「変わらずにいられなかったこと悔しくて」




「ああーっ!」

 悲壮な声でアムロがバスルームで叫んだので、キッチンで夕食の後片づけをしていたシャアは洗いかけの皿をそのままシンクに放置して急ぎ足でバスルームに向かった。

「どうした、アムロ」
「シャ〜ア〜」

 ドアを開けた途端に殆ど半泣きのアムロが、ついでに服も着かけのほぼ半裸で抱きついてきたので、シャアは慌ててその青年にしては小柄な身体を胸で受け止める。

「一体何があったのだ、辛そうな声をして」
「シャア、俺、太ったかも」
「…はぁ?」

 咄嗟にアムロの言葉の意味が掴めずにいたシャアだったが、床の上に視線を落として何となく納得する。そこにはつい先日買い物に出かけた折りにアムロが買い込んできた最新式の体重計があったからだ。しかし、と同時にシャアは首を傾げた。

「君はそんな、嘆かなければならないほど太ってはいないだろう」

 いや、むしろ細すぎるくらいで、とシャアはついでに腕の中のアムロを体型を確かめるが如く腕を回して抱き寄せながら呟いた。
 しかし、アムロはいやそんなことはないと首を振る。

「太ったよ、体脂肪率がすげー上がってる」
「ああ…そっちか」
「このままじゃ立派な隠れ肥満になっちまうよ、どうしよう」
「運動すればいいじゃないか。だから私が普段から部屋に籠もるなとあれ程…」

 ふう、と溜息をつきながらついでに目に付いたアムロの濡れた赤味がかった鳶色の癖毛を被っていたタオルでわしわし拭いてやる。されるがままにしながら、アムロがでも、と珍しくぎゅうとシャアの背中に腕を回してきた。

「同じもん食って同じような生活してるのに、あなたが太らないのはなんでだ?」

 俺なんかちょっとぽよんぽよんしてきてるのに!ほら、と元々少年のように弾力のある柔らかさを誇る腹筋に触らせられ、普段通りだと言えば怒られるのだろうなと苦笑しながら、シャアはもっと怒られるようなことを口にした。

「そりゃ、私は君より背も高いし筋力もある。脂肪の燃焼効率が違うのも当然だろう」

「嫌味な人だなぁ、相変わらず」

 むー、と子供のように膨れる頬についひとつ子供にするようなキスをしてしまって、憤慨したアムロに殴られる前にひらりと体を離す。

「まぁ、良いじゃないか。私は君がどんな姿であろうとどうあろうと君が好きだよ」

 微笑んで言われたが、アムロは納得がいかないようだった。

「なーんか、嬉しいと思えないんだけど。そんなこと言われるとハゲデブメガネのオヤジになってやろうかなって気になるよな」
「どうぞ、なれるものなら」

 済まして言われ、今度こそアムロはその向こう脛を蹴り上げてしまった。

 決めた!絶対典型的中年オヤジになってやるんだからな!見てろ!と真っ赤になって宣言しているのに、シャアは笑っている。

 それも悔しかったのだが、それより。

 なによりも、アムロ自身がシャアがどう変わろうと、さっき自分で言ったように禿でデブで眼鏡の三重苦のオヤジに将来成ったとしても、―――ちょっと想像はつかないが、なったとしても。

 それでも同じように、変わらず彼のことが好きなのだろうと断言できる自分のことが堪らなく悔しく思えたからなのだった。




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