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>>>【ふがいないや】
「……あら?」
「おや?」
互いにグラスを手にした男女は、顔を合わせた瞬間に顔を顰めたが、すぐに取って付けたような笑顔を浮かべた。
「今日は本当にお疲れさまでした。とても素晴らしい演説でしたわ、クワトロ大尉、いいえ、シャア・アズナブルとお呼びした方がいいのかしら」
「なに、ベルトーチカさんのサポートがあったから心おきなく演説を終えられたのだ。感謝しているとも」
「心にもない感謝の言葉をありがとうございます。明日には宇宙に帰られるのでしょう? 残念だわ」
「邪魔者が消えて嬉しそうじゃないか。アムロ大尉と仲良く過ごしたまえ」
「言われなくても!」
カチンときた表情で柳眉を吊り上げた金髪の少女は、すぐにでもね、と得意げに鼻をつんと上向けた。
「私はさっきアムロにご褒美はもらったもの、クワトロ大尉が少しくらいアムロと話をしていても、子供みたいに咎めたりしないわ。最後の夜、ですものね」
「子供だましのキスひとつ、かね?」
「なんですって!?」
クワトロの小馬鹿にしたようなもの言いに、ベルトーチカが食ってかかる。クワトロは手にしたグラスを揺らしながら、先程アムロと話をしたがね、と始めた。
「初めて落ち着いて彼と話をした気がするよ。……この作戦の前も後も、彼とは通じ合う所が多かった。過去のことなど流して、今夜はゆっくり飲もうと話をしていたところだ」
言いながら、ぺろりと薄い唇を舐めた赤い舌に、ベルトーチカは思わず目を奪われ、次いでぞっとするものを覚えた。この男が本気になったら、まだ長い眠りから目覚めたばかりのアムロなど、簡単に取り込まれてしまう。
ここは、なんとしても自分が守らなければ。
健気にもそう心に誓ったベルトーチカは、毅然とした青い瞳で金髪の男を睨み付け、アムロは行かないわ、と言い放つ。クワトロは鼻先でその言葉をせせら笑った。
「残念ながら、既に彼は私の部屋にいるよ。私は飲み物を取りに来ただけでね」
小脇にたばさんだ酒のボトルを示すクワトロに、ベルトーチカは慌てて会場内にアムロの姿を探したが、どこにも鳶色の髪の青年の姿はなかった。
「……嘘よ、ちょっと席を外しているだけだわ」
負け惜しみめいたベルトーチカの言葉に、クワトロがおかしそうに喉の奥で笑う。
「それじゃあ、確かめに来るか? 私の部屋に、アムロが来ているか、来ていないか」
煽るような言葉と共にスクリーングラス越しに投げられた一瞥に、少女はごくりと唾を飲み込んで、胸を張った。
「……望む、ところよ」
言いながら恋人を守りたい一心で疑いもせず後ろに付いてくる少女に、クワトロは微かな含み笑いを漏らした。
無論、先程二人で話をしていて昔話に微かに触れたアムロが、クワトロの繋ぎによって通信室でアーガマのブライトと話し込んでいる最中である等ということは、ベルトーチカの与り知らぬクワトロだけが知っている話であった。
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...end.
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