「Who knows? Only time」




 そのはじまりは一本の電話。―――ジリリリリン。

『もしもし、ニュータイプいりませんか?最高級、とても優秀、感度抜群!これであなたの軍隊の勝率アップ間違いナシ!』

 がちゃん。

 この忙しいのに何の冗談だと腹を立てて電話を切った。
 その後でふと受話器を見つめて薄ら寒さを覚える。どうして、この番号を知っている?

 調べた?まさか。ランダムでかけてきた?まさか?!ネオ・ジオンの総帥執務室直通電話に?

 考えた瞬間、また電話が音を立てる。ジリリリリン。みっともなく飛び跳ねたりはしなかったが。
 アンティークが好きだからとわざわざ骨董市で発掘して持ってきて修理して取り付けた阿呆、―――紛れもない自分のことだが、にかなり深刻にうんざりしながら受話器に手を伸ばした。

『もしもし、ニュータイプいりませんか?最高級、とても……』

「悪いが、私もニュータイプでね。そんなものはいらんよ。どうしてもというのならば、アムロ・レイでも用意するのだな」
 相手の話を遮って、言い放つ。無論本気などではなかった。しかし。

『かしこまりました。アムロ・レイをご所望ですね?それでは直ぐにお届けいたします』

 これには、過ぎた冗談にしてもぎょっとした。二の句が継げないで居る内に、電話は向こうからがちゃりと切れる。

 無情に通話終了音を立てている受話器を見つめ、私は思わず、これは冗談だ、もしくは白日夢に違いないと呟いた。

「そうに決まっている。でなければ、アムロ・レイが私の所に届くなど」

 コンコン、とノックの音がする。ぎょっとして振り返ると、入室の許しを待たずに間髪入れずドアが開いた。

「シャア、入るよ。―――何鳩が豆鉄砲食らったような顔してんだ?」

 そこでくるりと琥珀色の瞳を戯けたように回すのは、紛れもなく、あの赤味がかった鳶色の癖毛は、見間違うはずがない、私が。

「あ、アムロ・レイ?!」
「はーい、そうですよ俺がアムロ・レイですよ」

 ふざけた調子で言いながらアムロはつかつかと私の側に歩いてくる。

「はい」
「?」

 ぐい、と着ていたハイネックの服の首の所をぐいと引くので服が伸びるんじゃないかと余計な心配をしながら、私は首を傾げる。アムロはリアクションを起こさない私にじりじりと焦れたように、もう一度ぐいとその白いすんなりとした首筋を差し出した。

「受け取りの、判子!あなた俺を所望したんじゃなかったのか?」
「ああ」

 戸惑いながらじっとアムロの細い首を眺める。女性のように滑らかで染み一つない。判子だと?ここに?
 ペンでサインでもすればいいのか、拇印か、と考え込む私の臑を、出来の悪い生徒を眺めるような目つきで睨みながらアムロが蹴り飛ばした。

「痛いじゃないか!」
「ったりまえだ!鈍いよあんた!」

 言われ、その真っ赤な顔で気付いた私はああ、と納得してアムロの華奢な身体を引き寄せ、その首筋に唇をつけ、やや強く吸い上げる。アムロがん、と軽い呻き声を上げた。唇を離すと、紅い痕が散る。まぁ、確かに印章の様だなと一人ごちてアムロの体を離した。

「これでいいのかね?」
「うん、それじゃ」

 もう一度、ぽすんと私の腕の中にアムロがもたれ掛かってくる。

「ありがとねー、シャア」
「?」

 礼を言われる覚えなどない私が、にこにこと満面の微笑みを浮かべるアムロに首を傾げていると、アムロは私の腰に腕を回しながら続けた。

「あなたがニュータイプじゃなくてアムロ・レイが欲しいってちゃんと言ってくれたから、俺悪い魔法使いの呪いが解けて帰って来られたんだ」
「………」

 アムロ以外の人間が言ったのならばパラノイアを疑うところだが、私は喉元まで出かかった大丈夫か?という台詞を呑み込んでこっくりと頷いた。


「お礼に俺、あなたと結婚してあげる」
「―――…嬉しくは、あるが」

 いや、それは、有り難いのだが。十四年も前から私は君に焦がれていたのだし。しかし、何故今になって、急に?

 余程不審そうにしていたのだろう、アムロは私の表情を見ると苦笑して伸び上がってキスを一つ。

「シャア。―――"Who knows? only time,  Who knows? ...Nobodyknows."」
「アム、ロ」
「今までは刻が俺達を見張ってた。でももう、それも、その輪からさえも…外れたから」

 その言葉を聞きながらアムロの瞳を見つめていると、琥珀色がどんどん深くなって、キラキラ輝きだして黄金色に近くなって、それは熱のようで炎のようで刻の一瞬の煌めきのようで、―――――ああ。
 いつの間にか私達の周囲からはネオ・ジオンの執務室は消え、満天の星空が足下に広がっている。炎を吹いているのは、アクシズだろうか?
 思い出した?シャア、とアムロが微笑んで巻き付く腕を強めてくるのを、今度は迷わずに抱き締め返す。

「誰も知らないところに行こうよ」

 誘うような甘い声にしっかりと頷いて、泣き出しそうな笑顔のアムロに微笑みかける。

 誰が知っている?―――これからは君だけだ。




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