「這い上がれ 俺よ この闇にすがっても」




 ピ、ピ、ピ、と計測器の規則正しい音が聞こえる。

 それだけが僕を取り巻く世界の全てになっていた。

 いつの間にか、細くなってしまった腕には何本も管が刺さっている。あかいのや、あおいの、とうめいなの、きいろいの。

 でも、それもみんな何をするためのものなのかは僕は知らない。説明はされたけれど、忘れてしまった。

 終わりのない、白い闇。それでも、規則正しい電子音は意識を飛ばすことさえ許してくれない。耳に付くんだ、うるさい、止めて、と言ったけれど無視されてしまった。

 ここでは、誰も僕の言う事なんて聞いてくれない―――――

「ブライトさぁん」

 決まり事のように、耐えきれなくなった僕は声を上げた。

「フラウ・ボウ、ハヤト、ミライさん、カイさん、セイラさん、マチルダさん、リュウさん、スレッガーさんっ、…」

 思いつく限りの人名を挙げる。生者も死人も等しく。遠く遠く遙かなものになりつつある記憶を失うのを恐れるように。

「とぉさん、かぁさんっ、…っっ――――――――――ララァ!」

 闇雲に叫び、無数のコードが巻かれた腕で空中を掴む。だれか、ひとりでいいんだ、だれでもいい、来て、ここに来て。

 僕の所に来てよ、誰か、誰か。僕が壊れないでここから出られるために、だれか!

 その瞬間、アイマスクのようなもので強制的に閉じられている瞳の裏が、深紅の色に弾けた。

「――――――――――シャアッ!!」

 ピ、ピ、ピ、ピ、と計測器の音が忙しくなる。全身がかぁっと熱くなって、叫びたい。


「シャア、シャアッ!!」

 喚き続けると、ドアが開く音がして何人かの人間が走り込んでくる音がした。

「被験者の心拍数が急上昇しています」
「血圧を上げすぎたか?」
「しかし、少し前までは安定していたのですが」

 だれも、僕の言葉なんて聞いていないから僕がどうして急にこんな風に昂奮したのか分からないようだった。
 腕にちくりと痛みが走って、注射をされたのだと、理解、す、る―――頃には、――意識が、沈――――――……

 そして何も分からなくなった僕の弄くり倒された脳細胞が、息を吹き返したのは暫く後になって、打った音波が弾かれて返ってきたように脳裏に閃いた赤い信号の為だった。

『―――アムロ?アムロ・レイなのか?』

 不思議で堪らない、という思惟。それだけでも、久しぶりに呼ばれた僕の名前に、はらはらと涙が零れる。

「シャア、…シャア」

 顔もろくに知らないけれど、きっと逢えば分かるに違いない。こんな鮮烈な意識を持った人を、間違える筈がない。

「いつか、会いに行くから」

 ぐっと拳を握りしめる。それはお笑い種な程の力しか入らないものだったけれど。

 僕は、…俺は。這い上がってみせよう。この白い闇に縋りついてでも。




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