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全く、信じられない!とアムロは顔から外したモノクルをクローゼットの上の定位置に叩き付けるように置きながら呟いた。
「ったく、話にならないったら!」
後ろから続いて部屋に入ってきたシャアが、ばさっばさっと脱ぎ捨ててはベッドの上や床に行儀悪く投げ落とされる服を拾い上げながら、窘めるように声をかける。
「まぁ、彼も若いのだから」
「若いから、じゃないだろ?!仕事は仕事だろ!恋愛感情持ち込むな、ってんだよ!」
青年は金髪の男の方を振り向きながらそう怒鳴って、収まりの悪い癖毛を掻き回した。
アムロがカリカリするのも尤もで、本日は一ヶ月後の式典の警備のリハーサルだったのだが、ギュネイがなにやらクェスの御機嫌を損ねたとかで覇気が今ひとつ感じられず、パイロット初心者のようなミスを連発してしまったのだ。
あんなんだったら親衛隊に警備してもらうよりも俺とシャアが操縦桿握った方がまだましだ、とここの所山積みの公務の上に、更に頭の痛い問題を抱えることになったアムロの苛立ちは相当に募っていた。
親衛隊はシャアの直属で、アムロは直接軍務には関わらないとはいえ、シャアの秘書官として、他部署からのクレームの間に立たなければならないことは目に見えている。
今日はもう仕事はお仕舞い、とばかりに堅苦しい制服を脱いでジーンズに履き替えて、着たい服が見つからないのか小さく悪態をつき、がりがりと親指の爪を噛む青年の肩に労るように手を置きながら、シャアがクローゼットから二つほど服の候補を取りだして手渡してやる。
「ありがと」
「どういたしまして。…制服はプレスに出しておくから」
拗ねたような態度のままのアムロに微笑みを浮かべたその後で、シャアはふと思いついたように悪戯っぽく笑いながら聞いた。
「アムロ、君は恋をしたことがないんじゃないか?」
「自分があるような口振りすんのやめろ」
その、揶揄するような問いかけに、アムロが眉を顰めて金髪の男を睨み付ける。その後で、僅かに挑戦的に顔を上げ、ふふんと鼻で笑いながら返事をした。
「大体、恋くらいしたことあるに決まってんだろ、俺モテたんだぜ?」
「それはそれは。―――人は喉元過ぎるとその熱さを忘れるらしいな」
「嫌味っぽい言い方すんなよ。それに、俺はそれを仕事に響かせたことなんかない!」
心構えの話をしてるんだ、と未だ収まらないらしいアムロに手を挙げて分かった分かった、と言いながら、シャアがすい、とその秀麗な顔に微笑みを浮かべて青年の顔を覗き込む。
「では、聞いていいか」
「なに」
間近に近付かれ、琥珀の瞳に僅かに動揺の色を浮かべるアムロに、シャアはあくまでにこやかな表情を崩さないまま問いかけた。
「君が今、ここにいるのは…私の元にいてくれるのは、何故だい?」
アムロは一瞬虚をつかれたようにぽかんと口を開け、次いで真っ赤になった。
「そんなもん―――…」
そして、どちらを着ようか迷っていたらしいTシャツの片方をシャアに叩き付けながら言い放った。
「し・ご・と、ですから。後は自分の利益!!自惚れるな、バカっ!!」
「私は何も言っていないが」
「目が口ほどにモノ言ってるんだよ、スケベな目つきしやがって」
「それは少し酷くないか、アムロ。しかし、君本当に少し痩せたな。今夜は何か美味しいものでも食べに行くかい?」
「やかましい、あなたもさっさと着替えろよ、じゃあ!」
悪態をつきながらTシャツを頭からもごもご被るアムロに向かって、シャアがとどめのように尋ねる。
「ギュネイは許してやってくれるかい?」
「ああ、ギュネイがどうこうじゃなくて、その親玉の再教育が必要なんだってことが、たった今分かったからな!」
公私混同はあんたのお家芸だった、そういえば!とブツブツ言いながら荒っぽく自分の服を選んでいるアムロに、それじゃなくもう一つ向こうのシャツを取ってくれ、などと指示を出しながら、シャアはここで笑い出したらこの週末は口をきいてくれなくなるだろうか、などと考えながら、必死で口元に浮かんでくる笑いを噛み殺していた。
(色々と、楽しい週末になりそうだなアムロ・レイ)
さて、何から問い詰めてやろうかと考えながら、シャアも制服の深紅の上着をゆったりと脱いだのだった。
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+++END
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