」

 キスをした時に少し当たった髭の感触を思い出しながらイワンが言うと、キースはワイルド君と被るから嫌だよ、と答えた。それで、イワンが思い出したように言う。

「そういえば、タイガーさん、まだ休暇から帰って来ませんね、どうしたんだろう」

 熱血漢が服を着て歩いているようなワイルドタイガーが、休暇を取って里帰りをしている事さえ珍しいというのに。言うと、キースは細君の墓参りもしたいだろうし、娘さんもいるし、色々あるのさ、と慰めるようにイワンの頭を撫でた。

「まあ、私のイワン君は随分ワイルド君に懐いてしまっているから仕方ないが、私だけでは淋しいかい?」
「いっ、いえ、そういう訳じゃ……早く帰って来てくれないと、ちょ、やっ」

 ちゅ、と少し強めに首筋に口づけられて、イワンは慌てた。ベッドに逆戻りコースは往々にしてあることではあったが、今日は流石に遅刻できない。

「まあ、あまりイワン君を困らせてもいけないからね、シャワーで嫉妬心を洗い流して来ようか」

 キースは肩を竦めて言い、イワンから体を離す。離れ難いと思う気持ちを、イワンは必死で指先から押さえつけた。


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 甘い巻き焼き卵はイワンと結婚してからほぼくみ上げられていた食生活の中の朝食を和風に切り替えたキースの、本当は食べ過ぎては駄目なのは分かっているけれど大好き、な料理であった。

 イワンもキースの体調管理がかかっていると知っているので毎日は作らないが、キースの喜ぶ顔を見ると、毎日作って上げたいのに、と思ってしまう。

 少し焦げ色がついたくらいの卵焼きとご飯と味噌汁と、という純和風の朝食を食べながら、そういえば、とキースが話を振って来た。

「ここのところ、ブルーローズ君もあまり元気がないようだが、大丈夫なのかな」

 ああ、とイワンは苦笑した。

「ワイルドタイガーさんがいなくて、淋しいみたいですよ、あの人も」

 なんだかなあ、と呟くイワンは、完全に自分の事は棚に上げている。キースは苦笑して。そうだと手を打った。

「実は、ワイルド君から、彼女のバイト先のバーを聞いているんだ。今度二人で行ってみないか」
「いいですね、びっくりさせちゃいましょうか」

 イワンも微笑み、自分の分の卵焼きを一つ、キースの空になっている皿に移した。

「イワン君、それでは君が……」
「ブルーローズのお店、ちゃんと連れてってくださいね?」

 約束ですよ、と言われて、キースは笑いながら賄賂は受け取るよ、と言った。

「けれど、イワン君の卵焼きは世界一だ、そして美味しい」
「そんなの、巻いただけですから、あんまり……」

 照れたように頬を染めるイワンを目を細めて見ながら、キースは最近、ブルーローズ君やドラゴンキッド君とも仲がいいようで何よりだ、と言った。

「え、ええ。ホアンとは技の開発もしてるんですよ! 稲妻落し斬り! とか」
「……この間見たニンジャ映画にそんなのがあったね」
「あっ、スカイハイ殿、ネタばらしはひどいでござる!」

 真っ赤になったイワンを笑いながら、キースは食後のお茶に手を出す。湯呑みは、イワンがお揃いで、と揃えてくれた物で、キースのは紫色、イワンのは空色だ。逆じゃないかな、と一瞬思ったが、逆でいいんです、と頬を染めたイワンに言われたので、それもそうかと納得して使っている。

 ちなみに、マグカップも全てイワンが越して来る時に、お揃いで、と揃えて来てくれたものだ。

 ジョンに餌をやって、出勤の準備を整える。PDAが鳴ったので誰だろうと思って出ると、相手は噂の虎徹だった。映像つきだ。

「おや、お早う。珍しいね」
『おう。……あのな、スカイハイ。今日お前らってトレーニングセンターに来るか?』
「今日は全員揃う筈だよ?」
『お、じゃあ……そうだな、土産持って行き易いな』
「帰って来るのかい? そんな、気を使わなくていいのに」

 どことなく歯切れの悪い虎徹の様子を珍しく思いながらキースは言う。虎徹は、まあ新婚さんを煩わせて悪かったよ、と苦笑しながら手を振った。

『あ、折紙そのへんに居るだろ。あいつが欲しいって騒いでた木刀と観光地提灯は買った、って言っといてくれ』

 全く、あんなものなんで欲しいかねえ、と呟く虎徹に、キースが伝えておくよ、と笑う。

『じゃあな、新婚さんの朝を邪魔して悪かった』
「いや、また私の家にも遊びに来て欲しい」
『そのうちな』

 通信が切れた所に丁度着替え終わったイワンが顔を出したので、ワイルド君から連絡が合ったよ、と言う。

「今日帰って来るそうだ」
「本当ですか?」
「ああ、イワン君に頼まれた木刀と提灯も買った、と」

 提灯というのは、確か先週、どこかの日本風の祭りにヘリペリデスファイナンスがやたらとでっかい折紙サイクロンのデフォルメを竹と和紙で拵えて出していたあれだろうか、と思いながらキースは言った。

「本当でござるか! 嬉しいでござる!!」

 拙者観光地の提灯を集めているでござる、と急に生き生きし始めたイワンの姿に、キースは苦笑した。

「イワン君は、本当に可愛い。そしてチャーミングだ」
「えっ、急に何を言い出すんですか、キースさん」

 赤くなって俯きそうになるのを、両肩に手を置いて、額に軽く愛情を込めたキスを送る。直ぐに、口唇が重なった。

「……駄目だな、口元が緩んでしまう。こんな素敵な人が私の奥さんになってくれた、なんて」
「駄目ですよ、引き締めておいて下さい」

 顔を離しながら言うキースに、イワンは微笑みながら、爪先だってキースの口元にもう一つキスを落した。

「僕の旦那様は世界で一番かっこいいヒーローでいてくれなきゃ、困ります」

 だって僕は、世界一かっこいいヒーローの奥さんなんですから。照れたように言われて、キースは思い切りイワンを腕の中に抱きしめていた。

「イワン君」
「はい、なんでしょう」
「出勤時間まで、あと1時間あるだろう? 今日は私が空を飛んで送ってあげるから、だから……」

 もう少し、君を補充させてほしい、そして欲しい。囁きながら耳元に口づけて来るキースに、イワンは仕方のない人ですね、と満更でもなく笑いながら、目を閉じて身体を預けた。

 こうして、キース・グッドマンの平穏なる一日は、今日も同じように過ぎて行くのであった。
 










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18話を見てかっとなってやりました。きっとあの朝はこんな感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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