「ジレンマに叫ぶ声」




 あなたにいいたいことがある。

 あなたにふれたいときがある。

 あなたにあいされたいことがある。

 あなたが、あなたも、あなたから、あなたへ、あなたは、あなたに。そう、あなただけに。

―――シャア。

 名前を呼んだ瞬間、俺の世界は回転を始める。

 溢れるほどの赤い洪水に巻き込まれて、息を上手に継ぐこともできない。

 赤い、のは、愛しているからだ。

 焼け付くほど、身を食い破るほどに身体を貪り、互いに境界もないほど溶けあって燃え尽きてしまいたい。

 赤い、のは、憎んでいるからだ。

 心の蔵を撃ち抜いて、もう二度と誰もその心に宿すことはないようにしたい。

 どうしてこんなに、あなただけが愛しいのか。

 どうしてこんなに、あなただけが憎いのか。

 愛憎は表裏一体だと言うが、そんな近い感情じゃない。ふつふつと沸き上がり、背筋を駆け昇り、ぶるりと体が震える。

 いっそ叫んでしまいたい。

 世界よ、その男は俺のものだと。

 余りに凶暴な赤色に、世界の方が恥じて夕陽の如く姿を隠してしまう前に。

 だけれども、想いは秘めておかなくてはならない。

 何故ならば、あの男をいつか殺すのも、他ならぬ俺の手でなくてはならないと決めているから。

 二律背反する気持ちに散々苦しめられながら、それでも。

 残酷なことに、俺達に与えられた決断する時間は、夕陽が落ちる僅かなそれよりも短いものでしかないことも、俺は知っていた。

 あなたがジレンマで叫ぶ声が聞こえる前に、俺があなたのその声を断ち切ってやろう。せめてもあなたが迷わぬ様に。

 世界よ、その男は俺のものだ。




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