「衝動を飼い慣らすのは」




 唇を噛む。

 解いて。

 手の平を握りしめて。

 解いて。

 背骨の根本から這い上がる疼きに負けて、親指の爪を噛んだ。

 囓りながら、頭の中を空っぽにしようとする。

 元よりぎざぎざの爪の先は、既に噛む領域さえ無くなってきてしまっている。

 どこにも、逃げ場がない。

 息を深く吸い込んで、吐き出す。―――こんなものでいつまで誤魔化せるやら。

 この衝動を飼い慣らせるのはいつのことなんだろう。

 どうして俺はあの時、アルコールが入っていたとはいえ、あの人に、あの金色の髪と青い視線に魅入られたように、ふらふら着いていったりしたのだろう。

 求められるまま、身体を委ねたり、して、しまったのだろう。

「シャア、」

 さっき別れたばかりなのに、もう恋しがって啼いて震える身体の熱を持て余す。

 泣きながら、硝子の嵌め殺しの窓に手を付いて、こつんと額をつける。

 窓の外には、紺碧の青空。

 蒼穹の向こう、遙か遠い宇宙にあの人は旅だってしまった。旅立たせてしまった。

 次に逢えるのはいつのことだろう。

 次があるのか、と自嘲しながら、俺は早くも宇宙に着いていかなかったことを後悔していた。

 行く事なんて出来ない癖に。

 それでも、この魂が悶えてのたうち回るような身の奧の衝動でも。

 知らずに済んでいた方が良かった、とは思えないのだからどうかしている。

「シャア、抱いて」

 本人が居たのならば決して告げない台詞を戦く唇に載せ、ただ、男の名前を呼んだ。


 仮初めの姿ではない、アムロにとっての真実の名前を。

 まるでそれが衝動を飼い慣らせる、たった一つの呪文であるかのように。




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