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そういえば、とイワンはマンスリーヒーローを広げて読みながら、傍らで愛犬と遊んでいる男に尋ねた。
「スカイハイさんの誕生日って、いつなんですか?」
ん、と言って顔を上げた男が、すぐに明瞭な日付を返答として戻してくる。
「スカイハイなら、9月の20日かな」
即答したその日付に、イワンがええっ、と言いながら身体を起こす。それは、聞き捨てならない日であった。
「空の日じゃないですか!」
「うん、そうだね」
ふわりとどこかとらえどころのない笑顔を浮かべたキースに、なんてぴったりなんだろう、と独りごちたイワンが、ああ、でも、とほんの少し悔しそうに呟く。
「もう過ぎちゃってますね……残念です。僕もお祝いしたかったなあ」
しかし、その頃はまだキースとはこんな親しい関係になるかならないか、という時期だった。誕生日を聞くどころか、話をするのもまだまだぎこちなかった時期だ。
確かに、恋人同士のイベントなら誕生日は外せないが、あんなままならない時期に聞いたとしても、しっとりした誕生日にはならず、バーナビーの時のようにみんなで祝ってお仕舞いだったかもしれないが、それにしても。
「教えてくれれば良かったのに……」
イワンは口を尖らせた。ついつい恨み言めいた言葉になってしまう。本当にお祝いをしたかったのだ。イワンは、別に恋人同士では無くてもスカイハイの熱狂的な贔屓でもあったので。イワンの拗ねた顔を見て、すまないね、とキースが苦笑した。
「あまり、他では言っていないものだから。ポセイドンラインで皆でパーティはしたんだけれど」
「僕だって、キースさんの誕生日、その……祝いたかった、です」
二人きりではなかったかもしれないけれど、それでも。スカイハイの生まれた日なら、日ごろの感謝も込めてお祝いをしたかった。
それに、イワンはその頃も、確かにキースの事を好きだったのだから。
(結構、ショックだったかも……。まあ、折紙サイクロンだって誕生日は公開してないけど、それにしたって僕もリサーチ不足だよね)
落ち込んだ様子のイワンを見ていたキースは、少し首を傾げると、ジョンを撫でていた手を止めて、立ち上がってイワンの隣に腰を下ろす。
「……ねえ、イワン君」
呼びかけられて、イワンは顔を上げた。
「はい」
「スカイハイの誕生日を、聞いてくれたんだよね?」
敢えてそんな風な念押しをされて、一体それ以外のなんの話があるのだろうとイワンは首を傾げた。
「そうです。……キースさんの、誕生日を」
あのね、とキースがイワンの耳元に顔を寄せ、囁くように言った。
「私の誕生日は、もう少し先だよ」
「え?」
驚いたような表情でキースを見るイワンに、金髪の男はにっこりと微笑んで見せた。
「スカイハイの、誕生日しか、今まで聞かれたことがなかったんだけど。……スカイハイは、スカイハイだからね。空の日が誕生日には相応しいだろう?」
だから、その日に生まれたんだというキースに、徐々にその言葉の意味を飲み込んだイワンが、まさか、と呟いて口元を押さえ、その後で意を決したようにキースに向き直った。
「キース、さん、お願いが」
「うん、なんだろう」
キースが心得たようにイワンの顔を見ながら楽しげに微笑み続けている。イワンは一つ深呼吸をして、思い切ったように男に尋ねた。
「僕に、……キースさんの、キース・グッドマンさんの誕生日を、教えて下さい」
「いいとも、そして勿論だ!」
嬉しそうに笑いながら、キースはイワンの手を取り、恭しく掌に口づける。
そうして、再び顔を近づけて、イワンの耳元にとある日付を内緒話か秘密を打ち明ける時のように恭しく告げる。
聞いたイワンは顔を輝かせて、男の青い瞳を見上げて、きらきらした表情で取られた手を握り返した。キースが一つウィンクを追加しながら続ける。
「……バーナビー君と違って、キース・グッドマンは皆のヒーローではないからね、誕生日は特別な人にしか、教えないことにしているんだ」
例えば、恋人とか、と囁かれて、イワンには急に羞恥心が戻ってきたようだった。
「あの、……恥ずかしいです」
そんなイワンの額に口付けを落としながら、キースがそっと伺うように青年に尋ねる。
「ねえ、二人で、祝ってくれる?」
「……はい、喜んで」
赤く頬を染めながらもしっかりと頷くイワンを、キースは嬉しい、嬉しいよとても、と言いながら胸の中にきつく抱き締めたのだった。
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+++END
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