「どんなに遠くて長い道も」




 ひとつの小さな約束ができるといい。

 あなたと。

『アムロ、いつか一緒に宇宙に上がれるといいな』

 そんなたった一つのちっぽけな約束ができればいい。

 そうすれば、どんな遠くて長い道も光を失わずに行けるのに。


「それじゃ、アムロさん」

 カミーユが挨拶にやってきた。わざわざ部屋まで来なくてもいいというのに、律儀なことだ。
 だからつい、聞かなくてもいい余計なことまで聞いてしまう。

「ああ、宇宙へ行っても元気でな。…クワトロ大尉は?」
「大尉なら、百式のチェックをするって先に行きました」
「そうか」

 ほろ苦く笑ってカミーユの肩を叩き、君なら俺よりずっといいパイロットにも、ニュータイプにもなれるからがんばれ、と励ましの言葉を贈った。

「アムロさんを超えるなんて無理ですよ、絶対」
「そんなことはないさ。俺は君の年にはもう、戦争を経験して、終わっていた。だからそんな風に思うだけだ」

 微笑んで、ふと俺と彼は五つしか違わないのだということに気付く。
 聞いているのが本当なら、丁度俺とあの人との年の差と、同じくらいか。

―――俺があの人に初めて出会ったときと、同じように感じているのだろうか。

 思ってから、そんな訳がないと感傷的な想像を首を振って打ち切る。
 そもそも、自分はあの男とは敵味方に別れて出会っていたし、こんな風に語り合うこともなかった。

 けれどもおかしな事に、アムロにとって導き手というものがもしもあったのなら、それはシャア・アズナブルという男の存在であったし、それ以外に考えつくような人間は一人も居なかった。

「顔も見たことがなかったのにな」
「え、なんですか、アムロさん」
「いや」

 思わず呟いた言葉をカミーユに拾われ、アムロは笑って誤魔化した。
「そろそろ時間だろう、さぁ、行こう。すんなりと宇宙に上がらせてくれるような状況じゃないんだからな」
「うわ、プレッシャーかけないでくださいよ、アムロさん」
「大丈夫だって、カミーユももう一人前の立派な戦士だろう。ちょっとは自覚を持った方がいい」
 アムロが言うと、カミーユが何故かくすりと小さく笑った。

「…なに?」
「いいえ、今の言い方、クワトロ大尉みたいだなって思って」

 言われて、アムロははたと口元を抑えた。

「げ、嘘だろう?」
「本当ですよ、ちょっと説教臭いところなんか瓜二つです」
「嬉しくないなぁ」

 肩をすくめてみせながら、アムロはさぁ、早く行こう、二人してそのクワトロ大尉から本当のお小言をもらっちまうぞ、と少年を促した。

「そうですね、行きましょう」

 言った後で、カミーユがはたと思いついたようにアムロを振り向いて微笑む。

「でも、今じゃなくて、ずっと先でも良いですから、いつか、…いつかアムロさんと宇宙で逢えたら素敵だな」

 アムロはその言葉には返事をせず、ただ少年の肩を叩いて先へ進もうと促しただけだった。

 何故ならば、それはアムロの欲しい約束ではなく、アムロが約束を欲しい相手にその事を告げるには、アムロ自身が自分を相応しい存在ではないと感じていたからで。

 それまでは、とアムロは隣のカミーユにさえ聞こえない小声でそっと呟いた。

 それまでは、遠くて長い道を一人手探りで進むことになるのだろう。輝ける黄金の光が見えるまで。

 そんな風に考えるアムロはこの時点ではまだ、クワトロ・バジーナと名乗る男との間に、ささやかな約束が成り立つと、確かに信じていたのだった。

 長い道のりの果てに、独りで宇宙に戻ることになるとは露程も思わずに。




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