誰かが誰かを愛してる

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『帰れなくてすまんな、これが終わったら、今度こそ休みを取ってみんなで旅行に行こうなぁ』

 そんな驚いた顔するなよ、そっくりだろう? これでもこの物真似に関しては定評があるんだぜ。主在宅の家で家族の前でやって、好評を博したことも何回かあるんだからさ。本人は眉間に皺寄せてたけど。

 少しすまなさげに通信回線の向こうの相手に向かって頭を下げながら言うのが口癖だった。相手が画面上に居ても、居なくても。いつでも最後にはそう言いながら、頭を下げるんだ。

 今でも鮮明に思い出すことができる、俺の大好きな人の話を今日はしようと思う。


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 最初は、なんて嫌な奴なんだろうと思った。横柄で高飛車でさ。いや、そんな驚いた顔しなくてもいいだろ。

 だってそうだろ、俺ただの子供だったんだぜ? そりゃ、親父はガンダムの設計をしたかもしれないけど、そういう話じゃないだろ? あなたがジオン・ダイクンの息子だからって、親父さんと同じことをなんでも出来た訳じゃないのと同じさ。

 え? 同じじゃない? 私は超えてみせた? 言うようになったね、あなた大概。どの口がそんな大きいこと叩いてるんだか。それじゃ、どこを越えたんだよ、言ってみろよ。

 はぁ? 『良き伴侶との幸せな余生』? そんなもの何処にあるんだよ。俺には見えないぞ。第一あなたの親父さんは子供が二人いたけど、あなた独身の上に子供もいないじゃないか。少なくとも認知してるのは。

 あ、その顔。俺が知らないとでも思ってたか?
 ほらほら左舷弾幕薄いよ、なにやってんの!

 ちょっと、なんでそこで笑うんだよ、そんな似てたか? 今のは意識しないでやってたんだけどなぁ。

 言うなよ、移るんだよ。俺どれだけあいつの下にいたと思ってるんだ? ジュドーだっていいとこ移ってたじゃないか。汚染力激しいんだよな、結構。

 あ、……そうか、あなた、ジュドーに会ったことないんだっけ、ジュドー・アーシタ。ZZに乗っていた。

 直接は知らない? そうか。……いや、なんとなくあなたに似ているかな。良い子だよ、妹想いでね。
 って、どうしてそんな嫌な顔してるんだよ。

 それで、そうそう、俺めちゃくちゃ怒鳴られるし殴られるし、軍隊ってなんて嫌なところだろうって思ったよ。後ろから『ジオンの赤い彗星』は追いかけてくるし。

……は? 今でも追いかけているつもり? 寝言は寝てから言ってくれ。墜ちた彗星の癖に。それで、俺親父にも殴られたことなかったのに、ガンダムに乗りたくないって言っただけで張り飛ばされて。

 だから、どうしてそこで笑うかな! なんであいつの方に同情するかな!

 ったく、話続けるよ。で、結局そういう融通の利かない頑固で熱血な所は最後まで変わらなかったけど、そのお陰かいっつも貧乏籤引かされて、妙なところばっかり生真面目で。

 分かるって? ああそうか、あなたもアーガマで一緒だったんだな。あなたみたいなのが居たんじゃ、さぞ手を焼いただろう。

 そんなことはない? カミーユ・ビダンよりマシだ? あのさ、十も下の新兵と張り合ってどうする気だったのさ『クワトロ大尉』。

 それはさておき、すごい奥手でもあってさ。よくミライさんと結婚できたなと思うね。ミライさんてさ、モテてたんだぜ? 婚約者もいたんだよ、カムラン・ブルームって名前だったかな。

……え? なんであなたがカムランさんの名前知ってるのさ。しかも、会計監査局に居たことまで知ってるのか?

……あー、はいはい、内緒ですか。その内絶対話して貰うからな。

 でもって、奥手の癖にハニー・トラップなんかには結構引っかかりそうな奴だったんだよ。
 あれ?また妙な顔しているな。 意外か? 知らないだろ、あいつって結構モテてたんだぞ、少なくとも俺より。結婚してからその手の話は減ったみたいだけど、なんせほら、士官学校出で一年戦争のホワイトベースを最後まで支え切った艦長だからな。

 うそ、カミーユのやつ、初対面でサインねだったのか? あなたさぁ、そういう美味しい話はもっと早くに教えてくれよ、からかってやれたのに。

 それで、ミライさんにはその時、好きな人が居たんだけど。戦争で死んじゃって。俺はガンダムで出撃していたから知らなかったけど、ホワイトベースの操舵手だったミライさんを、出撃直前にその人の所に行かせたって聞いたな。

 うん、そうだな。誰だって、死ぬんだよ。

 あなたと、……ララァと、初めて出会った、すぐ後のことだよ。俺はあなたのこと、知っていたけど。あなたはまだ俺のことを知らなかった。そんな時代の話さ。古い話だよ。

 は? 『君に昔話をされるようになったらおしまい』だって? あのな、俺もあなたももう想い出を語ってもおかしくない年だっての。なんかさ、色んなことを思い出すようになったよ。辛かったことや、嫌で堪らなかったことも多かったんだけど。今は、どうしてかな。どれもすごく、……思い出すことが、愛おしいような、そんな出来事に思える。

 あ、でも、さっき言った、いきなり殴られたことはまだ思い出したらちょっと腹は立つかな。

 え?

 ええーっ、ちょっと、ガンダムを持ち逃げって、人聞き悪いこと言うなよ、ていうか、なんであなたがそんなことまで知ってるんだよ!……って、喋る人間なんか一人しかいないよな。もしかして、アーガマで俺をネタに飲んだりしたろう。白状しろよ。

 うわ、感じ悪い。ニタニタ笑いやがって。スケベっぽいから止せよ、その顔。なんだよ。まだ何を隠してるっていうんだよ。ていうか、ロンド・ベルで血眼になって捜してたときに、あなた何度かあっちには接触しただろう。

 ほら、俺は何でも知ってるって言っただろう? そんな顔するなって。振られたんだって? ざまぁみろって感じだな。

 悪いけど、俺達からブライト・ノアは奪えないよ。

 でも、ちょっと妬けるよなぁ。俺じゃなくてブライトをスカウトに行くか? 普通。将を射んとすればまず馬って、昔からよく言うだろう。

 ああ、確かに、俺達じゃなきゃ、アクシズは墜ちてるな。……こら、馬がじゃじゃ馬過ぎるからまず将から行ったって。それどういう意味だよ。

 ほんとに、不謹慎な奴。……ああ、俺もか。俺もだな。そうだな。

 やっと、『過去』にできそうかな、お互い。

 うん、でも、会いたいよ。正直な話、会いたいなと思う。同じだろ? あなただって会いたいんじゃないのか、もう一度。なんていうか、さ。無性に話がしたくなるんだ。自分の話を聞いて欲しいって、そう思うことはないか。
 ああ、そういえばあなたは自分の方が年長者なんだっけ。そうは見えないよな、あっちには悪いけど。正直なこと言って。ああ、でも。

 会いたくなる、よなぁ。

 会いたい、よ。もう一度。いつか、死ぬまでには、さ。

 え? 妬ける? よくいうよ、あなただっていい加減彼と過ごした時間は長かった癖にさ。
 結構好きだったんだろう? 彼のこと。照れることないじゃないか、言ってしまえよ。ほら、白状しろ。

……言うかね、そこで本当に。ぬけぬけとよくも。

 ああ、妬いたよ、妬きました。
 笑うなよ、ったくもう。でもさ、なんかちょっと、共有するものがあって嬉しいな。また、聞かせてくれよ。あなたが知ってるブライトの話。あなたしか知らないブライトの話。

 やっとそういうのが穏やかに話せるようになったんだから、お互いに。

 沢山話をして、沢山の思いを抱えて。それをいつか、届けられるといいな。絶対、変わらずに俺達のことを思ってくれているだろう、あの優しい人の所に。会いに行こう、話をしに行こう。

 幸せだって、言えるといいな。そして、幸せかって聞けると、いい。

 きっと、いつか。さ。







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この思いが、哀しいと、惜しいと私が、鈴置さんを大好きだったみんなが思った祈りが、
鈴置さんに伝わりますように。新しい居場所が優しい場所でありますように。

 

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