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There’s no escape
I can’t hide
I need a hit
Baby, give me it
You’re dangerous
I’m lovin’ it
Too high
Can’t come down
Losing my head
Spinning ‘round and ‘round
Do you feel me now
*:*:*:*
何度も繰り返してすまないが、アムロ・レイという人間は総じて家事の類が全く出来ない人間である。
いつもいつも本当に心底不思議に思うのだが、出来ない…というよりは全滅、とか壊滅、というか頼むから興味を持たないでくれというか…。
という恒例の解説を付けたところで、今回は私がそもそも何故アムロに家事を触らせなくなったかの大本の事件について語りたいと思う。
あれはまだ、確か…二人きりで生活を始めて間もない頃の話だった。
*:*:*:*
その日、私は非常に珍しく熱を出して寝込んでいた。しかも結構な高熱で、意識も半ば朦朧としていた。
アムロは当然のように心配して(言いたくはないがなぜ風邪をひいたかというとアムロが面白半分で作り上げたセキュリティシステムが誤作動して、ちょっと庭に出ただけなのに家に入れなくなった上にスプリンクラーまで作動してずぶ濡れになり。なのに作った本人はご丁寧に携帯の電源を切って遊びに行っていたのでそのまま薄着で濡れ鼠で肌寒い屋外で過ごす羽目になったからなのだが)、ずっと付ききりで看病をしてくれていた。
熱を持つ額を氷水に漬けて絞ったタオルで冷やし、それを何度も交換する。脇に座りっぱなしのアムロを心配して、私は薄く目を開けた。
全身が怠い。けれども、視線が合うとアムロがほんのり微笑んでくれたので、それはそれで幸せな気分になることは出来た。
そういえばお腹空かない?とアムロがふと聞いてくる。私は首を横に振った。
「いや…。」
「でも、食べなくちゃ薬も飲めないし、何かお腹に入れた方が良いだろ。」
言いながらアムロは腰を浮かせた。私のまだ熱い頬をひんやりとした手の平でひと撫でする。
「待ってて、何か作ってくる。ミルク粥でいいかな?」
「ああ、なんでもいい…。」
「分かった、任せろよ。これでも化学の実験は得意だったんだ。家庭科は苦手だったけど。」
「……化学?」
「俺、つき合ってる相手に対しては「手作り乙女系」だから。尽くしちゃうタイプなんだよなぁ。」
「………尽くす?」
何だか色々山のようにツッコミを入れたい台詞を聞いた気もするが、熱の所為で意識が朦朧としている私はとりあえず口を噤んだ。
アムロは鼻歌を歌いながらキッチンの方面に消えてゆく。
「待ってろよ、すぐに作ってくるから。」
「………ああ。」
私の頭の中をテンポイント活字の勢いで「嫌な予感」という単語が過ぎっていったことは、想像に難くあるまい。
怠い上半身を起こし、アムロの後ろ姿に問いかける。
「ところでアムロ、ミルク粥の作り方を…その、君は知っているのか?」
アムロはにっこり笑って振り向いた。
「ええと、ミルクで米を煮込めばいいだけだろ?簡単簡単。」
いや、まぁ、確かに端的にはそうなのだけれども。…まぁいいか。アムロが作ってくれたものならば、この身が多少痛んだとて、完食して見せようではないか。悲壮な決意と共に、私はまた枕に頭を落とした。
そのまま、また暫くとろとろとしていたらしい。目を覚ますと、枕元に相変わらずアムロが座っていてくれた。流石に幸せな気分になって、微笑みかける。
「…ずっと着いていてくれたのか?」
「うん。」
アムロが微笑み、私の額に掌を当てて熱を計ってくれる。
「少しは下がったのかな、熱。」
「アムロがずっと側にいてくれたから、だろう?」
「…ばぁか。」
それでも嬉しそうに微笑んで私の頬を撫でていたアムロが、はっと何かに気付いたように立ち上がる。
「あ、しまった!俺、台所で鍋、かけっぱなしかも…!!」
シャアの寝顔に見とれてたしー!と慌てたように出ていこうとするアムロを、私はやんわり引き留める。
「まぁ…いいよ。特に腹が減っている訳じゃない。」
それよりも側にいて欲しい、と囁くと、アムロがほんのり頬を染める。
「だけど…何か喰って栄養付けないと…。」
「アムロが着いていてくれればじきに元気になれるよ。」
「調子のいいことばっかり言うなよな。」
言いながら、アムロはいつもとは反対のように私の額をぴん、とその器用な魔法の指先で弾く。
あの指先から、本当に、名指揮者のタクトのように色々なものが産み出されるのだ。ハロとか、νガンダムとか、熱に浮かされながら、そんなことを益体もなく思う…。
「私は…アムロの指が、本当に好きだな。」
つい呟いてしまうと、アムロが瞬時に真っ赤になった。
「ちょ…あ、あなた、マジ熱上がってないか?!急になに言い出すんだよ!!」
「うん…いつも思っていることなのだけれどね。」
くすりと微笑むと、アムロはふい、と余所に視線を逸らす。そして、ばっと立ち上がった。
「お、俺、台所に…!!」
言いかけて、アムロが急に立ち止まる。そのままうわぁ、とかやべぇ、とか妙な悲鳴を上げたので、私は重い頭を動かしてそちらを振り向いた。
「どうした、アム……。」
名前を呼びかけて。
次の瞬間、額のタオルが落ちるのも構わずに私はがばっと上半身をベッドの上に起き上がらせていた。…そこには。
寝室の戸口には。
黒いにょろにょろが。…いや、なんというか、そうとしか表現の仕様のない謎の物体が、何匹もこちらを覗き込んでいた。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????????!!!!!!!!!!!』
実に情けないが、その瞬間私が心の中で挙げた声にならない悲鳴は、『ジオンの赤い彗星』の名には相応しくないものであったに違いない。
しかし。
しかしだよ!普通、驚くだろう!跳ね起きるだろう!悲鳴も上げるだろう!大の男でも!!!
言葉もない私を余所に、アムロがぽりぽりと頭を掻いた。彼は存外冷静だ。
「あ、やばい、お粥火にかけっぱなしだったからなー。」
その言葉に、私が焦ってアムロを振り向く。なにを突拍子もないことを言い出すのだね、君はっ!!
「いや、いやいやいやいやっ!!!アムロ!!普通ミルク粥を火にかけっぱなしにしても、出来るのはお焦げだぞ?!」
「いやだから、できちまったんじゃん、お焦げ。」
「あの物体の一体何処が「お焦げ」だっっ!!!言ってみたまえっ!!!!」
指差すと、黒い謎の物体達は照れたように身体をくねらせた。
―――不気味だ。はっきり言って不気味だ。
私も今まで戦場を渡り歩いて、想像を絶する光景というのは数々目にしてきたつもりだが、今回のは想像を絶するというか既に異次元の出来事だ。
なんというか…人外魔境の支配する域に遂に片足突っ込んだかと、熱に依らない目眩を起こして再び寝台に突っ伏して夢の彼岸へ逃避しようか真剣に悩む私の前で。
アムロは、事も無げに微笑んだ。
「ごめんねー、今片付けるからね。」
「………か、片付けるって。」
―――やめたまえ、君が喰われるぞ、アムロ!!
その私の制止の声と腕は彼に届かなかった。アムロは立ち上がり、彼曰く『お焦げ』達を睨み付ける。
「お前達、大人しく台所で溜まってれば良いものを、シャアの熱が上がっちゃうだろ?!」
―――いや、アムロ、そーゆー問題では、既に…。
「…消えろ!!」
アムロが気合いの入ったプレッシャーと共に叫ぶ。
謎の物体達はそれで泡を食って逃げ出していったようだったが。
同時に、その特大プレッシャーに当てられてしまった私も、意識を失ってベッドの中に倒れ込む羽目に陥ってしまったのだった……。
*:*:*:*
翌朝目を覚まして、何事もなかったようにアムロにおはよう、今朝は朝食、失敗しないからね、と爽やかな笑顔で微笑まれ、己の身の保身にも命の安全のためにもなにが何でも今日中には体調を完全に戻さねばなるまい、と私が誓いを新たにしたのは言うまでもないことだろう。
まぁでも、こんなアムロとのスリリングな生活も慣れてしまうと中毒のようなもので、アムロが次に何をしでかすか実は結構楽しみにしていたりする私もいるから始末に負えないのだが。
彼の指は魔法の指…というよりは、魔法使いの杖のようだよ、全くね。これからも私を精々その指先で踊らせて欲しいものだ。
ちなみに、この手記を読んだカミーユは『シートン動物記ですか?僕、狼王ロボ好きでしたよ、そういえば。ずっと観察日記つけてると情移りますよね、分かります、大尉!』などと失礼なことを抜かしていたが、何故か私は大っぴらに反論できなかったことを付記しておきたい。
ところで君、私はこれは惚気のつもりなのだが、一応。…どうなのだろう?
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With a taste of your lips
I’m on a ride
You’re toxic
I’m slipping under
With a taste of poison paradise
I’m addicted to you
Don’t you know that you’re toxic
And I love what you do
Don’t you know that you’re toxic
*:*:*:*
ところで、余談になるが…。あの『お焦げ』たちは今、一体何処でなにをしているのだろう……。
もしも見かけたら、ラー・カイラムのアムロ・レイ大尉の所まで一報をお願いする。
……ほら、もしかしたら…君の後ろにいるかもしれないじゃないか?